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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
十章

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073_帝国進軍

 


 神帝歴620年11月某日。


 徐々に冬の足音が聞こえ始め、朝日が昇る時間が遅くなったと感じながらまだ暗いうちにアレクは目を覚ました。

 妻のラーレはまだ隣で可愛らしい寝息を立てていて、その頬には青色の髪の毛がかかっている。

 アレクはラーレを起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出し、ローブを纏ってバルコニーへ出た。


 東の空が朝焼けによって青紫色と赤色の境界がはっきりして美しいハーモニーを奏でている。

 その美しい空が今日も見られたことにアレクは感謝した。

 軍人になってからはいつ戦場へ派遣されるか分からない。ふとしたことから不安が湧き上がってくる。


 現在のソウテイ王国にはテルメール帝国という大国との停戦期間が失効し、いつ戦争が起きても不思議ではない。

 それに、東に目を向けるとトルスト教国があり、こちらもいつ攻めてくるか分からない。

 考えれば、テルメール帝国とトルスト教国は、共にアレクに恨みを持っていると言っても過言ではないだろう。

 まだ16歳のアレクだが、戦場での戦功は父フォレストも顔負けのものがあり、とても華々しいものだ。


「この美しい空がまた見られますように……」

 アレクは自分に土魔術を授けてくれた神へ祈りを捧げた。こんなことは初めてであり、なぜこのような祈りをしたのかアレクでも分からない。

 しかし、アレクはなぜか祈りたいと思ったのだ。


「アレク様?」

 名前を呼ばれたので祈りを中断し振り向いた。

「起こしちゃったかな? ごめんね、ラーレ」

 アレクは起き出してきた、ラーレに笑顔を向ける。

「いえ、もう起きる時間ですから。それよりも、何かありましたか? 悲しそうな目をしています」

 笑顔を向けたのに悲しそうな目と言われ、アレクは理解できなかった。

「涙が……」

 ラーレの言葉でアレクは目頭に指を当てた。その指はうっすらと濡れた。

 なぜ自分が泣いているのか理解できない。

「あれ……なんでだろう……?」

 涙を認識したらなぜか涙が溢れ出てくる。そんなアレクをラーレはそっと抱きしめる。

「心の中にため込んでいたのですね……。私でよければいつでも話を聞きます。それだけでも少しは心が軽くなると思います」

「ありがとう。少しだけこうしていていいかい?」

「もちろんです」



 神帝暦621年6月25日。


 朝から粛々と書類仕事をこなし、そろそろ昼食になろうかという頃、アレクの元に王都の軍務大臣からの命令書が届いた。

 命令書を受け取ったアレクは、いったい何事かと命令書に目を通す。


「………」

 読み終えると、カムラ特務少佐に命令書を渡す。

「ごめん」

 カムラ特務少佐がその命令書を読み終えるのを待って、アレクは言葉を発した。

「機甲科魔術部隊は十日後に出陣します。向かうはサダラード州ケルマン渓谷」

 およそ1年半前、トルスト教国と戦った場所である。


「承知しました。……しかし、今頃ですか?」

 カムラ特務少佐がオウエン特務大尉に命令書を渡して呆れた顔をする。

「ケルマン渓谷に砦を……。たしかに今さら感がありますね」

 命令書にはケルマン渓谷に砦を築くため、アレクに土魔術士を指揮して砦を築けというものだった。

 ケルマン渓谷に砦を築く案は、アレクが彼の地に堅牢な防壁を築いた時にも上がった。

 だが、軍部の中にはトルスト教国をこれ以上刺激するのはどうかという声もあって、砦の建設は保留状態であった。

 それが今動き出したのである。これは、トルスト教国を刺激しようとも砦を築く意味があると上層部が判断したためだ。


 現在のソウテイ王国は、テルメール帝国が国境付近から軍を削減したため、色々な憶測を呼んでいる。

 上層部の多くは楽観視せず、何かの前触れではないかと考えている。

 そのため、テルメール帝国の軍事行動に素早く対応するために教国への守りを厚くしようと考えているのだ。

 だが、教国への守りを厚くすればその分他の防衛に支障が出る。

 そこで再びケルマン渓谷に砦を築くという案に脚光が当たることになったようだ。

 ケルマン渓谷に砦を築くことでトルスト教国の大軍が進軍してきても防衛できる態勢を作る。このためにアレクの土魔術に白羽の矢が立ったのである。


「しかし、この国はやることが遅すぎる……」

 カムラ特務少佐が呟く声が聞こえた。アレクもそのことには思うことがないと言えば嘘になるが、今のソウテイ王国は貴族の力がそれなりに強く、砦を築くような大掛かりなことに対しては有力貴族が何かしらの意見を述べるし、邪魔をするのだ。

 アレクの機甲科魔術部隊の設立にあたっても有力貴族から横槍が予想されたため、国王と軍務大臣は苦肉の策で小隊規模にした。そのため、有力貴族から横槍が入ることもなく進んだのである。

 そしてアレクがトルスト教国軍相手に無双して大きな戦功をあげたことから、機甲科魔術部隊の規模を拡充することを国王主導で進めることができたのだ。


「何かを変えるには、それなりの権力が必要だからね。今の僕たちでは何もできないよ」

 アレクはそう言うが、アレクの働き次第ではアレクを見出した国王の権力は強くなる。国王の権力が強くなれば、意思決定もスムーズに進むのである。

「アレクサンダー様が権力を握ればよいのです」

「カムラ特務少佐には悪いけど、僕に権力欲はないよ」

「分かっています。言ってみただけです」

 アレクはにこりと微笑み、すぐに表情を引き締める。

「ケルマン渓谷に砦を築くため、八日後には土魔術士がここに集められる。土魔術士の多くは民間人で、彼らを無事にこの王都へ帰すことが僕たちの使命です。皆の働きに期待します」

 その場にいる全員が「はっ」とアレクに啓礼する。


 ▽▽▽


 王都特機駐屯地に土魔術士が集められた。その中に懐かしいコルマヌ・エドゥトの顔もあった。

 コルマヌ・エドゥトは王都でも有数の建設会社の社長兼土魔術士であり、アレクが土魔術を与えられた時に世話になった人物である。


「まさか、あのひ弱な子がこんなに立派になるなんて思ってもいなかったよ」

「今でも十分にひ弱なんですけどね、ははは……」

 コルマヌ・エドゥトの言葉に正直に答えて苦笑いをする。

「ひ弱なのに英雄と言われるのか? 俺なんかはアレクサンダー君の性格を知っているからいいが、あまり謙遜すると他の奴に妬まれるだけではなく恨まれるぞ」

「そうなんですか? ……分かりました、気をつけます」

 アレクは素直に忠告を受けることにする。それは、カムラ特務少佐たちからももう少し貴族らしくしろと常々言われているからだ。

 ただ、アレク自身は貴族の無駄に高い虚栄心や自尊心といったものが理解できないのである。


「アレクサンダー様。そろそろ王城へ登城するお時間です」

 明日この王都特機駐屯地を出立することになるので、この登城が出陣前の最後の報告になる。

 物資はケイリー中尉が滞りなく準備してくれたし、兵士たちの準備も万全だ。

「分かったよ。社長、失礼しますね」

「おう、司令官様は忙しいだろうから、俺に気を遣わずしっかりと働いてくれ」

「はい」

 アレクはコルマヌ・エドゥトに礼をしてその場を離れた。


 アレクの姿が見えなくなると、周囲で二人のことを見守っていた土魔術士たちがコルマヌ・エドゥトを囲んだ。

「あれが英雄アレクサンダー・デーゼマンか? まだ子供だったぞ」

 コルマヌ・エドゥトに話しかけたのは、同じ建築会社を経営するセージ・バヌマである。セージ・バヌマはアレクがもっと厳つい容姿だと思っていただけに、かなり拍子抜けしている。

「彼がアレクサンダー・デーゼマンで間違いない。性格は昔のまま、穏やかというか気弱な感じだな。だが、彼は昔から圧倒的な土魔術を披露していたぜ」

「そんなもんか? まあなんでもいいぜ。土魔術士ってのは戦いに向かないと言われてバカにされていたのに、あのアレクサンダー・デーゼマンのおかげで土魔術士の地位がそれなりに上がっているからな。感謝しているぜ」

 他の土魔術士たちもセージ・バヌマの意見に頷いた。


 王城に入ったアレクは会議室に入った。

 この会議室には王都の主要幹部が集まっており、アレクは遅参を詫びる。

 もっとも、アレクは時間通りにきたので遅参を詫びる必要はないが、目上の者よりも後に入ったことに対する配慮である。

 最後に軍務大臣が入ってくると、会議が始まった。


 

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