080_帝国進軍
アレクは機甲科魔術部隊を率いて戦場を駆けた。
機甲科魔術部隊の機動力を活かした、高速移動しながら魔術筒から射出される魔術は帝国軍を翻弄するに足るものであった。
まさか高速で移動しながら魔術を撃ってくるとは思っていなかった帝国軍は機甲科魔術部隊の圧倒的な機動力と破壊力によって右翼の陣形を崩され、その隙を歩兵たちに蹂躙されていった。
帝国軍の右翼が瓦解したことで王国軍左翼は、帝国軍の本隊に横槍を入れることになった。
この時アレクが土魔術で発生させた巨大な落とし穴に、帝国軍本隊のほとんどが落下することになる。
帝国軍本隊は5メートルほど落下したことで、怪我をした者が多数、打ちどころが悪く死亡した者も少数だがいた。
しかも、逃げることもできずに落とし穴の中で右往左往するだけである。
本隊と連絡が途絶えた帝国軍全体が瓦解するのに時間はかからなかった。
追撃も足があるアレクの機甲科魔術部隊に有利に働き、多くの将兵を討ち取ることになったが、アレクの戦功はなんと言っても本隊を落とし穴に落としたことだろう。
「デーゼマン准将、よくやってくれた。貴殿の働きがなければここまで戦果を得ることはなかったであろう!」
ボリス・フェフナー大将は機甲科魔術部隊もそうだが、アレクの土魔術のすさまじさを目の当たりにして興奮が収まらない。
フェフナー大将は自身が妖精種風族ということもあって、魔法の知識は他者を凌駕する。そのフェフナー大将だからこそ、アレクの土魔術がどれほどあり得ないものなのか理解できたのだ。
「ありがとうございます、閣下」
軍幹部たちも半日の戦いでこれほどの戦果を得るとは思ってもいなかっただけに、英雄アレクサンダー・デーゼマンの噂が本当だと信じることになる。
8月13日になると、帝国と王国の休戦協定が結ばれることになる。
バレッド州全域、シュテイン州北部のほとんど、シュテイン州東部全域、シュテイン州南部の一部地域が帝国側に編入されることでの、1年間の休戦協定である。
アレクの活躍によって局地的には勝つことができたが、全体からすれば圧倒的な敗戦であった。
何よりへルネス砦を奪われたのはかなりの痛手であった。だが、補給や援軍がない状況で帝国軍の苛烈な攻勢を凌いで1カ月以上持ちこたえたのだからバルマー司令官や諸侯を責めることはできないだろう。むしろ1カ月もよく持ちこたえてくれたという意見のほうが多い。
王国にとって非常に屈辱的な休戦協定だが、今の王国に余力はない。屈辱でもこの条件を受け入れるしかなかったのだ。
城では連日、御前会議が開催されていて、休戦協定を交わしてもそれは変わりなかった。
「休戦協定は仕方がないとしても、これからのことを考えなければなりません。バレッド州とシュテイン州の多くを盗られたままでいいのですかな?」
いいわけがない。それを口にした細身で神経質そうなフラム・ダイケンス財務大臣もそのようなことは分かっている。
だが、奪われた土地をどうやって取り返すのかが、問題だ。
「土地を奪い返すのも大事だが、その他に問題があると思うのだが?」
背はそれほど高くないが横幅のあるマイヤー・ローレンス国土大臣が意味深な発言をする。
「それはどういうことかな、国土大臣」
今年の3月に外務大臣に就任した緑色の髪の毛をした四十代のボイド・クランプラーは、国土大臣を鋭く見つめる。
「何も難しいことではない。今回の帝国軍の進軍で我が国は後手に回った」
軍務大臣の眉間にシワが寄る。
「今回、唯一のよい話は英雄アレクサンダー・デーゼマン准将の活躍によって、局地的とはいえ勝ち戦があったこと」
何人かが頷く。
「しかし、そのデーゼマン准将をもっと早く帝国軍にぶつけていれば、違った未来もあったのではないかな?」
「デーゼマン准将はケルマン渓谷で任務中だったと聞いたが?」
財務大臣は、何を言っているのかという感じで国土大臣を見る。
「そう、その任務ですよ。なぜこの時期にデーゼマン准将はその任務に就いたのか?」
出席者たちが顔を見合って、何が言いたいのかと疑問に思う。
ただし、数名の大臣は国土大臣の言いたいことが理解できたようだ。その1人である軍務大臣は腕を組んでアレクの任務について考えた。
ケルマン渓谷のトルスト教国側に砦を築く話は、前回の教国軍の侵攻を防いだ直後の619年12月頃には出ていた話である。
しかし、それに反対する意見があって砦を築く話は保留状態になっていたのだが、1年半も経った今年の5月に話が動いたのだ。
反対していた人物が一転して、砦を築くことに賛成をしたのである。今思えば、なぜあのタイミングで砦を築くことに賛成したのか、不自然極まりない行動だと言えよう。
「考えすぎではないのかな? 所詮は一個人の話だ。いくら英雄と言われるデーゼマン准将であっても、1人で帝国軍の全てを駆逐するのは無理であろう」
宰相アレン・ファイダースが否定的な考えを示す。
だが、軍務大臣はアレクの実力を知っているし、直接フェフナー大将からアレクの活躍を聞いていることから、アレクを最初から帝国軍戦に参加させていたら違った結果になっていたと思えて仕方がない。
「そうですかな? 大体、デーゼマン准将が参加したフェフレン州とバレッド州の国境で行われた戦いは、圧倒的な勝利だったと聞き及んでいますぞ。宰相殿が仰られる一個人が参加しただけで、これだけ戦果が変わるのです。なぜ考えすぎと言えましょうか?」
宰相は無表情にその言葉を受け止めたが、内心は苦虫を噛み潰しているに違いない。
「たしか、あの時期にデーゼマン准将に砦を築かせる作戦に賛成したのは、内務大臣でしたな?」
ジョン・バラック内務大臣は青い髪の毛をした四十代後半の中肉中背の人物だ。その内務大臣がぽっちゃり体系の国土大臣に名指しされて、額にシワを寄せる。
「偶然である。そのようなことで邪推されるのは、不本意だ」
「そのようにムキになるのは、逆に怪しいと思ってしまうのだが」
「貴様!」
「止めよ」
国王が内務大臣と国土大臣の言い合いに割って入ると、二人は国王に頭を下げて非礼を詫びる。
「1年だ。1年後に奪われた土地を回復する。皆、そのように準備をいたせ」
国王は不機嫌な口調で首脳陣に1年後の反攻戦を促し、御前会議はお開きになった。
この御前会議の後、軍務大臣を自分の執務室に呼び出した国王は、負けっぱなしだった王国軍の面目を保ってくれたアレクの昇進を軍務大臣に命じ、1年後の失地奪還戦では主力に据えるように命じるのだった。
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