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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
八章

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53/160

053_軍属

 


 神帝暦619年4月。

 アレクは久しぶりにマーロ合金の加工を行った。

 マーロ合金は鉄、銀鉛、ミスリル、炭からなる伝説の合金である。

 圧倒的な魔力を持っているアレクでもマーロ合金の加工は大変であり、あまりやりたい作業ではない。

 だが、クリスからの命令なのでアレクに拒否権はない。

「アレク、結納用にマーロ合金製の剣を造ってちょうだい」

 言うまでもなく、アレクとオイゲンス五等勲民家のラーレ嬢の結納である。

 まだ2回しか会ったことのないラーレ嬢を嫁にするために、まずは新郎側が新婦側に結納の品々を贈る風習があるのだ。

 この場合、アレクの父であり当主であるフォレストがオイゲンス家へ赴いて結納の品々を渡すことになる。

 その時の目玉の品になるのがマーロ合金製の剣である。

 ソウテイ王国では結納時に剣や短剣を贈る風習がある。

 これは新婦に刃物を贈ることで、新郎は結んだ縁を決して切らないという意味らしい。

 平民ではこういった風習もないが、貴族というのは何かと面倒な風習や慣例に縛られているのだ。


「たしか、細剣だったよな……」

 ラーレが使っていた細身の剣を思い浮かべ完成形をイメージし、トレントの杖を掲げる。

 トレントの杖の先に魔法陣が現れ、回転し出す。

 魔法陣が跳ねる感覚を魔力を制御して抑え込む。

 これがマーロ合金で何かを造る時の特徴で、膨大な魔力でマーロ合金を包み込み気が遠くなるほどの制御を行うのだ。

「剣生成!」

 光の中でマーロ合金の塊だった物が細身の剣に変わっていく。

 マーロ合金製の細剣が光の中から現れた。

「ふぅ……」

 細剣1つ造るだけでも精神的な疲れはどんな魔術を行使するよりも酷い。

 今はトレントの杖があるのでまだましだが、本当にマーロ合金は厄介なのだ。


「次は父さんたちの鎧を造れって……クリス姉さんも人使いが荒いよ」

 マーロ合金を作るための鉄、銀鉛、ミスリル、炭は大量にある。

 銀鉛は鉄製品の硬度を増すためによく使われる素材で、鉄や銀鉛はそれほど珍しくない。

 炭については言うまでもないだろう。

 しかし、ミスリルは別である。ミスリルは希少な金属で、ミスリルの剣ともなると目が飛び出るほど高い。

 デーゼマン家はそのミスリルの生産を始めたことで、今では資金力のある貴族家になった。


「さて、鎧を造るかな」

 マーロ合金の塊に魔力を流す。

 形状が複雑な鎧は思った以上に魔力を消費する。

「これは大変だ……」

 できあがった鎧は、とても鎧とは呼べるものではなかった。

 アレクはこの日から1カ月こもりっきりになるほどに、剣や槍よりも複雑な形状の鎧に手こずった。


「ほら、アレク、準備して」

 今日はフォレストとアレクが王都に出発する日である。

 オイゲンス家に結納の品々を贈るために、フォレストとアレクが王都に向かうのだ。

 昨日までマーロ合金製の鎧を造っていたアレクは魔力は回復しているが、精神的にヘトヘトの状態だ。

「おい、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

 そう言うフォレストは真新しいマーロ合金の鎧を着こんでいる。

 アレクのことは心から心配しているが、このマーロ合金の鎧が嬉しくて顔がにやけてしまう。

「大丈夫だよ。しばらくは休めそうだし、そうしたら治るから」


 王都に向かう道中で精神的な疲労は回復したが、別の問題が発生した。

 シュテイン州からアルガス州へ入ってすぐに、思わぬ長雨で途中の町に長逗留することになったのだ。

「この町でもう5日になる。この雨はいつになったら上がるのだ?」

 5日も足止めされて体を動かせないことから、フォレストでも泣き言が出る。


 6日目、雨はやっと上がるも、長雨の影響で街道がぬかるんでいた。

 アースリザードはパワーがあり、街道がぬかるんでいても車を牽くになんの支障もないが、商人などの馬車はそうとう苦労しているようだ。


 今度はアルガス州を進むデーゼマン一行の前に武装勢力が現れた。

 当初は盗賊かと思われたが、その容姿や装備からとても盗賊とは思えない。

「我らをデーゼマン家の者と知っての狼藉か!?」

 家臣のパッテン・アーデンが武力集団に問いただすも返答はなく、逆に矢が飛んできた。

「問答無用か!?」

 パッテンは剣で矢を打ち払ったが、これで武力集団がデーゼマン家を狙ったのだと分かった。


 その光景を見ていたフォレストは愛用のマーロ合金製の剣を抜き、アースリザードを走らせた。

 そのフォレストに続くのは、フォレストが手塩にかけて鍛え上げた精鋭中の精鋭である、フォレストの直轄部隊だ。

 数は武力集団が100人ほどに比べ、デーゼマン家は30人と少ないが、こんなことで怯む柔な鍛え方はしていない。

 取り残されたのはアレクとラクリス、そしてアレクの護衛であるカムラたちである。


「父さんにも困ったものだよ……」

「お館様に戦いを挑むなんて、命知らずの愚か者もいるのですね」

 馬車の中でアレクとラクリスは危機感もなく話している。

「しかし、どこの誰が?」

「マリア様がデムセマラ・ガウバスの一族が襲ってくる可能性があると、仰っていました」

「デムセマラ・ガウバス……? ああ、あの人か」

 アレクはあまり移民について関わっていない。

 アレクは土魔術を使った土木工事に従事していて、それどころではなかったのだ。

 だから、名前を聞いてもすぐには思い出せなかった。

 このデムセマラ・ガウバスは、移民政策に関連して物資を横領したとクリスに指摘され、いまは王都で裁判を待つ身の人物である。


「その実家が逆恨みをしていると、マリア様は仰っていました」

「やっぱりマリアはすごいね。マリアが妹でよかったよ」

 アレクとラクリスは呑気に話をしているが、馬車の外では地獄絵図が広がっている。

 フォレストの直轄部隊はデーゼマン家の中でも最上級の装備が与えられている。財力に物を言わせた装備である。

 その精鋭部隊は王国騎士団の精鋭部隊と比べても遜色ないどころか、上をいくかもしれない。

 そんなフォレスト直轄の部隊を相手にするには、100人では足りなかった。

「武器を捨てて降伏すれば命は取らぬ! だが、抵抗すれば皆殺しだ!」

 ひと際大きなアースリザードに跨った、フォレストが降伏勧告をすると、武器を捨てて降伏の意思を見せる者が現れた。

 だが、多くの者は抵抗するか、逃げ出そうとしたのでフォレストと精鋭部隊は容赦なく切り捨てた。


「それで、お前たちは何者で、雇い主は誰だ?」

「………」

 武力集団は壊滅し、フォレストは12人を捕縛した。

 その12人に尋問をするが、誰1人喋ろうとはしない。

「なんだ、死にたいのであれば、投降する必要もなかったのだぞ」

 そう言うと、パッテンは1人の捕虜の胸に剣を突き立てた。

「がぁっ!?」

「喋らぬ者は必要ない。死んで悔いればいい」

 父親のジジリスは好々爺のような風貌だが、パッテンは武人といった風貌である。

 その性格も風貌と同じで、血を見ることにためらいはない。特に目の前で縛り上げられている彼らは盗賊と同じ扱いができるのだ。

 捕縛された者たちがどこかの貴族に仕えていると言えば捕虜としての扱いになるが、今の彼らは何も言わないことから盗賊として扱っても不都合ないのである。


「もう一度聞くぞ、お前たちは何者だ?」

 パッテンの凶悪な笑顔に捕虜たちは縮み上がった。

「なんだ、まだ言わないのか」

 そう言うと、また剣を振り上げる。

「い、言います! 言いますから、助けてください!」

「早く言えよ、俺は気が短いんだ」

「私はガウバス六等勲民家の家臣です」

「ほう、ガウバス六等勲民家か。それをどうやって証明するんだ?」

「た、隊長がガウバス六等勲民家の紋章を持っているはずです!」

 話を聞くと、武力集団はガウバス六等勲民家の家臣と傭兵からなる部隊だった。

 簡単にいえば、逆恨みによるデーゼマン家襲撃部隊であった。

 マリアの予想は悪い方向で当たってしまったわけである。


 話を聞くと、襲撃部隊の隊長は戦いで死んでいるので、その死体の懐からガウバス六等勲民家の紋章が出てきた。

 普通、このような時に貴族が特定されるような紋章を持ってくるのはあり得ないが、この隊長はなぜか持っていた。

 まさか100人もの数で奇襲して負けるとは思っていなかったのかもしれない。または、使い捨てられることを悟っていたか?


「お館様、どうしますか?」

「隊長の首を持っていく。アレク、他の者の死体を埋めてくれ」

「分かったよ」

 隊長の首をパッテンが切り取ると、アレクは90人ほどの死体を埋めた。

 死体が集められた場所の地面にあっという間に穴ができて死体が落ちていく。その上に土を発生させて終わりである。

 アレクがいると、このていどのことは1分もかからないからすごい。


 

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