006_デーゼマン家
アレクの傷が完治して再びコルマヌの会社で働き始めた頃、デーゼマン家の四女のマリアと次男フリオの双子姉弟が誕生日を迎えた。
まずマリアからいうと、スキルは2つである。
デーゼマン家においてスキルが2つなのは少ないほうだが、その内容を考えれば数などどうでもいいことだ。
マリアのスキルは神略・魔導。
神略は知略系スキルの最上位だし、魔導にいたっても属性に関係なくどんな魔術でも使える魔術系の上位スキルである。
あり得ないほどの才能である。
そしてもう1人のフリオだが、フリオも大概である。
フリオのスキルは3つだが、どれも戦闘系の非常によいスキルだ。
武聖・直感・無双。
武聖は全ての武器を扱えるだけではなく、戦闘に関する才能の詰め合わせである。
直感にしても戦闘では極めて有用なスキルだし、無双にいたっては言わずもがなであろう。
こと接近戦、物理戦においては無敵に近いスキル構成である。
「ここ」
「え? ここ?」
誕生日を迎えたマリアにほしい物があるとアレクが連れてこられたのは、鍛冶工房が併設された店である。
マリアは店の中につかつかと入っていき、わき目もふらずにある物の前で止まった。
それはいくつかの樽に詰め込まれた鉱石である。
「これと、これと、これ」
マリアが指さした樽には鉄鉱石、銀鉛鉱、ミスリル鉱と記載があった。
「これとこれはひと抱えでいい。でもこれは樽ごとほしい」
アレクは疑問に思いながら店員に銀鉛鉱とミスリル鉱を少し、そして鉄鉱石を樽で頼んだ。
「坊や、鉱石なんかどうするんだい?」
まだ11歳のアレクは坊やと言われても違和感のない容姿だ。
「あははは……妹がほしいって言うもので……」
頬をかきながらマリアを見るアレクと店員。
お互いに顔を見合わせ、10歳の少女が何を考えているのか分からないといった感じで苦笑いをした。
鉱石は結構な値段がした。
銀鉛鉱もそれなりに高かったが、希少なミスリル鉱石を購入したからである。
「これを精錬して」
家に帰ると、マリアはさも当然といった感じでアレクに各鉱石の精錬をさせようとした。
「いや、精錬なんてしたことないし!?」
「今からする。がんばる。おわり」
「………」
説得力もあったものではない。とにかくやれというオーラがマリアから放たれ、アレクはそれに従うしかなかった。
ただ、マリアは懐から羊皮紙を取り出して、アレクに差し出してきた。
「これは……?」
「精錬の仕方。がんばる。おわり」
「……はいはい」
アレクは倉庫の中で鉄鉱石の精錬を始めた。
その横でマリアはお菓子の袋を抱えてアレクの作業を眺めている。
「天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。鉄鉱石精錬!」
魔法陣が現れたが、すぐに霧散した。これは失敗だ。
「イメージ、足りない」
すかさずマリアからのダメ出しがある。
そのマリアの顔を見て苦笑いするアレク。
「これってマリアがやった方が早いんじゃない?」
「当然。でも、ダメ」
マリアはにべもなく言い放つ。
「はいはい……」
アレクは再び鉄鉱石に向かう。
マリアからもらった羊皮紙には、鉄鉱石が高温に熱せられて溶ける際に不純物が焼かれて消えるイメージと、不純物と鉄が違う層になるイメージを強くもてと記載されていた。
アレクは目を閉じ、息を整え、頭の中で何度もイメージする。
どれだけイメージをしていたか分からないが、目を開けたアレクは再び詠唱をした。
「天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。鉄鉱石精錬!」
魔法陣が浮かび上がり、鉄鉱石を包み込む。
さらに魔法陣が回転し出すと光が強くなる。
「………」
アレクは魔法陣の維持に神経を集中させる。
大粒の汗が額から鼻筋を通りぽたりと落ちた瞬間、魔法陣が霧散して現れたのは3つの塊
3つの塊は大きさも色も違うことから、別の物質だと分かる。
1番大きい塊は銀がくすんだような色をしている。おそらく、これが鉄なんだろう。
2番目に大きい塊は鉄の塊の10分の1ほどの大きさで、鉄と同じような色合いをしているが、少し暗い。これが何かは分からない。
3番目は金色の金属だが、その量は小指の先よりも小さい。
「メタルサーチ」
マリアが詠唱もなく魔法陣を展開させたので、アレクは少し驚いた。
このメタルサーチという魔術は土魔術の1つで、金属に含まれている組成を知ることができるのだ。
マリアは簡単そうに詠唱破棄して使っているが、土魔術の中の上に位置する難しい魔術である。
「大きいのは鉄。2番目に大きいのは亜鉛。小さいのが銅。どれもまだ不純物が混ざっている。精錬の精度が甘い。おわり」
「………」
それはつまり、やり直しということである。
アレクはそれから延々と精錬を続けた。
日頃の研鑽のおかげで魔力が欠乏することはなく、鉱石がなくなるまで精錬を続けた。
「アレク、マリア。ご飯よ」
夕食時になり、クリスが二人を呼びにきたのだが、クリスはアレクの疲労困憊の姿を見て駆け寄った。
「アレク、大丈夫なの!?」
「クリス姉さん……大丈夫だよ……ははは……」
アレクは力なく答えた。
「ちょっとマリア! あなた、アレクに何をさせたのよ!?」
クリスがキッとマリアを睨んだが、マリアは何も気にした風もない。
「精錬してただけ」
そう言うとマリアは立ち上がって、とことこと倉庫を出ていった。
相変わらず我が道をいく妹だとアレクとクリスはため息を吐いた。
あとに残されたクリスはアレクに肩を貸して、食堂に向かうことになった。
クリスとアレクが食堂に到着すると、マリアは素知らぬ顔で椅子に座って2人を待っていた。苦笑いしか出ない2人である。
食事の最中、クリスはマリアにお小言を言いまくったが、マリアは耳栓でもしているのかと思うくらいに聞こえていない感じだ。
「まったく、お前たちは……」
「よくもまぁ、そんなに言葉が出てくるもんだ」
カーシャとリーリアはクリスのマリアに対するお小言に呆れるしかなかった。
当事者のアレクは決してこの2人の間には入らない。入ればとばっちりを食らうのは今までの人生で何度も味わってきたことである。
それはフリオも同じで、特にクリスがマリアにお小言をいう時には存在感を薄くして空気になっている。
デーゼマン家は女性上位の家である。男は決して女たちの争いの間に入ってはいけないのである。
それはデーゼマン家で生き残るための男たちの処世術なのだ。
それはともあれ、この日からアレクは仕事が終わってから精錬、休みの日も精錬を繰り返すことになる。
鉄鉱石の精錬の精度がよくなり、高純度の鉄のインゴットができるようになると、今度は銀鉛鉱を精錬することになった。
この時点で精錬を始めて3カ月が経っていた。
銀鉛鉱は鉄鉱石よりも精錬が難しく、なかなか純粋なインゴットにならなかった。
しかし、アレクは持ち前の粘り強さと、人並外れた魔力量によって銀鉛鉱の精錬に取り組んだ。
その甲斐あって、さらに2カ月の月日を経て銀鉛鉱の精錬に成功するのだった。
そして、最後に取り組んだのがミスリル鉱の精錬である。
ただ、このミスリル鉱の精錬が曲者だった。
「魔力が吸われる感覚がするけど、まったく精錬できるように思えない……」
ミスリルは魔力の親和性がよく、アレクの魔力をどんどん吸い上げるのだ。
それでいて精錬がまったくできず、アレクは大量の魔力をミスリル鉱石に吸わせるだけの毎日を送っていた。
「マリア、あのミスリル鉱石は本当に精錬できるの?」
「できる。吸わせるのではなく、支配する。おわり」
「支配って……」
温和なアレクにとって、一番苦手な分野が暴力や支配といったことだろう。
相手が人間ではなくミスリル鉱であっても、そういった性格のアレクには非常に厳しい日々が続いた。
半年が経ったが、それでもアレクはミスリル鉱を精錬できていなかった。
「ミスリルってヤバい! なんだよこれ!?」
アレクはやけくそになっていた。
「僕だって我慢の限界があるんだぞ!」
ミスリル鉱相手に凄んでいるが、アレクだからまったく怖くない。
むしろ相手がミスリル鉱なので残念な少年にしか見えない。
「いい加減、僕を受け入れろよ!? 天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。ミスリル鉱精錬!」
やけくそで精錬を発動させたアレクは、ミスリル鉱を睨みながら魔法陣を展開させた。
魔法陣がいつもよりも長く回転する中で、ミスリル鉱が跳ねまくっている。
そして魔法陣が霧散すると、ミスリル鉱がミスリルのインゴットに変化していた。
「え?」
アレクは今回もダメだろうと、乱暴に魔力を流したので、失敗しか考えていなかった。
それが光り輝く白銀色のミスリルインゴットができてしまって、驚きを通り越して放心状態である。
「だから言った。支配だって」
「………」
「ミスリルはマゾ。乱暴な方が好き。おわり」
「……なんでだよぉぉぉっ!?」
アレクの悲鳴にも似た叫び声が響き渡った。
この叫び声で、鉄鉱石の精錬から始まり銀鉛鉱とミスリル鉱の、実に1年3カ月にも及ぶ長かった精錬の日々は終わりを告げたのだった。
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