056_軍属
「あの……アレクサンダー様が決闘をされるのに、私が手ほどきを受けてもよろしいのでしょうか?」
「アレクはアレク、ラーレ嬢はラーレ嬢だ。きなさい」
フォレストとラーレが対峙する。
「分かりました!」
ラーレは鉄壁デーゼマン相手に自分の剣がどこまで通じるのかと思い、その全てを出し切る。
一方、決闘を控えたアレクは、特に決闘の用意をすることもなく、以前は倉庫だった作業場の中で日課になっている魔力を消費させていた。
「アーマネスの代理人はバンガラム・ザンデルって人らしいよ」
貴族の決闘には代理人を立てることができる。
そういった代理人を立てることができるというのも、貴族の力だからだ。
それなのに騎士が魔術士に決闘を申し込むのが恥とされているのは、なぜか?
その理由は簡単で、騎士や魔術士は代理人を立てることができないからだ。
面倒だが、そういう不文律がこの国にはあるのだ。
「バンガラム・ザンデルだと!?」
フォレストが眉間にシワを寄せる。
「父さんは知っているの?」
「うむ。しかし、バンガラム・ザンデルは牢に繋がれていたはずだが……」
フォレストの話によると、バンガラム・ザンデルは元騎士団員で、同僚の騎士と私闘に及び、殺害して投獄されていたそうだ。
私闘と言っているが訓練の最中のことであったため、本来は罪に問われることはなかったのだが、殺されたのが上位貴族の子弟だったため、投獄されることになったそうだ。
しかし、今はその上位貴族も権力闘争に敗れて凋落し、ブラガン家が保釈して連れ出したようだ。
「そうか、バンガラム・ザンデルが出てきたのか……」
「そのザンデルさんは強い方なんですよね?」
「ああ、強いな。あいつの剣はまさに人を殺す為の剣だ」
「……」
フォレストにそこまで言わせる男は少ない。だからアレクは不安になった。
「僕で大丈夫かな……」
「まぁ、近づけなければどうってことはないだろう」
剣の間合いは短いのだから、近づけずに土魔術で生き埋めにしたり、落とし穴に落としたりすれば決着はつくだろうとフォレストは言う。
▽▽▽
神帝暦619年6月。
今日はデムセマラ・ガウバスの刑の執行日である。
デムセマラは移民輸送部隊の隊長で、物資の横流しをしていた人物だ。
デムセマラの罪状は物資の横領と、クリスとフリオの殺害未遂である。
このことからデムセマラに言い渡された判決は死罪である。
また今回のことでデムセマラの実家であるガウバス六等勲民家当主も、フォレストに私兵を差し向けて殺害しようとしたことから死罪が確定し、家は取り潰しになることになった。
「これよりデムセマラ・ガウバスの死刑を執り行う!」
刑務官が羊皮紙を広げて読み上げる。
刑場の周囲は多くの民衆によって埋め尽くされていて騒然としているが、これはいつものことである。
「罪状はデーゼマン九等勲民息子フリオの殺害未遂。ゼンバー十三等勲民家正室クリスティーナの殺害未遂。国家の所有物の横領である」
王国の死刑はいくつかあって、斬首刑、絞首刑、斬胴刑が有名だが、他に内密に処理するための服毒刑などがある。
貴族の場合は絞首刑はないが、デムセマラは十一等勲民なので厳密にいえば貴族ではない。そのため、今回は絞首刑による刑の執行となっている。
「え、えん罪だ! 私は何もしていない!」
「刑はすでに確定している。この者を黙らせよ」
刑務官の指示によって猿ぐつわをされたデムセマラはさらに麻袋を顔に被せられる。
暴れるデムセマラを大人しくさせるために殴る蹴るの暴行が加えられ、デムセマラが大人しくなったところで2人に支えられたデムセマラの首に縄がかけられる。
神父による祈りが捧げられると、デムセマラの立っていた床の閂が外され刑は執行された。
この刑の執行にはデーゼマン家の者は誰も立ち会っていない。
物資の不足分はすでに補填されているし、クリスとフリオに怪我もないのだからデムセマラに悪感情はあっても特に刑を検分する必要性を感じないのだ。
実際のところ、今のデーゼマン家はアレクの決闘騒ぎがあって、こんなことに割く時間はないのである。
デムセマラの数日後には、ガウバス六等勲民の刑の執行も行われ、家は改易になっている。
これに関してもデムセマラの時と同じでデーゼマン家の者は検分することはなかった。
こちらはフォレストたちを襲撃して捕縛された者の中にガウバス六等勲民家の家臣が含まれていたので、証言が簡単に取れたことから刑の確定が早かった。
どちらも身勝手な理由からデーゼマン家に手を出した者たちの末路として、王国貴族に重く受け止められた事案である。
また、ガウバス六等勲民家の本家であるガウバス四等勲民家も今回のことで財務官僚としての地位を失い、その波紋は広がっている。




