034_防衛
神帝暦617年11月。
11月も終わりにさしかかった頃、王都からの使者がヘリオ町へやってきた。
使者はブリッグスとデーゼマン家が取り決めた内容の履行と、捕虜の取り扱いについて交渉にやってきたのだ。
使者との交渉はクリスの操り人形のようにフォレストとアレクが立ちまわった。
その結果、捕虜は国が引き取ることになった。
その代わりに王国は600人の奴隷をデーゼマン家に与えることになった。
300人少々の捕虜と600人の奴隷を交換するのだから、デーゼマン家としても不満はない。
ここまで順調にいくとは思っていなかったので、クリスもちょっと拍子抜けしてしまった。
これは宰相の意向で使者がデーゼマン家に有利な交渉を心がけたからである。
宰相はデーゼマン家を取り込もうと手を伸ばしているのである。
「その上で、ヘルネス砦の援軍を出していただきたい」
やはりそうきたかと、フォレストは身構えた。
現在、ヘルネス砦の戦いは膠着状態になっている。
バレッド州とアルガス州の貴族軍、そしてブリッグス率いる第三騎士団が加わったことで帝国軍よりも数が上回った。
しかし、そこで仕かけた戦いで王国軍は敗退してしまったのだ。
数が多いといっても所詮は指揮系統がバラバラな烏合の衆である。帝国軍の統制の取れた軍と戦えば、苦戦して当然であり、その敗戦で2000人近い被害を出してしまったのである。
だから少しでも戦力がほしいと考えてのことだろう。
「……我が領内にいると思われる帝国兵の掃討も終わってはおらぬゆえ、簡単ではない」
「そこを何とか!」
使者も必死だ。しかしヘルネス砦の方はまだ数では上回っているはずなので、通常であれば年末を迎える前に帝国軍は撤退していくはずである。
無理に援軍を送る必要はない。
数日後、使者の再三にわたる援軍要請を受けて、フォレストは渋々援軍を送ることを決めた。
フォレストが騎獣隊を率いて援軍に向かうが、その中にはアレクの姿もある。
アースリザードに乗った騎獣隊50騎が、砂ぼこりを巻き上げて走る姿は圧巻である。
これだけの数のアースリザードが一斉に走ると地響きがするのだ。
アースリザードは体長が5メートルほどのトカゲ型の魔物で、ワイルドリザードより気性は大人しい。
大人しいといっても調教がされてなければ人を襲うような魔物である。
バトルホースのようなスピードはないが、1日中走っても潰れることのないタフさと、戦闘でも怯まない凶悪さが持ち味だ。
ただ、アレクはアースリザードの操縦ができないので、アレクの前にはラクリスがいてアースリザードを操っている。
アースリザードの体力なら金属鎧を着た騎士が2人乗っても問題ないことから、2人乗りは騎獣隊の半数に及ぶ。
2人乗りのアースリザードは操縦担当と攻撃担当に担当が分かれていて、こうすることで1人1人の負担が減ってさらに1人乗りよりも早く兵が育つのである。
これだけアースリザードがいると魔物も襲ってこないので予定よりも早くヘルネス砦へ到着したが、タイミングがいいのか悪いのか王国軍と帝国軍が戦っている場に出くわした。
「父さん、戦闘中のようです」
ヘルネス砦から打って出た王国軍と帝国軍が野戦を行っているところにフォレストたちは来てしまったのだ。
戦局は遠すぎて見えないが、人が密集していて何かにアリが群がっているように見える。
「このまま帝国軍の側面を突くぞ!」
「おう!」
フォレストは止まることなく帝国軍の側面に突撃すると決めた。
騎獣部隊は精鋭中の精鋭ということもあって、誰も気後れする者はいない。
とはいえ、アレクは別である。
いくらフォレストのそばにいても、いくらアースリザードに乗っていても、いくらドラゴンの革鎧を着ていても、怖い物は怖いのだ。
どんどん戦場が近づいてくる。
このスピードで突っ込むのは無茶だと思うようなスピードを緩めもしない。
アレクの顔は盛大に引きつっている。
ただでさえ戦闘向きの性格ではないアレクだが、ヘリオでの防衛戦とは規模が全然違う戦場へまっしぐらなのだから、顔が引きつるのも当然だ。
「決して止まるな! 敵の心臓を食い破れ!」
「おぉぉぉっ!」
フォレストが気合を入れると、全兵士から恐ろしいまでの声があがる。
フォレストは愛用のマーロ合金製の剣を抜いて構えると、皆も剣や槍を構えた。
アレクも魔術筒を構えるが、魔術筒を持つ手は盛大に震えていた。




