070_閑話
神帝暦621年1月。
神帝暦619年11月に大佐に昇進したアレクは、1年間機甲科魔術部隊の拡充に終始した。
デーゼマン家から1年かけてアースリザードを91頭購入でき、機甲科魔術部隊が保有するアースリザードは100頭を超えた。
また、所属する人員も現時点で500人規模になっているが、人員はこれからも増えていく。
1頭のアースリザードには、アースリザードを操る操者と魔術筒で攻撃する射手が必要になるため、1000頭のアースリザードともなれば操者と射手で2000人の兵士が必要になる。500人ではまったく人員が足りないのである。
アレクの機甲科魔術部隊の問題はそれだけではない。
アースリザードを増やせばそれだけ魔術筒も増やさなければならないし、魔術弾も大量に必要になる。
魔術筒は出入りの鍛冶師たちが生産すればそれなりに手に入るが、魔術弾はそうはいかない。
魔術弾を生産するには魔術士が魔術を封印しなければいけないが、これが簡単ではないのだ。
しかし、国王が国内の魔術士を集めて魔術弾を生産する工房を造らせたことによって、あるていど魔術弾の生産が追いついてきたのが今の状況なのだ。
「新型魔術筒の試射を行う時間です」
副官のベイリー中尉がアレクを促す。
この新型魔術筒は、アースリザード上での運用がしやすいように改良されたもので、機甲科魔術部隊のために開発されたものである。
北にテルメール帝国、東にトルスト教国という敵国を抱えるソウテイ王国のため、国王は機甲科魔術部隊に期待をしている。
国王のこの判断に公に異論を唱える者はいないが、国王が機甲科魔術部隊に大きな予算を割いていることに対して軍部や貴族の中にいい顔をしない者はいる。
王都北駐屯地では100頭、将来的に1000頭ものアースリザードを受け入れることはできないため、王都北駐屯地から10キロメートルほど離れた土地に新たな駐屯地が設営されている。
その駐屯地はアースリザードを主力とした機甲科魔術部隊専用の駐屯地になるため、王都特機駐屯地と名づけられている。
もちろん、駐屯地の司令官は大佐となっているアレクである。
アレクとしては機甲科魔術部隊を率いるだけでも大変なのに、駐屯地の運営まで行わなければならず非常に多忙な日々を送っている。
「アースリザード、配置につきました!」
魔術筒の訓練や試射をする時は、必ずアースリザードを近くに配置する。
これは、アースリザードが魔術の発動時の魔法陣や爆音で驚かないように慣れさせるために行われていることで、こういった訓練の積み上げが戦場で生きてくるのだ。
「司令官殿、全ての準備が完了しました」
シワの多い老兵士といった風貌のこの人物は、王都特機駐屯地で参謀を務めているジョナサン・アルバレス少佐である。
今年で57歳になるアルバレス少佐は決して出世が早いわけではないが、堅実な献策をする人物というのがアレクの評価だ。
このアルバレス少佐は能力はあるが、世渡りが下手というのが彼を知る周囲の評価でもある。
この場合、比較対象をアレクにするのは酷な話なので、一般的な昇進スピードに照らし合わせている。
「はい。では、始めてください」
アルバレス少佐が手を上げて合図をすると、ドドドッとアースリザードが地面を蹴る音が聞こえ始める。
アレクの目の前を三頭のアースリザードに乗った六人の兵士が土埃を巻き上げて走りすぎていく。
その六人の中にはマッタンホルン大尉が操者として参加し、三頭のアースリザードの指揮を執る。
「かまえーーーっ!」
マッタンホルン大尉が左手で手綱を握りながら右手を上げる。
マッタンホルン大尉が操るアースリザードを先頭に一列となって走っていく三頭のアースリザードの上で射手が新型魔術筒を構える。
「うてーーーっ!」
その命で、三丁の新型魔術筒の先端に魔法陣が現れ火の玉が射出され、赤い筋を残して飛んでいく。
三つの火の玉、ファイアボールは訓練場に設置された的に三発とも命中し、爆発音を立てて的を破壊する。
「次射用意!」
マッタンホルン大尉はそのままの勢いで新型魔術筒に魔術弾の脱着を指示する。
「一番よし!」
「二番よし!」
「三番よし!」
三人の射手から準備ができたと声が張り上げられる。
「かまえーーーっ!」
数秒の溜めがあって「うてーーーっ!」とマッタンホルン大尉が命じると、再びファイアボールが射出され的を破壊する。
マッタンホルン大尉はそれを五回繰り返して、騎獣上での新型魔術筒の運用について確認を行った。
「司令官殿」
五回の試射を終えたマッタンホルン大尉はアレクの前でアースリザードを止め、六人全員が敬礼する。
アースリザードに限らず、騎士でも馬上から上官への敬礼が許されている。
むしろ、アースリザードを降りて敬礼をしている間に、アースリザードが暴走したら大変なことになるからである。
アレクが短く敬礼を返すと、マッタンホルン大尉と部下たちは敬礼を解いた。
「マッタンホルン大尉、新型魔術筒の使い心地はどうですか?」
「はっ! 後ほど正式な報告書を上げますが、旧式に比べて命中精度が上がっており感触はよいです」
「それはよかった」
アレクは頷いて短い言葉でマッタンホルン大尉に返した。
アレクの目から見た限りでも命中精度は上がっているのが分かる。
これは、新型魔術筒のグリップと銃床を分けて、銃床を肩に当てて固定できるようになったのが大きいだろう。
肩当て銃床による効果はそれだけに留まらず、魔術弾の排出と装填も簡単にできるようになっているため、アースリザードが動いていて振動があっても旧式より早く正確な交換ができるようになっている。
新型魔術筒の試射に満足したアレクは、その足で城にて開かれる幹部会議へ向かう。
昨年のデーゼマン家は何ごともなかったわけではなく、神帝暦620年5月に次女のエリーが家臣のジジリス・アーデンの次男であるカズン・アーデンと結婚した。
ジジリス家はデーゼマン家がヘリオに入る前からヘリオに住む一族で、ヘリオでの知名度は高い。
ガラス工房には2人の責任者がいるが、その1人がカズンである。
カズンはガラス工房の責任者ということもあり、デーゼマン屋敷に頻繁に出入りしていたことでエリーと恋仲になったようだ。
そして、三女のロアも結婚した。ロアの相手は家臣筆頭のダンテ・ボールニクスの嫡男であるガブリオ・ボールニクスである。
ガブリオもロア同様に弓術を持っており、2人は一緒に狩りに出かける間柄であったことからいつの間にか恋仲になっていたようだ。
いずれはボールニクス家の当主になるガブリオをすでに尻に敷いているとかなんとか。
また、フリオも昨年15歳になり、正式にデーゼマン家の武官になった。
元々フリオは兵士たちと訓練を共にし、ドラゴンを倒したりと武功を挙げているので若いからとフリオを侮る者はいない。
むしろ、圧倒的な強さを誇るフリオの部下になりたがる兵士が多いのである。
数年後にフリオは新しい家を興して領地に入ることになる。その前に戦で戦功を挙げさせてやりたいが、戦争の発生を待つのは不謹慎なことだともフォレストは思っている。
アースリザードの供給に関しては、周辺貴族から供給を受けてデーゼマン家が調教や繁殖を行う事業が軌道に乗り始めた。
特に隣領のアムント六等勲民家が多くのアースリザードを供給してくれている。これは、家の格に合わせた数を設定しているため、周辺で最も格の高いアムント六等勲民家が一番多くのアースリザード供給を行ったのだ。
アースリザードの供給を周辺貴族へ要請したことは、周辺貴族から好意的に受け入れられた。
本来駆除対象のアースリザードが、無傷という条件があるにしろ生け捕りにしたら買い取ってくれるのだから、財政的に非常に助かるのだ。
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