007_デーゼマン家
神帝暦616年11月。
ソウテイ王国は神帝暦を使っている。
過去に大陸の大半を従えたテルメ大帝国という国があったが、その大帝国の初代大帝である、カズマレン大帝が生まれた年を神帝暦1年としたのが神帝暦の始まりである。
テルメ大帝国は七代目のガールサス一世の治世に最盛期を迎え、ガールサス一世は皇帝を名乗った。
その後もテルメ大帝国は多くの植民地からもたらされる大量の物資によって、長い繁栄期を謳歌した。まさに我が世の春である。
誰もがテルメ大帝国は永遠に続くものだと思っていた。
しかし、神帝暦511年に大貴族同士の私闘から始まった争いが、数カ月後にはテルメ大帝国内で内戦と呼べる規模の戦いに発展してしまったのだ。
当時の皇帝はすぐに落ち着くだろうと、この内戦を放置したが、これがよくなかった。
この時に争いを早期に収めていれば、内戦が国内に広がることもなかっただろう。
結局、テルメ大帝国は神帝暦542年に第二十六代皇帝、カズマレン大帝から数えると三十二代目になるブラセルード三世の治世で終焉を迎えることになったのだ。
デーゼマン家が属するソウテイ王国もテルメ大帝国の流れをくむ国であり、国王の系図を辿っていくとテルメ大帝国の皇帝にいきつく。
とはいえ血は薄れ、ソウテイ王国国王がテルメ大帝国の継承者を名乗ることはない。
しかし、ソウテイ王国の北に位置するテルメール帝国の皇帝は、テルメ大帝国の正当な継承者と称して、かつてテルメ大帝国が領有していた土地の支配権を主張しているのである。
その主張を受け入れる国があるわけもなく、テルメール帝国はソウテイ王国を含む近隣諸国と戦争状態にある。
フォレストが所属する王国第二騎士団は、現在このテルメール帝国軍と睨み合っている。
ソウテイ王国の北側がテルメール帝国と国境を接しているので、国境付近は常に緊張状態にあるのだ。
ソウテイ王国の北側にはシュテイン州とバレッド州があって、この二つの州がテルメール帝国と国境を接している。
ただし、バレッド州とテルメール帝国の間には高く険しい山脈があって、往来はできない。
他に海路もあるが両国とも海軍にあまり力を入れていないことから、実質的にシュテイン州が対帝国の重要地域になるのである。
そのシュテイン州にある防衛拠点であるヘルネス砦に、王国第二騎士団が入ってすでに3週間が経っている。
ソウテイ王国では、1年は12カ月、1カ月は5週間、1週間は6日、1日は24時間、1時間は60分である。
これはテルメ大帝国の領地や植民地だった土地では一般的に使われている暦である。
ヘルネス砦の防壁は重厚な石造りで高く頑丈だ。
テルメール帝国との戦いに備えて、幾度も改修されていることから、砦は要塞化しているのである。
そんな防壁の上の指揮所から2キロメートルほど先に布陣しているテルメール帝国軍を眺めているのは、ヘルネス守備軍の首脳陣、王国第二騎士団の首脳陣、そして周辺貴族たちである。
おそらく四十人ほどいるが、この中には王国第二騎士団の中隊長であるフォレストの姿もあった。
ただし、中隊長はこの顔ぶれの中にあってそれほど高い地位ではないことから、後ろに控えているだけである。
「このままではいつものように帝国軍が引き上げていく後姿を見送るだけですかな」
ヘルネス防衛軍のクイック・ヘルトン司令官だ。
ヘルトン司令官はこのヘルネス砦の司令官になって5年目の妖精種山族である。
赤毛に髭面、背は低いがガッチリとした体格の種族である。
ソウテイ王国ではフォレストのような人間種人族以外にも、多くの種族が住んでいて、貴族にも他種族はいる。
ヘルネス砦の司令官職の任期は5年で、ヘルトン司令官にとって今回が司令官として最後の戦いになるだろう。
これまでの5年で三度目の帝国軍防衛戦になるが、これまでの二度は少し戦闘しただけで帝国軍は引き上げていった。
このまま戦功らしい戦功がないのでは、次の官職に関わることから、この戦いで戦功がほしいというのが本音としてある。
「ひと当てしてみますか、司令官殿」
ヘルトン司令官の心情を見透かす貴族は多い。
自分が同じ立場だったら、同じような焦りを感じるはずだからだ。
そんなヘルトン司令官に声をかけたのは、下級貴族であるイニシャラントである。
イニシャラント家は十等勲民の家で、このアイゼンクルド・イニシャラントは昨年家督を相続した金髪碧眼の25歳ほどの若者である。
見た目はよいが、貴族家の当主としての力は未知数である。
「イニシャラント卿か。しかし帝国軍の数は多いですぞ」
王国側はヘルネス守備軍が千五百人、周辺貴族軍が二千人、王国第二騎士団が五千人の合計で八千五百人だ。
対する帝国軍は一万二千人と見積もられていることから、防衛に専念するのが最善の策だろう。
戦争は数がものをいうが、防衛戦であれば防衛側の数が少なくても、大きな差でなければ互角以上に戦える。
地の利を捨てて敵に有利な野戦をするのは、愚策なのはここにいる誰もが分かっていることだ。
ただし、貴族のプライドや出世欲というものは、そういった正論では収まらないことが多い。
あーでもない、こーでもないと、結局何も決まらないのが寄せ集め集団である王国軍の欠点である。
ここにいる守備軍は指揮系統が統一されているし、王国第二騎士団も指揮系統は統一されている。
しかし貴族軍は複数の貴族が自領の兵を率いてきていることから指揮系統は統一されていないし、ヘルネス守備軍と王国第二騎士団も横並びの指揮系統なので全体を見たら指揮系統がバラバラなのだ。
これでは決まるものも決まらないだろう。
お読みいただき、ありがとうございました。
評価と応援メッセージ大歓迎です!
本日は2話更新です。




