041_それぞれの思惑
神帝暦618年4月。
王都で陞爵式を終えたフォレストは領地であるヘリオ町への帰路にあった。
アレクの縁談はほとんどはお断りしたが、いくつかの縁談は保留状態である。
当然、オイゲンス五等勲民家の剣姫ラーレとの縁談も保留である。
他に保留になっている縁談には、アムント六等勲民家のセーラの名もある。
九等勲民であるデーゼマン家にとって、五等勲民や六等勲民との縁談があること自体稀である。
ここまで身分差があると家の乗っ取りを疑われるくらいである。
しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いのデーゼマン家と縁を作ろうとする家が多いのもまた事実である。
おそらく、セーラ嬢の場合は隣の領ということもあって誼を通じようという目論見だというのが分かるが、ラーレ嬢の場合は単純に縁談相手が皆ボコボコにされてしまったのだ。
馬車の縁に頬杖をついて、外の景色を見つめるアレクの横顔をラクリスが見つめ続けている。
すると、にわかに外が騒がしくなった。
「これは珍しい、レインボータートルだぞ!」
フォレストが嬉しそうに声を発すると、家臣たちが色めき立った。
レインボータートルは亀の魔物で体長は8メートルほど。
巨大な甲羅が非常に硬く、さらにその甲羅がとても美しいことから、レインボータートルの甲羅は高値で取引されている。
このレインボータートルが街道沿いに出るなんてことは滅多になく、これは運がよいと皆が目をギラつかせている。
「父さん!?」
「アレク、レインボータートルを狩ってくる。解体は任せたぞ!」
「がんばって!」
兵士をひき連れて、フォレストはアースリザードを走らせた。
背中が嬉しそうなのは、王都で貴族との交渉に明け暮れていたので、ストレスが溜まっているからだろう。
久しぶりに剣が振れると喜色満面といった感じなのだ。
本来であれば討伐するのに一個小隊(20から30人)の戦力が必要なレインボータートルも、マーロ合金製の剣を持つ今のフォレストなら単独討伐もできるだろう。
「ガブリオ、2人を連れて左へ回り込め! 俺は右だ!」
ガブリオは騎士ダンテの長男で今年18歳になる青年だ。
「了解!」
騎士ダンテがアーラス村の統治を任されているので、ガブリオはヘリオでデーゼマン家に仕えている。
ガブリオが得意なのは弓騎馬である。
騎馬に乗ったまま弓を使う技術は家中随一であり、騎上での弓の腕はロアを凌ぐだろう。
「ゲーデス、合図だ」
「はっ!」
フォレストに合図を命じられたのは、従士のゲーデスだ。
牛の獣人であるゲーデスは自身の2メートルを越える巨体に似あった大斧を背中に背負っている。
そのゲーテスは発光弾を打ち上げてガブリオに合図した。
この発光弾はマリアとエリーが共同で開発したもので、筒の蓋を開けると空気に触れた薬品が小さな爆発を起こして、上空に光る球を打ち上げるという簡単な仕組みの物だ。
戦場やこういった魔物相手の狩りの場では、離れた場所への合図に重宝するのでデーゼマン家では軍の備品として採用することにした。
発光弾によって合図されたガブリオは狙い鋭く矢を放った。
その矢は綺麗な弧を描いてレインボータートルの首に刺さった。
レインボータートルは「キュイィィィ」と叫び、首を甲羅の中に引っ込めようとしたが、首に刺さった矢が邪魔をして首をしまえない。
「突撃!」
「はっ!」
フォレストとゲーデス、そして2人の兵士が武器を構え手負いのレインボータートルへ突撃した。
せっかくのレインボータートルなので、その綺麗な甲羅への攻撃はご法度である。
だからレインボータートルに首をしまわれないようにして、首を攻撃するのがセオリーなのだ。
レインボータートルは亀の魔物だけあって動きは遅い。
首さえ出ていれば、フォレストでなくても手数があれば討伐できる魔物だ。
ただし、尻尾や足で跳ね飛ばされることもあるので戦力は多く揃えるに越したことはない魔物である。
フォレストがレインボータートルの横を駆け抜ける際に首に剣を滑らせると、樹齢100年の木のように太いレインボータートルの首がザックリと切り裂かれた。
レインボータートルの首の傷から血があふれ出す。
痛みで暴れるレインボータートルに、さらなる攻撃を加えようとゲーデスと二人の兵士たちが攻撃を加える。
レインボータートルは体をクルクルと回転させ攻撃を躱そうとするが、フォレストの指揮のもとゲーデスと二人の兵士が距離を保ち攻撃を加える。
そこにガブリオたちも加わり首を集中的に狙った攻撃をする。
「お館様!」
「おう!」
最後はフォレストの渾身の一撃を喰らい、レインボータートルの首が切断されて戦闘は終わった。
「やったね、父さん!」
それにしても綺麗な甲羅である。
太陽の光を浴びて赤、青、黄、緑などキラキラと多くの色を反射させている。
このいくつもの色の光がレインボータートルの名の由来なのだ。
「肝は薬になるからカーシャ母さんとエリー姉様へのよいお土産になるね。それにトルスト教国では甲羅も薬になると聞いているよ」




