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082_アレクサンダー・デーゼマンという英雄

 


 ウイルが登城してデーゼマン家の当主フォレストの隠居と嫡男アレクサンダーの家督相続を申請すると、別室に通された。

 家督相続は通常なら申請から数日、遅くとも十日ていどで受理されるため、別室に通されるとは思ってもいなかったウイルは困惑しながらも顔に出すことはなかった。


「お待たせして、申しわけないですな」

 部屋に入ってきたのは五十歳くらいの、小役人にしては身なりのよい人物だった。

「某、宰相府にて管理官をしています、ルドルフ・シュタウヘンベルクと申します」

 宰相府の管理官と言えば超エリートで、場合によっては大臣にもなろうかという人物である。

 なぜそれほどの大物がと思わないではないが、ウイルは自己紹介を優先することにする。

「デーゼマン九等勲民家従者、ウイル・ニクスと申します。管理官殿」

 ルドルフ・シュタウヘンベルクはウイルに座るように促し、自分も席についた。


「本日、お呼び立てしたのは、貴家によって申請された家督相続の件についてです」

「はい、伺います」

 ルドルフ・シュタウヘンベルクは頷き、話を進める。

「これは極秘事項です。ニクス殿からはフォレスト・デーゼマン殿、アレクサンダー・デーゼマン殿以外へは内密に願います」

「……承知しました」

 デーゼマン家に関する極秘事項なのかと、ウイルは訝しんだ。


「実を申しますと、現在、帝国に奪われた土地を奪還する作戦の準備が進行中です」

 ウイルとて国がそういった行動をとるのは、容易に考えつく。

 だが、そこにデーゼマン家の家督問題が絡んでくるということは、どういうことか? 考えられるのは……。

「アレクサンダー様をその作戦に参加させるということでしょうか?」

「話が早くて助かります」

 アレクサンダーが家督を継いでデーゼマン家の当主になると、軍を退役することになる。

 ウイルは顎に手を当てて考える。

「アレクサンダー様の家督相続は認められないということですか?」

「いえ、家督相続は速やかに受理されます。アレクサンダー殿は数日後にはデーゼマン家のご当主になられるでしょう」

「はて……。それならば、何ゆえ作戦のことを某に?」

 ウイルは頭の回転が少しは速いと自負しているが、そんなウイルでも理解が追いつかない。

「今回、アレクサンダー・デーゼマン殿のデーゼマン家相続を認めたうえで、軍にも在籍してもらいます」

「………」

「そして失地奪還作戦に参加していただくことになりました」

「なりました……?」

「陛下のご意思にて、そのように取り計らうことになったのです」

 ウイルは話の内容を飲み込み、理解した。

「アレクサンダー殿にはデーゼマン領へ入り、きたる失地奪還作戦へ備えてもらいます」

「……承知しました」


 ウイルは足早に城を出ると急いでデーゼマン屋敷へ戻り、フォレストにその旨を報告する。フォレストは腕を組んで頷くだけであった。

「いかがなさりますか?」

「家はアレクが継ぐのだ。判断はアレクがする」

「左様ですな……」


 その夜、アレクが屋敷に戻ってくると、軍務大臣より告げられた同じ内容をフォレストに報告した。

「アレクが当主になるのだ。お前が判断して対処するように」

 フォレストはウイルにも言ったことをアレクに言い聞かせた。

「僕が判断……」

 この1カ月ほどフォレストの隠居に伴う話し合いが行われていたが、まだアレクに当主になるという自覚はない。

 フォレストにしても杖は使っているが自力で歩こうと思えば歩けるし、アースリザードに乗れば足の不自由さなど感じさせず現役の武人として剣を振れる。


「ちょっと考えさせて……」

「よく考え、決めたなら後悔しないように全力を尽くすのだ」

「はい」

 王都のデーゼマン屋敷には、アレクとラーレ、フォレスト、マリアがいるが、今回はアレクが考えて決断を下さなければならない。

 アレクは難しい顔をして居間から自室に下がっていった。


「今回の陛下の考えは分からないではない。だが、特例を作ってまですることなのか? マリア」

 眠たそうに瞼が落ちてきているマリアを、フォレストが見た。

「それだけ本気。1年後は大きな戦いになる」

「大きな戦い? 失地奪還だけに収まらないのか?」

「多分」

「まさか失地奪還だけではなく、帝国領に攻め込む……。そのために備えなければならぬな」

「それもアレク兄さま次第」

「そうだな……」

 マリアは「寝る。おやすみ」と言って席を立った。

 フォレストはグラスの中に残っていた酒を一気に喉に流し込み、夜になって急激に冷え込んだことで灯した暖炉の火をグラス越しに眺める。


 新しい当主のアレクには厳しい戦いが待っている。

 そんな戦いをデーゼマン家の当主になるアレクに背負わせてしまう。自分の思い通りにならない足が恨めしい。

「俺の油断がアレクに重荷を背負わせてしまった……」

 自虐気味な笑いが出る。

 季節外れの寒さが膝をずきずきと疼かせる。


 

<<お願い>>

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― 新着の感想 ―
[一言] 素直に面白い。もう少し更新速度を上げてくれるとなお嬉しい。 他の人もいってたけど、デーぜマン家の功績は計り知れないのに特例(ほぼ強制的)って、、、 これは戦争後には莫大な報酬が必要でしょう。…
[気になる点] 階級が上がる以外何の利益もないし、昔から帝国に攻められた時や今回の戦争において進言無視、果てに指揮官(笑)からの自領への撤退なのに親父への殿命令。 今回の特例が通るだけでこれまでの待遇…
[一言] 転生や異世界物が流行る昨今、正統派の 英雄を描いているのが良いです。 応援致しております、これからも執筆活動 頑張って下さい。
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