035_防衛
「ら、ラクリス、頼んだよ」
「お任せください! アレクサンダー様には指一本触れさせません!」
アレクには見えないが、アレクの前で操縦をしているラクリスは非常によい笑顔である。
トップスピードのままフォレストが先頭に立って帝国軍の側面に突っ込んだ。
アースリザードが帝国兵を踏み潰していく感触が、アレクのお尻にも伝わってくる。アレクはそれを考えないようにするが、気分がいいものではない。
帝国兵を踏み潰す感覚を無視するように魔術弾を撃ちまくる。
考えるよりも先に魔術弾を撃った。考えてしまったら撃てなくなるかもしれないからである。
近場の帝国兵ではなく、少し離れた場所の帝国兵に向けて撃つ。
それだけ気をつけて撃たないと、爆風によって自爆してしまうかもしれないからだ。
どれだけ進んだか分からないが、アレクの周りには多くの帝国兵がまだいる。
それでも、アレクたちが突撃したことで帝国軍には多くの被害が出ていて、帝国兵はかなり混乱している。
「ラクリス、帝国の将軍のいる場所は分からないよね?」
「少々お待ちください。……前方やや左側、この方向のあの赤い旗があるところに将軍と思われる人物がいるようです」
「相変わらずラクリスの耳は凄いね。助かったよ!」
「いえ、たいしたことは……」
耳がぴこぴこしている。
最近分かってきたことだが、ラクリスの感情は耳の動きに現れる。
今のぴこぴこは嬉しい時の表現だ。
その可愛いウサギ耳をちょっと触りたいと思うのはいけないことだろうか。
アレクが帝国軍の将軍がいると思われる場所に魔術筒を向ける。
「撃つよ」
「はい」
魔法陣が現れ、そこから火の玉が飛び出す。
火の玉は目標である将軍の前に陣取った騎士の盾に防がれたが、その騎士は火の玉の爆発によって大きなダメージを負ったようだ。
「アレクサンダー様、目標周辺に防御魔術が展開されました」
今のアレクの攻撃で、将軍がいると思われる赤い旗の周辺に防御魔術が展開され、魔力の波ができているのが見える。
「大きいのをかますよ!」
「はい!」
アレクはウエストポーチに大事にしまっておいた魔術弾を魔術筒に装弾する。
敵の矢が飛んでくるが、ラクリスの防御壁によって弾かれてアレクには当たらない。
この防御壁はラクリスの魔闘術によって発動されたものだ。
これがあることから、15歳の少女であるラクリスが戦場に立つことをフォレストが許した経緯がある。
「撃つよ!」
「はい!」
今まで使ってきた魔術弾より大きな魔法陣が発生し、ドンと腹の奥に響く音が発生してたと思ったら、大きな衝撃がアレクの体を揺らした。
ドラゴンの鎧を着ていなかったら鎖骨が折れていたのではないだろうか。
ズゴーーーンッバリバリバリッ。
魔術弾は防御魔術に当たり巨大な雷を発生させた。
雷のあまりの威力に防御魔術が一瞬で破壊され、そして防御魔術を貫いた雷が轟音を立てて目標に襲いかかった。
「………」
アレクだけではなく、敵味方の全将兵が一瞬動きを止めた。
「マリア……。半端ないものを作ったなっ!?」
アレクが妹に向けた正直な感想である。
「なんだ、あれは!?」
「あんな魔術見たことないぞ!」
「嫌だ、死にたくない!」
こういった高位の魔術を封じた魔術弾には特殊な素材が必要になる。
下級の魔術であれば銅製の筒に封じればいいが、これだけの規模の魔術弾は簡単に手に入る素材では封じられないのだ。
今回の魔術弾は素材がドラゴンの骨であり、付与して封じることができる魔術の規模が高位のものだとは聞いていたが、アレクもこれほどとは思っていなかったのだ。
怠け者のマリアも珍しく付与するのを楽しそうにしていた。
その時のいい笑顔のマリアがアレクの脳裏に浮かんできた。
「アレクサンダー様、将軍が逃げ出します」
「え? マズい。追いかけて」
雷からギリギリ逃げ出せた将軍が慌てて馬に乗ろうとしているのが、ラクリスには手に取るように分かった。
「はい!」
「父さん、焦げついた地面の向こう側に帝国の将軍がいる!」
「おう!」
フォレストたちにも将軍のいる場所を教えてから、アレクは将軍に向かう。
雷によって元の姿が分からないほどに黒焦げになっている兵士から煙が上がり嫌な臭いが漂ってくる。
これがアレクのやったことの結果であり、アレクが背負うべき業なのだと背筋に冷たいものが流れる。
焼け焦げた場所を迂回すると、煌びやかな鎧を着た人物が馬に跨ったところだった。
「あれです。あの豪華な鎧が将軍です!」
ラクリスはとても可愛い声を発し、馬に跨っている将軍を指さした。
「分かった!」
アレクはここでトレントの杖を掲げた。
「石の雨!」
将軍の上空に拳大の石が大量に発生すると、石はそのまま地上に降り注いだ。
馬に跨っていた将軍は兜に石が命中し、軽い脳震盪を起こして落馬した。
だが、石はそのまま降り続き、将軍を石で埋めていく。
「閣下!?」
将軍の周囲にいた騎士が将軍を庇うが、石の雨は止まらない。
アレクの発生させた石は、数秒で騎士ごと将軍を埋め尽くしてしまった。
「ちょっと魔力を込め過ぎてしまったかな……」
アレクが額から冷や汗を流した。
「がぁぁぁっ!」
石に埋もれていた騎士が石を吹き飛ばして出てきた。
大量の石に埋もれたら普通は出てこれないはずなので、あの騎士はそうとう強い人物なんだろう。
「邪魔が入った。ラクリス、将軍に近づいて!」
「はい!」
アレクの指示を聞いたラクリスがアースリザードを将軍に向けたが、将軍を護るように大盾を並べた騎士たちが間に入って邪魔をする。
アレクは大盾隊がいても構わず、魔術筒に装弾を終えて狙いをつける。
並んで将軍を護ろうとする騎士たちに照準を合わせ、撃った。
魔術筒の先に魔法陣が現れ、そこからファイアジャベリンが飛び出す。
ファイアジャベリンは騎士の大盾に直撃すると、騎士は派手に吹き飛んだ。
「痛そう……」
自分でやっておいて言うのもなんだが、本当に痛そうだとアレクは思った。
アレクは騎士から目を離して、次の魔術弾を装弾する。
残った騎士たちが将軍を護ろうとして、できた穴を埋める。
将軍のそばにいるだけあって精鋭の騎士である彼らは、忠誠心というよりは騎士の誇りにかけて引くことはない。
そういった誇りをアレクは理解できるが、自分にはとてもできないことだと、敵ながら尊敬をする。
だが、ここは戦場であり、その尊敬すべき騎士たちは倒すべき敵である。
魔術筒を持つ手に力が入る。
「敬意をもって……」
アレクは魔術弾を撃つ。撃つ。撃つ。
アレクの魔術攻撃に騎士たちは1人、また1人と倒れていく。
魔術を防ぐための防御魔術を発動できる魔術士は全て、雷によってその命を落としていた。
騎士たちは肉の壁となって将軍を護るしかないのである。
「アレク!」
「父さん、将軍が逃げてしまうよ!」
「任せろ!」
駆けつけたフォレストが騎士たちに突撃する。
フォレストが跨っているのは、ひと際大きなアースリザードである。
そのアースリザードが突進してくるのだから、精鋭の騎士たちでも恐怖を感じるだろう。
そして、そのアースリザードに跨るのは鉄壁デーゼマンと謳われるフォレストである。
騎士にとっては生きた心地がしなかったかもしれない。
「うおぉぉぉっ! どけぇぇぇっ!」
フォレストが騎士たちを薙ぎ払う。
その時、アレクには将軍の背中が見え、それをチャンスだとアレクは再びトレントの杖を掲げた。
「石の雨!」
将軍は再びアレクの魔術によって石に埋もれることになった。
将軍にとって幸か不幸か、丈夫な鎧を着ていたことで石に圧し潰されることはなかったが、衝撃によって再び気を失うことになったのだ。
この将軍捕獲が決め手となって、帝国軍は総崩れになった。
王国軍は昨年に続き、この戦いでも大きな勝利を得た。
それは、デーゼマン家も同じであり、アレクは帝国の将軍を捕虜にしたことで、その名が王国中に知られることになったのである。
ここで一区切りになります。
この後の更新については活動報告でお知らせします。




