059_軍属
決闘の顛末だが、まず落とし穴の中で石に埋もれていたバンガラム・ザンデルは助かった。
あと数分救出が遅かったら死んでいただろう。しかし、熊獣人の強靭な肉体によってぎりぎり生きていた。
そして、決闘に関する不正に関わっていないことが調査によって明らかになったので、今は自由の身になっている。
アーマネス・ブラガンとその父のブラガン六等勲民は、神聖な決闘に魔術士を送り込んでアレクを殺そうとしたことが判明して投獄されている。
後に裁判が行われ、厳罰が言い渡されることになるはずだ。
また、ブラガン六等勲民家の本家であるブラガン三等勲民家も関与が疑われたが、証拠がなく処分保留になった。
だが、分家のブラガン六等勲民家が神聖な決闘において不正をしたことで、本家の管理不行き届きが王国中に知られることになり、官僚の座を追われることになってしまった。
決闘の審判員をしていたセージ・アムネカットはブラガン六等勲民家から金品の授受があったことが判明して、私財を差し押さえられたうえで罷免になった。
おそらく、彼は今後どの貴族家にも仕えることができないだろう。
決闘の申請を授受した役人も、魔術士であるアレクが代理人を立てることを許さなかったことで調査対象になり、ブラガン六等勲民家との繋がりが判明したため、セージ・アムネカット同様に私財を差し押さえられて罷免されている。
アレクを襲った魔術士は、ブラガン六等勲民に雇われてアレクを狙ったと証言する代わりに減刑処置を受けたが、5年間の入牢が言い渡された。
デーゼマン家はブラガン六等勲民家が持っていた塩の権利を得ることになった。
これは決闘の条件になっていたので、ブラガン六等勲民家の罪の有無に関わらず得ることができた。
そしてアレクだが、アレクは軍属になった。アレクは国王によって宮廷魔術士の称号を得ただけではなく、王国軍に所属することになったのだ。
アレクの階級は国王の肝いりということと、軍務大臣や王国軍統括幕僚であるオイゲンスの計らいもあって、中佐という破格の待遇である。
この待遇をもってアレクはある部隊の隊長に就任した。
「この際だ、王都に屋敷を持つことにする」
フォレストは以前からクリスと相談していたことを実行に移すことにした。
デーゼマン家の王都での活動拠点としてはカーシャの家があるが、アレクが王都に住むことになったため屋敷を新しく購入することを決めたのだ。
屋敷を買うにはそれなりの金額がいるため、銀やガラス製品などでもう少し財を蓄えてから購入するつもりだったが、アレクのことがあり前倒しすることにしたのだ。
今のデーゼマン家は物資横領に関わる件でガウバス六等勲民家から莫大な損害賠償があったのと、今回の決闘で不正をしたブラガン六等勲民家からも賠償がある予定だ。
ガウバス六等勲民家はフォレストたちの暗殺が明るみになって取り潰されることが決定しているが、賠償は王国が接収した資産の中からされることになっている。
「ウイル、屋敷についてはお前に任せる。それと王都の屋敷は今の家を含めてウイルに任せることにする」
「誠心誠意務めさせていただきます」
「クリスには私のほうで書状を書くが、ウイルからも書いてやってくれ」
「畏まりました」
ウイルはクリスの下で文官をしているが、元は王都でフォレストの従士をしていた人物だ。
王都のことに精通していて、政治にも明るいウイルはフォレストから厚い信頼を寄せられている。
▽▽▽
神帝暦619年8月。
真夏の日差しが照りつける中、1台の馬車と護衛が王都から出ていく。
この一行が向かう先は王国軍の駐屯地であり、その馬車の中からはため息が漏れ聞こえてくる。
「アレクサンダー様、軍属になってしまったことを今さら嘆いても仕方がありませんよ」
「カムラ隊長、僕に軍人なんて務まらないよ……」
「アレクサンダー様はお優しいですから、命令1つで人を容赦なく殺さなければならない軍人には向かないでしょうね。それと私は隊長ではなく特務大尉ですよ」
「あ、うん……特務大尉だったね……」
この一行は軍人になったアレクのもので、自分の指揮する部隊が所属する王都北駐屯地へ向かっているのである。
アレクが軍人になると、王都の城の中で毎日のように軍の規律や規範について学ぶことになった。
隊長就任ありきなので、詰め込むだけ詰め込んだ形になったのは仕方ないだろう。
おかげでアレクは睡眠不足の日々を送ることになったのである。
その期間を経てアレクは中佐に任官され、部隊を任されることになった。ただし、アレクに兵の指揮経験はほとんどないので、デーゼマン家からアレクを補佐する者を出している。それがカムラたちである。
それに、軍属であっても貴族は従者を連れていくことができる。その従者の中に指揮能力に長けた者を入れることはなんの問題もないのだ。
従者の数は階級によって決まっているので、中佐のアレクは5人の従者を連れていくことが許されている。
その際、その従者に特別に階級が与えられるため、カムラは特務大尉、オウエンは特務中尉、さらにはラクリスまで特務少尉になっている。
他に、馬車の御者をしているソムンとアースリザードに騎乗しているゲーデスがいる。
ソムンはラクリスと同じ孤児で、ラクリスを保護した時に一番騒いでいたリーダー格の少年だ。
初夏に王都に向かうアレクの従者にしてほしいと頼み込んできたことから、今回、呼び寄せて特務曹長になっている。
ゲーデスは牛の獣人で、フォレストの騎士時代の従士である。
その戦闘力を見込んでフォレストが従者としてアレクにつけた人物で、日頃はあまり喋らない寡黙な男だが戦闘になって血を見て興奮すると饒舌になる。こちらは特務中尉である。
「アレクサンダー様、王都北駐屯地が見えてきました」
ラクリスに促されて窓の外を見ると、周囲が木の柵で取り囲まれた王都北駐屯地が目に映った。
木の柵の向こうに王都ほどの規模ではないが石造りの防壁があって、その防壁の上には王国旗と王国軍の軍旗、そしてこの王都北駐屯地の司令官である貴族の紋章旗がはためいている。
「本日赴任なされた、アレクサンダー・デーゼマン中佐である」
カムラがそう言うと門の前で警備をしていた兵士が敬礼した。
「規則ですので、身分証を確認させていただきます」
これは当然のことなので、兵士はアレクを始め全員の身分証を確認した。
「ご協力ありがとうございました! デーゼマン中佐の赴任を歓迎いたします!」
兵士がそう敬礼すると、他の兵士によって門の前に置かれたガードが動かされ、門が通れるようになった。
最初の接触は好感触であるが、はてさてどうなることか。




