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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
六章

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045_それぞれの思惑

 


 神帝暦618年5月。

 王都から帰ってからのアレクのやることは多い。

 今は銀山の開発のためにヘリオから西にある山脈地帯へ赴いている。

 この山脈を越えた先は隣国のゼント共和国だが、山脈の境界線は過去の協議で確定しているので、開発をしても問題はない。

 だが、銀山があるとなると、ゼント共和国が所有権を主張する可能性もあるので、国への根回しは必要である。


 前回、王都へいった時にフォレストがその話を宰相にしたら、宰相は目を剥いて驚いた。

 これは折りを見て銀山開発を宰相の方から持ち出して、利権を得るつもりだったからである。

 宰相の思惑の上をいって銀山開発をする報告を受けたのだから、宰相が驚くのも無理はない。

 しかし宰相も百戦錬磨の政治家である。


「それならば、産出する銀の3割を国に収められよ。さすれば、国としてもゼント共和国を抑えるための理由づけができましょう」

 ここで多くを要求しなかったのも宰相の機転である。

 多くを要求すれば、フォレストに反感を持たれる可能性が高いし、反感を持たれてしまうとデーゼマン家を取り込むという宰相の考えが崩れてしまうのだ。

 まだ王国はデーゼマン家に引け目がある。陞爵させたからといって、それがすぐに解消されるとは思っていないのである。

 銀山開発は王国(宰相)とフォレスト(デーゼマン家)の間で話がついた。

 隣国との外交に関しては王国に任せることができ、デーゼマン家は心置きなく銀山開発ができるのであった。


 アレクは魔術を詠唱する。

「天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。ソイルサーチ!」

 このソイルサーチは土壌に含まれている成分を分析する魔術である。

 マリアの場合はこれを点でつかって魔力消費を抑えるが、アレクにそんな器用なことができるわけもない。

 膨大な魔力を惜しげもなく流して硬質な山肌から魔力を浸透させていくと、目的の銀の鉱脈を発見する。


 アレクはソイルサーチを何度も繰り返して、どこから掘り進めるのがいいかを選んでいく。

「よし、ここにしましょう」

「アレクサンダー様。マナポーションです」

 アレクにマナポーションを手渡したのはウイル・ニクスの弟のホーメン・ニクスである。

 兄ウイルがデーゼマン家に仕えることになった時に、ウイルに誘われてデーゼマン家の家臣になった明るい茶髪と茶眼の細身の男である。


「ありがとう。ホーメンさん」

 ホーメンはアレクの言葉に柔和な笑顔を返す。

 マナポーションを飲み干したアレクは、皆を下がらせて早速山肌に向かって詠唱を始めた。

「天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。ドリルシェイヴ!」

 魔法陣が回転しながら山肌を削っていく。

 しかも削られた土や岩が後方に送り出され、穴の前に積み上がっていく。

 丸い魔法陣が回転して山肌を削っていくので、直径3メートルほど穴ができていく。

 その光景はホーメンだけではなく、カムラやオウエンの他、随行した多くの者を驚かせた。


「あんなに簡単に山を掘削していく……さすがはアレクサンダー様だ!」

「アレクサンダー様、万歳!」

「アレクサンダー様、最高!」

「アレクサンダー様、万歳!」

「アレクサンダー様、最高!」

 アレクは魔術の維持に集中しているので、随行員のアレクコールに気づかない。

 たった30分で20メートルほどの穴を掘り進んだアレクは、ぱんぱんと服の埃を払いながら穴から出てきた。

「銀の鉱脈まで進んだと思います」

 アレクがそう言うと、一緒にきていたモッタと数人がツルハシとランプを持って穴のなかに入っていった。

 この穴はアレクの魔術によって補強がされているが、これから先は鉱山開発を行う鉱夫たちによって補強がされるだろう。

 トンカンと穴の中から物音がするが、その音はすぐにやんでモッタたちが穴から出てきた。


「どうです?」

 ホーメンがモッタに確認する。

「そう焦りなさんな」

 モッタたちは持って出てきたいくつかの鉱石の塊を太陽の光の下で観察し始めた。

「ほう……なるほど……」

「これはこれは……」

「ふむふむ……」

 モッタたちは意味深な声を出しながら時間をかけて鉱石を観察した。

 アレクはその光景に苦笑いをした。モッタたちが自分のことを信じてないのではなく、もったいぶっているだけなのだ。

「モッタの奴、もったいぶりやがって」

「ええ、悪い癖です」

 カムラとオウエンも気づいているようだ。さすが元同僚である。

 しばらくもったいぶったモッタが「これは純度の高い銀鉱石だ!」と声をあげると、皆から歓声があがった。

 それはアレクもメタルサーチで確認しているので、今さら驚くことはない。


 ▽▽▽


 デーゼマン家の領地には湖や川がある。ヘリオの町も湖の湖畔にあり、水は豊富である。

 その分、大雨が降ると水害のある地域でもあり、水害さえなければ土壌豊かな土地なのだ。

「もうすぐ夏だな。早く堤防を築かないと……」

 そう、銀鉱山の開発においてのアレクの仕事は終わったので、今度は治水に手をつけているのだ。貧乏暇なしなのか?


 爽やかな青空を見上げると、一筋の雲が長い尾をひいていた。

「あんな雲もあるんだ……?」

 アレクは空を見上げ雲の形に関心する。

 季節によって雲の形が変わるのは知っているが、なぜ形が違うのかは知らない。

 アレクに限らず、この世界の人々には雲の形がなぜ違うのかを知っている者はほとんどいないのだ。


「雲、自由でいい」

 アレクについて堤防工事予定地にきたマリアは、空に浮かび自由に形を変える雲を見て羨ましそうにする。

「いや、マリアも十分自由だろ?」

「そんなことない。マリアは不本意ながら働いている」

 三食おやつ昼寝つきの生活をしているマリアである。

 そんなマリアの言葉にさすがのアレクも、「そんなことないだろ!」と心の中でツッコんでいた。


「それで、今日は何をすればいいのかな?」

 激しいツッコミを心の中で入れはしたが、怠け者のマリアがこんな場所にまでついてきたのだから、アレクに何かをさせようとしているのは分かる。

「次の段階に移行するの。アレク兄様は詠唱をしてはいけない。おわり」

「僕に詠唱破棄を覚えろって言うの!?」

「そう。やる」

 アレクは苦笑いどころの話ではなく、盛大に顔が引きつっている。

 詠唱破棄は文字通り詠唱をせずに魔術を発動させる高等技術である。

 魔術士の最高峰である宮廷魔術士の中でも、この詠唱破棄ができる魔術士は少ない。

 当然のことだが、マリアは詠唱破棄で魔術を発動させることができるが、自分が詠唱破棄にチャレンジする日がくるとは思ってもいなかった。


「心の中で発動したい魔力をイメージする。するとできる。おわり」

「そんな簡単に……」

「つべこべ言わずにやる」

「うっ!?」

 マリアは厳しい。アレクにつき添う時間は昼寝もできないので、アレクがぐだぐだ言うと機嫌が悪くなるのだ。


「………」

 アレクは心の中でイメージをして魔術を発動させようとするが、魔法陣が現れない。

「………」

 何度チャレンジをしても発動しないのだ。

「はぁはぁ……難しいよ……」

「できるまでやる。いつかそれが実を結ぶ。おわり」

 マリアの言う通りだが、そう簡単にいかないのが詠唱破棄である。


「アレク、マリア! 調子はどうだ!?」

 アレクが詠唱破棄のためにウンウンと唸っていると、母親のリーリアが通りがかった。

 リーリアは狩りに出かけていたようで、大きな牡鹿を担いでいた。

 リーリアはなんでもないように担いでいるが、牡鹿を担げる者などそうそういないだろう。


 リーリアの後ろにはすっかり舎弟に収まった獣人種虎族のガンズがイノシシを担いでいる。

 牡鹿の方が重たそうだが、イノシシも十分に大きく重い。

「母さん、ガンズさん。今帰り?」

「今日は鹿肉だぞ。それともシシ肉の方がいいか?」

 リーリアはアレクと同じ赤毛というのもあるが、顔もよく似ている。

 しかし、性格は好戦的な戦闘狂なのでアレクとは似ても似つかない。

 そんなリーリアは強面のガンズを引き連れて狩りに出かけることが多い。

 屈強な肉体を持つ獣人種虎族であるガンズは、森の中でリーリアにコテンパンにされてからリーリアを姉御と慕っているのだ。


「鹿肉の方が脂身が少なくて好きだよ!」

 アレクは脂身の多い熊肉や臭みの強いイノシシ肉よりも鹿肉の方が好きだ。

「マリアはシシ肉、好き」

 マリアはシシ肉の癖のある臭いが意外と気に入っている。

 食に関しては母親のリーリア似の肉食系のマリアである。


 

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