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048_移民政策

 


 ラーレは鮮やかな青色の髪の毛が印象的な気の強い美人だ。

 実際に父娘の言い争いを聞いていると、気の強さが分かる。

 しかも、軍務大臣の屋敷へ訪問しているのにドレスではなく金属鎧を着こんでいるのだから、剣姫と言われるのも納得である。


「オイゲンス閣下、一度アレクとラーレ様の手合わせをさせてみましょう」

「え!?」

 アレクは驚いてクリスの顔を見た。軍務大臣も同じようにクリスの顔を見た。

 アレクは「何言っているんだよ!」と非難の視線で、軍務大臣は「それでいいのか?」といった戸惑いの視線だ。


「ラーレ様がお逃げになられるのであれば、手合わせの話はなかったことにしますが?」

「何を仰るか!? 私がなぜ逃げねばならぬのです!」

 なんでそんな煽るようなことを言うのかな……アレクはため息を吐く。

「よし! ラーレよ、アレクサンダー殿と手合わせせよ!」

「当然です! 逃げたなどと言われるのは我慢なりません!」

 あの……僕が逃げていいですか? え、ダメ? クリス姉さん!?


「手合わせはともかく、今回の上京は例の移民の話かな?」

 ナイスです! ヒリング様は救いの神様です! とでも言っているかのような目でアレクはヒリング三等勲民を見た。

「はい、その通りでございます」

 クリスがにっこりと応える。

 そのまま手合わせの話はなしでお願いします! とアレクは頷くが、それは無理だろう。


「陛下は殊の外、貴家を気にかけておられる。移民で人口が増えれば領内の発展に繋がるとお考えのようだ」

「ありがたいことです。しかし、ただ人を増やせばよいというわけではございませんので、その点について国と認識の調整をしたく思っております」

 クリスはいつも通り平然と話しているが、アレクは背中に流れる汗が止まらない。

 ヒリング三等勲民とクリスの2人が話を聞いている外で、オイゲンス父娘がアレクに視線を固定しているのだ。蛇に睨まれたカエルである。


「うむ、分かった。私からも陛下にお話をしておこう」

「ありがとうございます。閣下」

「しかしアレクサンダー殿といい、クリスティーナ嬢といい、デーゼマン家の者は優秀で何よりだ。ははは」

 軍務大臣はクリスのことが気に入ったようだ。

 アレクはオイゲンス父娘から熱い視線を向けられているけど。


「もっと早くクリスティーナ嬢に会っていれば、我が息子の嫁にと請うたものを、残念だ」

「まぁ、閣下はお口がお上手ですこと」

 2人は笑い合っているが、その目は笑っていない。

 そしてアレクに熱い視線を向けていた2人が、ヒリング三等勲民の話が終わったと同時に口を開いた。アレクは逃げられない。


 ステイラム・オイゲンス五等勲民の五女で剣姫と称されるほどの剣の腕を持つラーレ・オイゲンスは、鼻息荒く愛用の細剣を振って感触を確かめている。

 いつも振っている愛用の細剣なのでそこまで念入りに確認しないでもいいだろうにと、アレクは頬をかく。

「さぁ、やるぞ! デーゼマンとやら、かかってこい!」

 アレクとラーレはヒリング三等勲民家の訓練場を借りて手合わせをすることになったのだ。


 やる気満々のラーレと、やる気のないアレク。

「そもそも剣士と魔術士では圧倒的に魔術士の方が不利なんだけど。はぁ……」

 アレクは独り言をブツブツと呟き、ため息を吐く。

 魔術士が魔術を行使するには詠唱が必要になるが、剣士に詠唱は不要だ。

 1対1の状況下では魔術士の方が圧倒的に不利になる。

 だから魔術士が1対1の勝負を受けることはない。

 そもそも魔術士に1対1の勝負を挑む剣士や騎士はいないのである。

 剣士や騎士が1対1の戦いで魔術士に勝っても自慢にもならない。逆に勝って当たり前の勝負を挑んだ剣士や騎士の名誉のほうが落ちるのである。


「本当にやるのですか?」

「安心しろ、初手は譲ってやる。デーゼマンとやら、いつでもかかってこい」

 全身を金属の鎧で固めたラーレは顔が見えないフルフェイスの兜を被っているので、その美しい声もくぐもって聞こえた。

 そんなラーレは美しい所作で剣を振り下ろして、兜越しにアレクを見つめる。


 これまで何人もの剣士と魔術士を倒してきたことがラーレの自信に繋がっている。

 ラーレから魔術士に戦いを挑んだわけではなく、魔術士がラーレを妻にしようとして戦いを挑んだのだ。

 もちろん、その全てで勝ちを収めてきたのは語るまでもない。

 対してアレクは1対1の対人戦は初めてである。


「なんで僕がこんなことになっているんだろか……?」

「さぁ、こい! 早く詠唱しろ! さもなければ、私からいくぞ!」

 随分と戦い好きのご令嬢である。伊達に剣姫と呼ばれていないようだ。

「分かりました……天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也……」

「ほう、土魔術か? 土魔術士と戦うのは初めてだ。くるがいい!」

「我の血肉を捧げ其を顕さん。石大量生成……」

 アレク詠唱が終わると、空中から大量の石がラーレに向けて降り注いだ。


「なにっ!?」

 ラーレは拳大の石が空を覆いつくすほど落ちてくるその光景に驚いたが、さすがは剣姫と言われるだけあって反応は速かった。

 ただ、反応できても避けられるとは限らない。

 石は広範囲に渡って落ちてきて、ラーレの金属鎧に容赦なく当たる。

「くっ、卑怯な!?」

 魔術士であるアレクに先手を譲ってこの言葉はないと、アレクは魔法陣に魔力を流しながら苦笑いをした。

 ラーレの鎧は石によって凹み、周囲に石が積もっていく。


「ま、まだだ……」

 剣を振り石を避けても石は次から次に降り注いでくる。

 アレクは早く降参してほしいと思ったが、ここで手を緩めたら自分が危ないので、心を鬼にして石を降らせた。

 石を何度も払っているうちにラーレの細剣が折れた。

 それと同時にラーレの心も折れたのか、そのまま抵抗もできず石に埋もれていく。

 そこでアレクはさすがに石を降らせるのを止めて、立会人の軍務大臣を見た。


「………」

「………」

 軍務大臣とその横で見守っていたオイゲンス五等勲民は口をポカーンと開け、呆然としていた。

「閣下、判定を」

 クリスが声をかけたことで軍務大臣は我を取り戻す。

「しょ、勝者アレクサンダー・デーゼマン!」

 その声と同時にアレクは石を取り除いて、石の中に埋もれていたラーレを助け出した。

 軍務大臣の抱える回復魔術士がラーレを回復させたが、ラーレは気絶していて気がついた時には夜になっていた。

 当然のことだが、ラーレが目を覚ましたのはアレクとクリスは帰った後である。


 

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