069_閑話
当面、魔術士の確保、アースリザードの確保、ラーレ嬢との結婚のための準備に忙しいアレクである。
「隊長、行動計画と予算書をお持ちしました」
ベイリー中尉だ。
「もうできたの? ベイリー中尉は仕事が早くて助かるよ」
作成を指示してまだ2日しかたっていない。もっと時間がかかると思っていたアレクは、フォレストにアースリザード購入の件をまだ相談していなかった。
「ありがとうございます」
アレクが受け取った書類に目を通すと、タイミングを見計らってベイリー中尉が説明する。
「3カ年計画で300頭のアースリザードを捕獲するものになります。人員は150名を四カ月交代、年間450名ていどをシュテイン州へ派遣します。他に捕獲したアースリザードの調教に関しては、5頭に1人の厩務員をつけるため年間20人を増やします。よって3年で60人を見込んでいます」
アレクはアースリザードの繁殖や調教にほとんどかかわることはなかったが、それでも多少の知識はある。
その少ない知識に照らしても、デーゼマン家がアースリザード部隊を組織した時の人員は圧倒的に少ない。
だが、デーゼマン家と同じことが今の国軍でできるかと聞かれれば、アレクは間違いなくできないと答えるだろう。
だから、ベイリー中尉の行動計画のほうが人員数として正しいとアレクは判断した。
「年間450人規模の兵士か。妥当な線だと思うけど、カムラ特務少佐はどう思う?」
「デーゼマン家とは状況も人員も違いますが、妥当な線だと思います」
アレクはカムラの同意を受けて予算書のほうを読み始めた。
「結構な額になるね」
「数が多いため、人員が多くなって期間が3年になるのは仕方がないかと」
450人規模の兵士を3年もの期間動かすのだから、食料の補給だけでもそれなりの金額になる。しかも、遠征中は食料を軍が支給することになっているし、その食料を輸送する部隊も別に必要になる。部隊行動には金がかかるのだ。
「あとは父とアースリザードの購入について話してどうなるかだね」
その日の夜、貴族街にある屋敷。この屋敷は元々ガウバス六等勲民家が所有していたが、ガウバス六等勲民家は取り潰されたので賠償金の一部としてもらった屋敷である。
デーゼマン家とはいわくつきのガウバス六等勲民家の屋敷だが、屋敷に代わりはないとフォレストがもらうことにしたのだ。
「アースリザードをか……」
などと難しい顔をするフォレストだが、実を言うと現在の王国軍のアースリザードもデーゼマン家が供給したものなのだ。そのことはアレクも知っているので、あまり悲観はしていない。
むしろ、アースリザードの販売価格を知らないので、そちらのほうが心配である。
「ウイル、どのていど王国軍に供給できるか分かるか?」
「はい、当家の保有アースリザードの数は7月時点で173頭。50頭はすぐにでも売れますが、300頭ともなると、すぐにというわけにはいきません」
デーゼマン家としても全てのアースリザードを売り渡すわけにはいかないのは当然だ。
「また、アースリザードは繁殖にも成功していますので、年間50頭ていどであれば継続的に供給するのも可能でしょう」
「1頭当たりいくらで販売になりそうだ」
「前回は調教済みのアースリザード1頭を500万リンクルで販売しております」
1頭500万リンクルで300頭を買おうとすると、15億リンクルになる。大金だ。
「300万リンクルで融通してもらえないですか?」
アレクとしても図々しいのは分かっているが、聞くだけならタダである。
「いきなり4割引きの値切りとは、アレクも図太くなったな。ははは」
フォレストは笑い飛ばすが、ウイルは難しい顔をしてフォレストに耳打ちする。
「分かっていると思うが、300万は無理だ。だが、毎年50頭を8年に渡って購入するのであれば、1頭当たり400万でいいぞ」
合計で400頭、16億リンクル。しかも調教済みとなれば、悪くないと思うのはアレクだけではないだろう。
行動計画に沿った予算と比べれば多少高いが、実際に目標の数が捕獲できるかも分からないし、調教にかかる時間は含まれていない。そして何よりアースリザードの捕獲作戦で兵士が怪我をするリスクもない。
つまり、兵士の怪我のリスクや調教の手間を考えれば、フォレストの提案は決して悪いものではないとアレクは判断した。
「明日、部下たちと相談してからになるけど、その案で予算を上げようと思う。予算が通ったらお願いするよ」
▽▽▽
ラーレとの結婚式が終わった。盛大な結婚式で、今のデーゼマン家の財力を貴族たちに見せつけたものになった。
式に参列した者には、引き出物として銀の茶器とガラスの皿を贈った。これだけでも大金が動いているのが分かる。
そんな年の瀬が迫ったある日。アレクはハイネルト・ヒリング軍務大臣に呼び出され、軍務大臣の執務室を訪れた。
「君の式以来だね、いい式だったよ。とりあえず、かけてくれたまえ」
「ありがとうございます」
促されてアレクがソファーに座ると、軍務大臣もアレクの向かいに座る。
「奥方はどうしているかね」
奥方と言われてアレクは誰のことだろうと一瞬戸惑ったが、考えてみればラーレのことだと思いいたり、自分は結婚したんだと改めて自覚するのであった。
「元気に毎日剣の稽古をしています」
「ははは。ラーレ殿らしいな」
「はい、彼女らしいです」
2人して笑いあった。
ひとしきり世間話を軍務大臣のほうから話しかけアレクがそれに応えるのが続き、軍務大臣は本題に入った。
「デーゼマン家からアースリザードを購入する稟議に陛下の決裁が下りた。ただし、陛下は機甲科魔術部隊を最低でも大隊規模にしたいと仰せである。よって、初年度は仕方がないがそれ以降の年は数を増やすようにと仰せられた。毎年100頭以上を購入することを望まれておられる」
「それはまた……。しかし、陛下のお言葉とあれば、そのようになりますよう努力をしたいと思います」
「うむ。アースリザードの購入に関してはデーゼマン大佐に一任する。1頭400万リンクルまでであれば、1000頭規模になるまで購入してくれたまえ」
「努力します」
アレクは軍務大臣よりアースリザードに関する書類と命令書を受け取り、執務室をあとにする。
軍務大臣の執務室を出たアレクはしばらく歩いて立ち止まり、振り返って軍務大臣の執務室の扉を見つめる。
その視線はまた無茶な注文をするものだというものである。
毎年100頭ものアースリザードを購入するには、デーゼマン家としてもかなりの負担になるだろう。しかも、400頭を予定していたのに1000頭にまで数字が大きくなった。
たしかに機甲科魔術部隊の機動力は素晴らしいものがあるが、先の戦いではアレクの土魔術しか活躍していない。もっとも、歩兵に比べれば圧倒的な機動力があるので、トルスト教国軍の進軍にも間に合ったというのはある。
「やるしかないか……」
アレクは屋敷に戻って、早速フォレストに相談した。
「毎年100頭か。陛下も無茶を仰る」
部屋の中には、アレクの家族が勢ぞろいしている。アレクの婚儀以来、まだ誰も領地には帰っていないのだ。
「繁殖と捕獲を両立させて、調教も含めて人員を増やすしかないですね」
クリスがそう言うと、フォレストも頷いた。
「繁殖と調教だけでいい」
その言葉に、皆がマリアを見つめる。
「どういうことだ?」
マリアは皆の視線を集めておきながら、クッキーをほおばる。相変わらずマイペースである。
「もう、マリアは。早く言いなさいよ」
クリスがマリアを促すが、マリアは紅茶を持ち上げて口に運ぶ。皆にしてみればじれったいが、マリアからするとこれが普通である。
「アースリザードは近隣貴族に集めさせればいい」
「ん、どういうことだ?」
フォレストが理解できないと聞く。
「デーゼマン家だけで富を独占すると妬まれる。だからアースリザードを捕獲するのを周辺の貴族に任せて、デーゼマン家は繁殖と調教に終始する。若くて無傷で状態のよいアースリザードに限って100万リンクルくらい出せば、捕獲してくると思う」
「なるほど。それなら当家は繁殖と調教に力を注げばいいわけか」
「捕獲より調教のほうが手間暇がかかって知識や技術がいるから、当家がそこを押さえておけばいいわけね」
フォレストに続きクリスも肯定する。
「それに、今でも当家だけ潤っていると他の貴族に妬まれているから、いいかもしれないわね」
方針が決まったら、あとは動くだけである。
まず、フォレストがシュテイン州でアースリザードが生息している領地の貴族に対して、若くて健康なアースリザードを80万リンクルで購入すると書状を送る。ただし、あまり多くても受け入れできないので、しばらくは頭数制限をかけてのものだ。
価格を80万リンクルにしたのは、必ず値上げ交渉をしてくる貴族がいると見たからである。
次はカーシャ、フォレスト、リーリア、クリス、エリー、ロア、フリオが領地に帰って、アースリザード牧場の拡張や他の貴族との折衝を行うことになった。
マリアは王都の屋敷に残ってアレクを助けることになったが、当然のように嫌がった。怠惰なマリアは働きたくないのである。
ラーレはアレクの妻なので王都の屋敷に残るが、意外とリーリアと気が合うようでリーリアについていきたそうであった。
<<お願い>>
この作品をもっと読みたいと思われる方は、
評価してやってください。
また、感想をお待ちしています。




