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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
八章

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57/160

057_軍属

 


 うす暗い通路をゆっくりと進むアレクは、心臓が飛び出そうなくらい激しく高鳴っている。

 一歩一歩光に向かって進むアレクの手には愛用の魔術筒が握られていて、ローブの下にはドラゴンの革鎧を着こんでいる。

 そう、今日はアレクの決闘の日なのだ。

 先導する騎士団員が立ち止まり、アレクのほうを振り向く。

「アレクサンダー・デーゼマン殿、準備はよろしいか?」

「……はい」

「では、ここからはお1人で進まれよ。審判員と対戦相手がお待ちになっておられる」

「ありがとうございます」

 アレクはふーっと大きく息を吐き、目を閉じる。

 この年になるまでに2度も死にかけて戦場にて人の死を間近で見てきたアレクには、決闘に臨む決心はできている。

 目を開けたアレクはここまできたら悩む必要はなく、決闘相手に勝つだけだと自分に言い聞かせて迷うことなく足を進めた。


「おおおぉぉぉっ!」

 決闘場になっている騎士団の闘技場には多くの観客が詰めかけていて、アレクの姿を見た観客が歓声をあげた。

 闘技場は大きな円形状になっている。その中央に審判と今回の決闘相手であるバンガラム・ザンデルがいる。

 決闘を申し込んだ相手であるアーマネス・ブラガンは、観客席に陣取っているのが見えた。

 申し込んだ人物が決闘に出てこずに、申し込まれた自分が決闘の舞台に立っているその違和感をアレクは感じているが、今それを言っても詮なきことである。


「これよりアレクサンダー・デーゼマンとアーマネス・ブラガンの代理人たるバンガラム・ザンデルの決闘を執り行う」

 審判の声が闘技場全体に響き渡った。これは、風属性の拡声魔術によるものだ。

 アレクは審判の言葉より目の前にいるバンガラムの鎧の鋲の数を数えていた。

 バンガラムは熊の獣人で非常に大柄の人物なので、まともに見てしまっては緊張するのではないかとフォレストが緊張しない方法を数えてくれたのを実践しているのである。

 バンガラムの手にはアレクでは両手でも持てるか分からないくらいの巨大な剣と大盾がもたれていることからも分かるように、非常に屈強な体をしているのだ。


「アレクサンダー・デーゼマンで間違いないか?」

「はい」

「アーマネス・ブラガンの代理人たるバンガラム・ザンデルで間違いないか?」

「おう」

「この決闘に禁止事項はない。お互いに死力を尽くして戦うように」

 アレクとバンガラムが頷く。

「アレクサンダー・デーゼマンが勝てばブラガン六等勲民家が所有する塩の権利をデーゼマン家に譲渡し、バンガラム・ザンデルが勝てばアレクサンダー・デーゼマンとラーレ・オイゲンスの婚約は破棄される。双方、これに間違いはないか?」

 再び、アレクとバンガラムが頷いた。

「決闘はどちらかが降伏するか、戦闘不能となった場合に決着する。よって、相手を死に追いやっても罪には問われない。お互いに準備はよいか?」

 アレクとバンガラムが頷くのを見て、審判は後方に下がる。


「双方、指定の位置につきませーーーいっ!」

 審判員が時代がかった言葉使いになる。これが決闘を開始するときの作法である。

 その声でアレクとバンガラムは下がって指定の位置に向かう。

 2人の距離はおよそ10メートル。

 魔術士が詠唱をしている間に、縮めることができる距離でもある。

 アレクは移動しながら会場を見渡した。

 そこには父フォレストの姿に婚約者ラーレとその父であるステイラムの姿もあった。

 ラーレは胸の前で手を合わせて祈るようにアレクを見つめているのが分かった。

 初めて会った時には気の強い女性だと思ったし、決闘まですることになってラーレとは気が合わないと思っていた時もあった。

 それが今ではラーレを婚約者として受け入れている自分がいる。なんだかおかしくなってしまう。


「何がおかしい?」

 アレクの顔を睨んでいたバンガラムが、アレクの口に浮かんだわずかな笑みを見逃さなかった。

「貴様の親父もそうやっていつも笑っていやがったぜ」

 バンガラムはフォレストと同じ隊にいたこともあったため、過去のフォレストを知っていた。

「いけすかねぇ笑みを浮かべるのは親父譲りだな」

 フォレストがなぜ笑っていたか分からないが、アレクに関しては笑った理由は分かっている。幸せなのだ。


「気分を害したのであれば、すみません。貴方のことを笑ったわけではないのです」

「ふん。どうでもいい。貴様はすぐに死ぬんだからな」

「……」

 決闘は結果的に相手が死ぬこともあるが、殺し合いの場ではない。

 あくまでも貴族同士や騎士同士のプライドをかけた戦いを行うのが目的である。

 最初からアレクを殺すと豪語しているバンガラムは本末転倒である。


「双方、私語は慎むように!」

 審判員が2人を注意すると、バンガラムは地面に唾を吐いた。

 このソウテイ王国では決闘を神聖視しているので、このような行動は観客からも非難の声があがった。

「バンガラム、貴族の恥となる行為は慎め!」

 貴族たちの非難の声を受けて、アーマネスがバンガラムを恫喝した。

「け、クソ野郎が」

 バンガラムはぎりぎりと歯を噛み、言葉を吐き捨てた。


「お互いに、礼!」

 中断しかかった決闘を、審判員が進行させる。

 アレクは素直に審判員に従い礼をしたが、バンガラムは礼をすることはなかった。

「5秒後に決闘を行う!」

 審判員は構わず進行する。

「4……3……2……1……」

 少し溜めを作る。

「決闘開始ぃぃぃっ!」

 審判員の声によって決闘が開始された。


 

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