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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
五章

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40/160

040_戦後処理

 


 王城内、謁見の間。

 現在この謁見の間では、フォレストの九等勲民への陞爵式が行われている。

 玉座から遠く離れたふわふわのカーペットの上でフォレストは片膝をついて、国王の一段下に立つ宰相が羊皮紙に記載された文面を読んでいく。

 貴族の位階が上になればなるほど国王との距離は近くなり、上級貴族になると国王から直接言葉が与えられる。

 これがソウテイ王国の慣例である。


「―――よって、フォレスト・デーゼマンを九等勲民に叙するものなり」

 宰相が朗々と読み上げた長い文が終了した。

 本来であればここでその羊皮紙を受け取って、下がって謁見の間を出るだけであった。

「デーゼマンよ」

 国王が異例にも声をかけたのだ。

「はっ!?」

「そなたの活躍によって、近年ないほど帝国に打撃を与えることができた。嬉しく思うぞ」

「もったいなきお言葉!」

 この場に列席する貴族たちが騒然とする。


「静まれ!」

 宰相が声を張った。

「アレクサンダーよ。そなたの活躍も聞いておるぞ。あっぱれな働きである。褒めてとらせる」

「あ、ありがとうございます」

 フォレストの後ろにはアレクもいる。

 アレクも騎士に叙されることになっているからだが、本来なら騎士号を贈られるだけで、アレクをこの場に呼ぶ必要はなかった。

 それを踏まえて考えると、国王が2人に声をかけることが事前に決まっていたようだ。


「アレクサンダーよ、そなたに褒美を与える」

 国王の声と同時に侍従と思わしき4人の男性が、足つきの金箔トレーを持ってアレクサンダーの前までやってきた。

 そのトレーには白金色に輝く硬貨がピラミッドのように積まれていて、それが4つあった。なかなかに壮観な光景である。

「アレクサンダー・デーゼマンにミスリル貨100枚を与える」

 宰相が声高に宣言した。

 最初からアレクに褒美を与えることが決まっていたのだと、貴族たちも思いいたった。

 そして、これはデーゼマン家が国王のお気に入りだということを、世に知らしめる行為でもある。

 なぜなら国王が下級貴族へ直接声をかけるのは異例だからだ。

 国王の執務室に呼ばれて声をかけられるのとは違って、公式の場で声をかけられるのは非常に名誉なことである。


 アレクは迷わずミスリル貨百枚を受け取った。ここで拒否したり、受け取りを躊躇すると不敬にあたるからだ。

「ありがたき、幸せにございます」

 国王に礼を言うのも忘れない。

 貴族になってまだ1年も経っていないが、よくできたと内心で自分を褒めた。


 陞爵式も終わり、デーゼマン親子が城の廊下を歩いている時のことだ。

「平民出のデーゼマンか」

 敵意のこもった言葉をかけてきたのは、ブロス・カルバロ・アルホフ三等勲民だ。

 王都のあるマゼランド州の東にあるサダラード州に一大勢力を築く大貴族である。

 背はそこそこあるが服がはち切れそうな腹をしている茶髪茶眼の50前後の男で、戦場に出たこともないのがよく分かる緩んだ体である。


「これは、アルホフ様。ご無沙汰しております」

「ふん。九等勲民になったからと言って、調子にのるでないぞ。所詮は平民出の下級貴族だ。分を弁えろ」

「お言葉、肝に銘じておきます」

 フォレストは騎士だったこともあり、こういった貴族のあしらい方を知っているので、あくまでも低姿勢だ。

 逆に顔には出さないが、アレクはこんな奴に好き勝手言われる筋合いはないと、憤る。

「ふん。下賤の者のそばにいると、ワシにまで下賤臭が身に染みそうだ」

 好き勝手なことを言い放ってアルホフ三等勲民は去っていった。


「ああいう方が多い。アレクも今からああいう貴族のあしらい方を覚えるのだぞ」

「……はい」

 アレクはラクリスから聞いた、クリスの言葉を思い出した。

「カボチャ……」

 カボチャだと思えば、怒りも収まってくるから不思議である。

「ん? 何か言ったか?」

「ううん。なんでもないよ」

 フォレストが歩き出したので、アレクも後をついていく。


 城から帰ると、アレクはソファーに体を埋めた。

「疲れたか?」

「貴族っていうのは、なんであんなに敵意を向けてくるのかな? いい加減、うんざりだよ」

「それは彼らが貴族だからだ」

「それって……」

「貴族は貴族であることに誇りを持っている。本来はその行動に誇りを持つべきだが、嘆かわしいことだ」

「そんな人たちが貴族だなんて、この国は大丈夫なのかな……?」

「貴族全員がそういうわけではない。アレクも貴族とのつき合いをする時期がやってきたのだ、各人の本性を見極めていかなければならないぞ」

「……はい」

 面倒なことである。

 だが、貴族になった以上は避けて通れないことでもある。


 翌日、フォレストは再び登城して今回の陞爵に絡んだ話を聞くことになっている。

「アレクサンダー様、エジンバラ殿がお見えです」

 今回はアレクはお留守番だが、家でゆっくりはできない。

「通して」

 元々王都で暮らしていたデーゼマン家は、王都でつき合いのある商人や知人が多い。

 そういった者たちがフォレストの陞爵とアレクの騎士叙任を聞きつけ、お祝いの品々を持っての訪問があるのだ。

 アレクはその相手をしなければならない。


「これはこれは、アレクサンダー様。お久しぶりでございます」

 部屋に通されてきたのはハルム・エジンバラ。

 エジンバラ商会の商会長をしていて、カーシャとは古いつき合いの商人だ。

 そのエジンバラがにこやかにアレクに挨拶をしてくる。

 だが、この笑顔に騙されてはいけない。商人はある意味貴族以上に面倒な相手である。

 エジンバラだけではないが、商人はその笑顔の裏でどうやって利益をあげようかと考えているのだ。


「この度はご当主、フォレスト様が九等勲民に叙され、アレクサンダー様も騎士に叙任されたとのこと。誠におめでとうございます」

「エジンバラ殿、わざわざありがとうございます」

 エジンバラをソファーに座らすと、ラクリスがそっとお茶を置いていく。

 ついでにアレクの前に紙を置いて下がっていく。

 紙には絹織物が6反と書かれている。これはエジンバラが絹織物をお祝いの品として持参したということである。

 絹織物のような高価な物を6反ももらった以上は、デーゼマン家としてそれなりのお返しをしなければならない。

 知人にはお返しにガラス製品を贈るが、商人に対しては商人が扱っている商品を購入するのが通例になっているのはクリスから聞いている。


「それでは3日後に」

 なんやかんや世間話をして、エジンバラが扱っている商品である奴隷を50人も購入することになってしまった。

 貴族の世界ではこういうことの繰り返しで、何かあるとお祝いと称して商人がやってくる。

 そして商人の持ってきたお祝いの品々の数倍の買い物をするのだ。

 商人は貴族の祝い事で潤い、貴族は自分の財力やメンツをこうやって誇示するのである。

「ええ、3日後に」

 クリスがここにいればもっと上手く対応できただろうが、今回はクリスはいない。

 クリスがアレクにこういうことを経験させるためについてこなかったのだ。

 改めてクリスのありがたみを実感するアレクである。


 来賓は夕方までひっきりなしにあった。

 そしてフォレストが帰ってきたのは夜遅くだ。

 アレクは昼食を摂る暇さえないほど来賓の対応に追われ、それだけ散財することになった。

「クリス姉さんに叱られそうで怖いよ……」

 デーゼマン家の財政は完全にクリスが支配している。

 今後、請求がクリスの元に届くと思うとアレクは恐ろしくて仕方がない。


「クリスも覚悟の上だ。気にするな」

 そう言われて、「そうだよね!」と言えるほどクリスは甘くないことは、アレクは知っている。

 フォレストも多少のお小言はあるだろうと、苦笑いをする。

 翌日から今回買った商品が次々に届き始めた。

 ガラス製品を生産していなかったら、薬の販売益だけでは大赤字だったはずだ。

 こういった品々が馬車何台分になることやら……。


「アレク、奴隷の受け入れは終わったか?」

「はい、全員健康に見えましたので、明日からの旅にも耐えられると思います」

 エジンバラが50人の奴隷を引き連れてやってきたので、アレクはそれを受け入れていたのだ。

 明日、フォレストとアレクたちは王都を離れてヘリオに向けて旅立つ。

 奴隷たちは荷馬車に乗ってもらうことになるが、他にも購入した物を運ぶので十五台の荷馬車は満載である。


「お館様、アレクサンダー様、お茶はいかがですか?」

「もらおうか」

「うん、お願いするよ」

 ラクリスが淹れてくれたお茶はアレクの心の疲れを癒してくれる。

「さて、アレクに話しておかねばならないことがある」

 ラクリスがお茶を淹れてくれるのを待って、フォレストが改まった。


「何?」

「近々、お前の婚約者を選ぶことになる」

「え?」

 アレクはティーカップを持ったまま固まった。

「王都に来てから、お前の縁談話が20件以上きている」

 し、知らなかった……。

 貴族の当主の訪問があるとフォレストが対応して、商人たちの訪問にはアレクが対応することが多かった。

 だから貴族の家からそういう話があるとは思ってもいなかったのだ。


「ふーーー」

 フォレストはなんだか言いにくそうにしている。

「少し問題があってな……」

「問題?」

「ヒリング閣下の口利きの縁談があるのだ」

 ヒリング閣下とは軍務大臣である。

 その大物の口利きともなれば断るのは難しいことくらいアレクにも分かる。


「オイゲンス様の五女である、ラーレ嬢なのだ……」

「………」

 その名前に聞き覚えがあるアレクは、嫌そうな顔をした。

「まさか……」

「ああ、剣姫(けんひめ)殿だ」

「やっぱり……」

 オイゲンス家は五等勲民家、つまり中級貴族だ。

 ラーレはそのオイゲンス五等勲民の五女で、噂では剣を持たせたら右に出る者はいないと言われている女性である。

 そしてなまじ剣の腕がよいせいで、自分より強い男性にしか嫁がないと豪語している女性でもある。


 ラーレはアレクとあまり変わらない年齢だが、会ったこともないし、剣の腕で勝てるとは到底思えない。

「無理!」

「お前なら勝てると閣下はお思いだ」

「僕は魔術士だよ! しかも土魔術なんだよ! なんで剣姫と戦えるのさ!?」

 剣姫と呼ばれるラーレの婿になる条件はたった一つ、ラーレと戦い勝つことなのだ。

「僕には無理だから!」

 アレクの声が家中に聞こえるほどの大声になったので、家臣が何事かと見に来たほどであった。


 

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