064_初任務
なぜか検索除外になっていました。
作者にはなんの記憶もないのです。
夢遊病なのかな?
防御陣地についたアレクの機甲科魔術小隊は、すぐに防御陣地の拡張強化に取りかかった。とはいっても、アレク以外は周辺警備と偵察任務を行うくらいだ。
「デーゼマン中佐殿、こちらに200メートルの堀を築いていただけますか」
「堀だけでいいのですか? 防壁は築かないのですか?」
「失礼ながら、堀を築くだけでも日程的には厳しいかと存じます。それを防壁までとなると、さすがに中途半端すぎるかと」
その話を聞いていたラクリスやカムラは、この中年中尉はアレクのすごさを知らないのに口を出すなとムッとした。
「では、防壁も築けるのであれば、築いて構わないのですね」
「それは……そうですが……」
中年中尉は口ごもってしまうが、上官をバカにして笑うわけにもいかないので、困った顔をするしかなかった。
「では、さっそく作業に入ります。少し下がっていてください」
「はぁ……」
中年中尉たちを下がらせてアレクはトレントの杖を両手に持ち、魔力を込めた。
アレクの機甲科魔術小隊のメンバーでもアレクが魔術を行使する場面は見たことがない。今回、それを間近で見ることができるので、興味深々といった表情で見守る。
アレクがトレントの杖を掲げて「盛り上がれ」と呟いた。すると、地面が隆起していく。
轟音を立てながら高さ15メートルほどの防壁が、途切れることなくそそり立っていく。その様を見守る者たちは口を大きく開けて目がこぼれるのではというほど見開いていた。
防壁の外側は、幅10メートル、深さ10メートルの堀になっていることから、堀で不要になった地面の土や石を防壁に流用しているのである。
200メートルほど防壁と空堀ができたところで、アレクはトレントの杖を下ろした。
「ふー。ラクリス、マナポーションをもらえるかな」
「はい、こちらに」
ラクリスはウエストポーチからマナポーションをすでに取り出していて、それをアレクに手渡した。
アレクはエリー製マナポーションを一気に飲み干し、さらにラクリスが手渡してきた飴玉を口に放り込んだ。この飴玉は魔力の回復力を上げてくれるもので、これもエリー製である。
「10分休憩します」
「え? 10分だけでいいのですか?」
中年中尉は驚いて声を上げた。それもそうだろう、普通の魔術士は魔力が枯渇したら1日以上使い物にならない。マナポーションを飲んでも疲労からくる倦怠感から回復には数時間かかる。それをアレクはたった10分で再び防壁を築くと言うのだから驚くのは当然だ。
そのことを一番分かっているのが、アレクの直属の部下であり、自身も魔術士であるアマナウ中尉とベイリー少尉だ。魔術士の2人からしたら、目の前で起こっていることは、常識外のあり得ないことなのだ。
「アレクサンダー様、10分たちました」
「うん。じゃあ、再開するよ」
アレクは再びトレントの杖を掲げ、高さ15メートルの防壁と幅10メートル、深さ10メートルの堀を築いていく。200メートル築くのにかかる時間はたったの1分ほどで、休憩が10分なので2時間もあれば、防御陣地の巨大な防壁と空堀が完成した。城郭を築けば、十分に城として機能する大きさである。
「本当に築いてしまった……。宮廷魔術士というのは、これほどの存在なのですか……?」
ベイリー少尉は常識外れの光景を目の当たりにして、宮廷魔術士という存在がどれほど人外なのか思い知った。
今回のことでアレクが宮廷魔術士の基準になってしまったので、いつかは宮廷魔術士になりたいと考えていたベイリー少尉にとって、あり得ないほどハードルが高くなった瞬間でもあった。
この光景を見て心臓が飛び出しそうなほど高鳴った者がもう1人いる。
かつては宮廷魔術士の称号を得るために、誰よりも努力していた。しかし、自分の才能に限界を感じたことで宮廷魔術士の称号を得るのは無理だと感じたアマナウ中尉である。
自分が望んでも届かない高みに、まだ十代のアレクが到達している。嫉妬をするが、それ以上にアレクに対して尊敬の念を抱く。
アレクは中年中尉に頼んで鉄鉱石を用意してもらった。これからこの鉄鉱石を製錬して城門用の扉を造るのだ。
その光景も他の者にしてみれば異様であり、とてもマネできるものではない。
「よし、できた。設置は頼みますね」
「は、はい!」
中年中尉はもはや化け物でも見る目でアレクを見つめていた。
「少し休憩したら、今度は落とし穴をつくってきます」
「ま、まだ余力があるのですか?」
「ええ、大丈夫です。ベイリー少尉は疲れましたか?」
「い、いえ、私は隊長の作業を見ていただけですから……」
巨大な防壁と堀を築いたアレクを前に、見ていただけの自分が疲れたとは言えない。それは他の者も同様である。
休憩を終えたアレクは防御陣地を出て落とし穴の設置を始めた。それに同行する部下たちは無尽蔵とも思えるアレクの魔力量に圧倒されていた。
「なぁ、隊長の魔力はいつ尽きるんだ?」
「知らねぇよ、そんなこと。そもそも魔力切れになるのかさえも怪しいぞ」
マナポーションを飲んではいるが、魔力切れになった魔術士は使い物にならないのが当たり前のことなので、魔力は底をついていないのが分かる。
「俺たちはとんでもない人の部下になってしまったんじゃないか?」
「隊長は間違いなく化け物だぜ」
隊員たちがアレクの非常識さを口にするのであった。
アレクが防御陣地に入った二日後、東部方面軍のガバラン司令官が兵3000を率いてやってきたが、防御陣地の変わり様を見て目が点になっていた。
「さすがは国王陛下から直々に宮廷魔術士の称号を授けられたデーゼマン中佐だ! 正直言って、空堀を築いてくれるだけでいいと思っていたが、これほどの防壁を築いてくれるとは、本当に感謝する」
「ありがとうございます」
「これで魔物の大群も教国軍も怖くはないぞ!」
ガバラン司令官のテンションはこれ以上ないほど上がってしまったようだ。
指揮所に場所を移した首脳陣たち。そこで魔物の大群への対応にかんする最終確認が行われた。
魔物の種類はソードディア、ベノムヘッジホッグ、ツリードール、アサシンマンティス、キラーハウンド、ロックベアーと確認されているだけで6種類だ。
このなかで特に注意が必要なのはアサシンマンティス、ロックベアーだろう。アサシンマンティスはさほど高くないが空を飛ぶことができるし、音もなく現れて獲物を切り裂き貪り食う。そしてロックベアーは圧倒的なパワーと耐久力を持っているため、現れたら大きな被害を覚悟しなければならない。
そんな魔物が1000から1500ほどいると報告があるのだ、防壁と堀で守りを固めても安心はできない。
「失礼します」
会議をしていると、兵士が入ってきた。
「何ごとか」
ガバラン司令官が問うた。
「ケルマン渓谷の教国側に教国軍が集結しております」
「く、やはり魔物の動きに連動していたか!」
司令官をはじめ、幹部たちが苦い顔をした。魔物の大群だけでも厄介なのに、トルスト教国軍まで相手にしなければならない。司令官たちの苦悩がアレクにも分かった。
「閣下、ここはデーゼマン中佐にもうひと肌脱いでいただいてはいかがでしょうか」
発言したのは東部方面軍の参謀官を務めるプリューマー・ソクラジス大佐だ。大柄な人物が多い軍部にあって細身でアレクと背丈が変わらない金髪赤目の30代の人物である。
「デーゼマン中佐をどのように使うのだ、大佐」
「はい。教国が進軍してくるのであれば、ケルマン渓谷を通ることになります。よって、デーゼマン中佐にケルマン渓谷を埋めてもらうのです」
「なるほど、あれだけの防壁を短期間で築けるデーゼマン中佐であれば、それも可能なのか。……デーゼマン中佐。危険な任務だが、引き受けてもらえるか」
アレクはケルマン渓谷のことを知らないので、「はい」とも「いいえ」とも返事がしにくい。
「閣下、デーゼマン中佐もケルマン渓谷のことを知らないでしょうから、説明をしたいと思います」
「うむ、そうだな。頼む」
アレクにとって責任重大なのは間違いないその任務を行う場所は、王国と教国の間にあるケルマン渓谷と呼ばれる場所である。全長120キロメートル、深さが最大800メートル、幅が最大600メートルある地面を大きく穿つ溝だ。
王国と教国を直接いききするには、この渓谷を通らねばならない。それ以外は魔物が闊歩するエリアを通らなければならないのだ。
20年前にはこのケルマン渓谷を巡って両国間で激しい戦いがあった。その後の停戦協定でケルマン渓谷は非武装地帯にすることになった。そのため、王国はケルマン渓谷付近に防御に関する施設を建設できなかったのだ。
「今、教国が停戦協定を破って進軍してくるのであれば、我らも対策しなければならない。中佐ならケルマン渓谷を通る教国軍を足止めできると信じている」
大役を任せてもらえるのは嬉しいが、信じてもらってもできることとできないことがある。しかし、教国軍を放置すれば、王国の民が害されることになる以上、やらなければならない。
援軍が到着するまでにまだ10日はあるはずだ。それを考えれば、時間を稼がなければならない。
「分かりました。ただ、ケルマン渓谷のことをよく知る人物をガイドにつけていただきたいと思います」
「うむ、サーマス曹長の分隊をつける。この10年、彼はケルマン渓谷の偵察任務にあたっている。渓谷のことは知り尽くしている」
<<お願い>>
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