066_初任務
カムラはアレクに見張り台を造るよう提案をした。
「あの崖の先に見張り台を設置すれば、本道と支道を共に監視できます。アレクサンダー様の魔術でなんとかなりませんか?」
カムラが示した場所は分岐した道が本道に合流する角にあたる崖の頂上である。階段からおよそ200メートルも先にある場所だ。
「なるほど、あそこに見張り台を置けば本道と支道の両方を監視でき、教国軍の進軍を素早く察知できますな」
アレクの力に脱帽して、アレクを認めたサーマス曹長がカムラの案に同調した。
「そうですね……。それでは、やってみますか」
アレクはトレントの杖を掲げ、魔力を練り上げた。崖の上ということもあり、ただの見張り台を造るわけにはいかない。
まずは、階段に屋根を造る。これは階段を上がった味方兵士がワイバーンに見つかりづらくするものだ。崖からせり出しているので雨も防げるだろう。もっとも、この谷の付近はあまり雨が降らないことで有名だ。
次は崖の上に屋根から続くアーチ状の通路を造る。ワイバーンの攻撃にも耐えられるように、厚みのあるアーチ状の壁の中に人が通れるくらいの細い通路がある。そのアーチ状の通路を伸ばしながら200メートル先の崖の先を目指す。
上空で旋回していたワイバーンがその光景に興味を示して高度を下げてくるが、アレクたちはアーチ状の通路の中から出ないので、襲われることはない。
階段の時もそうだが通路も崖の上なので、崖のほうも補強しながら通路を造る。
「この辺でいいですかね」
「ありがとうございます。ここなら本道と支道を共に監視できます」
サーマス曹長は興奮している。今回、防壁と空堀、そしてこの見張り台を造ったことによって、今後の対教国の防衛体制ががらりと変わるだろう。
見張り台の眼下には本道と支道が数キロメートル先まで見渡せる。これなら昼は人間種人族、夜は夜目がきく獣人たちに見張りをさせれば、かなり早く教国軍の接近を察知できる。
「サーマス曹長、この見張り台から本道と支道の監視をお願いします。また、見張り台が敵を認識しても下に情報を伝えるのに時間がかかっては意味がありませんので、速やかに情報を伝えられるように考えて対応をお願いします」
「承知しました!」
すでにサーマス曹長はアレクの魅力に引き込まれている。
見張り台から谷の底に下りたアレクは休みを取らずに次の魔術を行使した。防壁の王国側に兵らが休める建物と首脳陣が会議を開ける建物を造る。谷底のためか風がかなり強いので、風を凌ぐための建物である。
兵士だけではなく、騎馬や騎獣の厩舎も造る。
「オウエン特務中尉は防壁上の警備の手配。ソムン特務曹長は騎馬と騎獣の世話を。他の人は状況の整理をしますので、このまま残ってください」
アレクの命令でオウエンとソムンが退室していく。
残ったアレク、カムラ、ラクリス、ゲーデス、ベイリー、アマナウ、マッタンホルンの首脳陣は、機甲科魔術小隊と偵察分隊の45人という戦力で教国軍をどうやって防ぐかを考える。
堅牢な防壁と空堀、そして見張り台があっても教国軍と味方では、数に圧倒的な差がある。
「教国軍の規模は分かっていないようですが、最低でも1万は揃えてくると思われます」
ケリーが得た情報を整理していく。
「1万対45か。これで防げたら奇跡だな」
アマナウが呟いた。しかし、この呟きに皆が頷く。
「ケイリー、援軍の見込みは?」
マッタンホルンが聞く。
「サダラード州の各貴族は魔物対策として防御陣地へ入っています。援軍は王都からの戦力が到着してからになりますので、少なくとも10日はかかると思われます」
「それに対して教国軍は早ければ5日ほどでここへ到達するか……」
少なくとも5日はこの戦力で教国軍を防がなければならない。皆の胃がキリキリと痛む。
5日後、東部方面軍司令官ゲバン・ガバランから書状が届いた。それによれば、現在東部方面軍と貴族軍は魔物と激しい戦闘を繰り広げていて、アレクのほうへの援軍は1000人規模になるというものであった。
「1000人規模であれば、防衛もなんとかなりましょう。あとは教国軍よりも先に到着してくれることを祈るだけです」
カムラがそうまとめたが、その時、兵士が会議室に駆け込んできた。
「教国軍がきました!」
「ちっ、もうきたか!」
アレクは会議室を出て防壁へ向かった。防壁からはまだ教国軍が見えなかったが、どうやら教国軍は支道を通ってくるようだ。つまり、本道に入らなければ防壁からは見えない。
見張り台から矢が飛んでくる。その矢に紙が括りつけられており、これで見張り台から情報がもたらされる仕組みだ。
「教国軍は支道の先、2キロメートルの辺りを進軍中とのことです」
カムラが内容を読み上げ、その10分後にまた矢が飛んできた。
「騎兵3000、歩兵1万、その後ろに輜重隊が続いているとのことです」
再びカムラが内容を読み上げる。
「矢は伝達が早くていいのですが、こちらからの命令を伝えるのに、あの階段を上がらなければなりません。かなり時間がかかりますな」
サーマス曹長は情報伝達の遅さに改良の余地ありと考えた。
「急造だからな、今はこれでも助かる」
カムラがそういうと皆が頷いた。
アレクは考えた。たった45人で1万3000人もの教国軍を相手にするには、どうすればいいのか。防壁は強固に築いたが、これだけの兵力差で攻められたらまともに戦うことができない。
「カムラ特務大尉、敵を手っ取り早く撤退に追い込むにはどうすればいいと思いますか?」
「そうですね……。やはり頭を潰すことでしょうか」
「カムラ特務大尉もそう思いますか……」
「しかし、敵の頭を潰すのは容易ではありません。1万を超える兵を突破しなければなりませんので……」
アレクはどうしたら教国軍の総司令官を倒せるか考え、天を仰いだ。そして、気づいたのだ。
「そうか、見張り台だ! カムラ特務大尉、僕は見張り台から敵の総司令官を狙います。ここは任せていいですか」
「承知しました」
アレクは防壁をカムラに任せて、階段を駆け上がっていった。途中で息が切れて膝に手を置き息を整えるのは愛嬌だ。
「アレクサンダー様、大丈夫ですか?」
「大丈夫、はぁはぁ。しかし、ラクリスはまったく息切れしていないね、すごいよ」
「わたしは獣人ですから」
獣人とヒューマンでは基本的な体力に差が出ることが多いが、そこまで差があるわけではない。これは日頃からアレクが運動していないことが大きく響いているのだ。
「ふーーー。よし、いこうか」
「はい」
なんとか息を整えてアレクは再び階段を上り始める。
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あと、本作品は基本的にハーレムものではありません。
作者としては今のところ2人目は考えていませんが、この先のストーリー次第では追加あるかもしれません。




