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047_移民政策

 


 神帝暦618年8月。

 真夏の厳しい暑さが体力を奪う。

 時々吹くぬるいそよ風でもないよりはマシだが、日除けがないと本当に倒れそうになる。ここまでの暑さはとても珍しく、数十年に一度の暑さがこの三日続いている。

 そんな厳しい暑さの中、魔物とは何度か遭遇し、盗賊にも一度遭遇したが、王都への旅は怪我人もなく順調に進んだ。

 魔物や盗賊は近づく前にリーリアやラクリスが接近を感知して、リーリアのストレス発散の相手として可哀そうな目にあった。


「王都につく前に魔物の素材で荷台が溢れてしまいそうだよ」

「もうすぐ王都だから、到着する前に肉は盛大に食べてしまいましょう!」

 多くの魔物の素材が10台の荷車から溢れそうだとアレクがこぼせば、クリスは溢れる前に食べてしまおうと提案する。

 今回、リーリア、クリス、アレクの3人が王都に向かっている。

 王都に向かう理由は、王家から移民を受け入れるように要請があったからである。

 移民と言っても王都や周辺の大都市のスラムに住む貧民層である。

 ガラス製品に続き、銀山開発も順調にいっているデーゼマン家には働き手が必要だろうと国が恩着せがましく要請してきたのだ。

 国は移住に関する費用や物資の支援をすると表明していて断れない状況なので、どうせなら自分たちに有利な移住者受け入れにしようとクリスが乗り出したのだ。

 ちなみにアレクはフォレストの代理で、クリスは実務担当、リーリアは目的不明の王都入りである。


 デーゼマン家の一行は貴族用の馬車にアレク、クリス、ラクリスの3人が乗り、荷車10台の他にアースリザードに騎乗したリーリアと15人の護衛からなる。

 その一行がたらふく食っても魔物の肉はなくならないほどあり、残った肉や素材は王都で商人に売ることになる。

 アースリザードに跨るリーリアの姿はまるで女将軍のように堂々としている一方で、アレクたちが乗る馬車は乗り心地向上のために細かい細工がされているため造りはしっかりしていているのだが煌びやかさはない。

 小規模の一行なのだが、道中では女将軍と従士一行のように見られていた。


「明日には王都に入るから、今の内に最初にすることをおさらいしておきましょうか」

 王都に入ったら移民のことだけではなく、関係のある貴族家への挨拶回りもしなければならない。

 こういったことにリーリアは一切関わろうとしないので、アレクとクリスの2人で分担することになる。

 移民に関しては宰相へ面談を申し入れなければならないので、申し入れてから数日から十数日は待たされるだろう。

 その待ち時間を利用して親しい貴族家への挨拶回りを行うのだ。


「まずはヒリング家ね。挨拶の折りには私もついていくわ。献上品も必要だから」

「ヒリング様が会ってくださるかな?」

 ヒリング三等勲民は軍務大臣なので忙しい身だし、九等勲民のデーゼマン家から見れば雲の上のような存在である。

 王女のパーティーで会ったきりのデーゼマン家の、それも当主ではないアレクを覚えているわけもないだろうとアレクは考えていた。


「覚えられていなくても、挨拶に伺って会えなくても構わないのよ。挨拶に伺ったという事実が重要なの」

 九等勲民家の嫡男が当主の代理として三等勲民家に挨拶にいくことが重要だとクリスは言う。

「他には第三騎士団のブリッグス団長と騎士団関係の方が数人ね」

 ブリッグス団長はフォレストとは同期の間柄で、アレクも何度か会ったことがある。

 ヒリング三等勲民家への挨拶に比べれば気は楽だが、ブリッグス団長も四等勲民であり上級貴族である。

 だが、フォレストとは長いつき合いだし、気さくな人物なのでアレクも比較的話しやすい相手だ。


「あと忘れてはいけないのが、アッバス三等勲民家よ。お父様の恩人だからヒリング三等勲民家の次に挨拶に伺うわよ」

 アッバス前三等勲民はフォレストが騎士団に入団した時の騎士団長だ。

 前とつくのは、今は隠居して息子に家督を譲っているからである。

 騎士団に入団すると従士(見習い)、従士(準騎士)、騎士(分隊長)、騎士(小隊長)、騎士(中隊長)といった具合に昇進していく。

 入団したばかりの新米従士だったフォレストに剣のいろはを教え込んだのが、アッバス前三等勲民なのだ。

 面倒見がよくて部下に絶大な人気があっただけではなく、戦働きも豪傑と言われるほどの人物である。

 息子に家督を譲ってからは悠々自適の隠居生活を送っていると聞くので、屋敷にいると思われる。


 翌日、アレクたちデーゼマン家の一行は王都に入った。

 貴族は上京するとすぐに城に届け出なければいけない。それは貴族の正妻と嫡子の場合でも同じである。

 その処理をするために登城して、その際にアレクは宰相への面談を申し入れた。

「やっぱりお城は緊張するなー」

「誰に会うわけでもないのに緊張なんかしていたら身が持たないわよ」

 クリスの言う通りだがアレクはクリスほど図太くはないし、性格は小市民なのだ。


 翌日にはヒリング三等勲民家を始めとした貴族家巡りが始まった。

 リーリアはそういったことの全てをアレクとクリスに任せ、酒場などに入り浸っている。しかし、アレクたちがそれを諫めることはない。

 リーリアにはリーリアの仕事があることをよく知っているからだ。


「遠路はるばるご苦労だったね」

「ありがとうございます」

 ヒリング三等勲民家に赴いたアレクとクリスは献上品を置いて帰るつもりだったが、なぜか軍務大臣本人と面会ができてしまった。

 しかもステイラム・オイゲンス五等勲民までその場にいた。

 このオイゲンス五等勲民はアレクとの縁談話がある、剣姫ことラーレ・オイゲンスの父親である。

 アレクとしては剣姫と戦うなど考えていないので縁談はなくなったものと思っていたが、実は保留になっているだけである。


「アレクサンダー殿、我が娘が気に入らないのかね?」

 当然、縁談話になるわけで、アレクは困ってしまった。

「いえ、そのような……」

「ならば、ラーレを」

「父上、私は私よりも強き男性の元に嫁ぐと言っていましょう」

 オイゲンス五等勲民はアレクに剣姫を嫁がせようとしているが、当の剣姫は強い男性に拘っている。


「ならばアレクサンダー殿と立ち会ってだな」

 アレクは横に座っているクリスに、助けを求める視線を送ったがクリスは優雅にお茶を飲み、ことのなりゆきを静観している。

「オイゲンス殿、ラーレ嬢、2人とも落ちつかれよ」

 言い合いをしているオイゲンス父娘を落ち着かせようと軍務大臣が口を出したが、一向に収まらない。


「何を言っているのだ! アレクサンダー殿は帝国軍を退け、将軍を捕虜にした英雄殿であるぞ!」

「このような軟弱そうな男性が英雄というのは、いささか疑問です! 私の伴侶になられる方は強き男性と決めているのです!」

 初めて会ったアレクをけちょんけちょんに言うラーレだが、本当のことなのでアレクは反論ができない。

 ただ、自分でも気にしていることなので、そこまではっきりと言われると傷つく。


 

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