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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
四章

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33/160

033_防衛

 


 神帝暦617年11月。

 昨日は晴れ渡った秋空だったが、急に雲行きが怪しくなって今日は大雨である。

 風も強く横殴りの雨が館の壁や屋根に当たり耳障りな音をたてる。

 そんな館の応接室ではブリッグスとフォレストの話し合いが行われている。

「ヘリオと村の防壁建設にかかった費用の8割相当を国が負担する。ヘルネス砦の国軍司令官の罷免と根本的な組織改革。兵の増員にかかった費用の8割の負担。帝国側への損害賠償請求交渉の継続。でいいのか?」

 デーゼマン家の上申を国や国軍が無視をした結果、帝国軍がデーゼマン領に押し寄せてきた。

 これに対する国と国軍の責任の所在をはっきりとさせ、デーゼマン家が自力で行った防衛のための施策に対する費用負担を話し合っているのである。

 防壁建設はアレクが土魔術で造ったので、金銭的にはマナポーション代くらいでほとんどかかっていないが、そんなことは関係なく一般的な防壁建設にかかる費用を元に、国が8割の費用負担をするというのだ。


「それで構わん」

「捕虜はどうするのだ?」

「捕虜は返さない」

 捕虜は犯罪奴隷にして力仕事をさせる予定だ。

 マリアのおかげで銀の鉱床があることを知っているデーゼマン家としては、使い捨てができる奴隷ができてありがたい状況である。 

 今回の戦いでは300人以上の捕虜がいる。

 金銭的補償をされるよりも、奴隷として銀鉱山に送った方がデーゼマン家の利益になると判断したのである。


「しかし、それでは今後の捕虜交換の交渉に差し障りが……」

 捕虜にした帝国兵を捕虜交換のリストの中に入れないことに問題があるとブリッグスは懸念を表す。

 今回の捕虜を捕虜交換のテーブルに載せない場合、今後帝国も対抗して捕虜の返還をしないかもしれないと。

「王国は我が領を見捨てたと言っても過言ではない。我が領は独自で町の防壁を築いた。今さら横から口を出されるのは遺憾だ」

「それを言われると何も言い返せないぞ」

 ブリッグスは右手の人差し指で頬をかいて困った表情だが、ここでアレクが助け船を出すことになっている。

 これは交渉前にクリスの指示で決まっていたことだ。

「父さん、捕虜は国に引き取ってもらい、代わりに奴隷を王国に用意してもらえばよいのでは?」

 これが受け入れられなければ、デーゼマン家としても王国へ配慮は必要ないというものだ。

 つまり、デーゼマン家は譲歩したのだから、王国側はこの条件を受け入れるか捕虜を諦めろというものである。


 王国はデーゼマン家に捕虜を返せと命じることもできるが、その場合はデーゼマン家との信頼関係は地に落ちるだろう。

 すでに地に落ちかけている信頼関係をどうするかは、王国次第なのだ。

「それに関してはすぐに王都に伺いを立てる」

 ブリッグスが乗ってきた。彼に選択肢はないので伺いというが、実際には許可の催促になるだろう。


「アレクがそう言うのであれば、奴隷に落とすのは待とう。しかし12月になれば問答無用で奴隷に落とす」

「分かった。すぐに王都へ使者を出す」

 別に王国に盾突くわけではないが、デーゼマン家も命をかけて帝国軍と戦ったのだから、権利を主張するのは当然のことである。

 それに、今回の場合は王国側に非があるので、王国中枢の甘い認識を改めてもらわなければ溜飲が下がることはない。

 特に緊張感のないヘルネス砦守備軍の司令官は死罪でもいいとフォレストは思っているのだ。

 逆の立場だったら、その司令官もそう主張するに違いないだろう。


 もし、防壁を築かず、魔術筒がなく、魔物を捕獲して騎獣として運用していなかったら、フォレストたちは今こうして話し合っていられただろうか?

 世の中、そんなに甘くないだろう。

 だから、国にも目を覚ましてもらいたいと思っているのだ。

 今のままのほほんとした国防を続けていると、いずれ帝国に痛い目にあわされるだろう。


「そう言えば、聞いていませんでしたが……ヘルネス砦の方はどうなったのですか?」

「ん? さぁ、まだ睨み合っているんじゃないかな?」

「「え?」」

 この人、何言っているの? 的な視線をアレクとフォレストが投げる。


 まだ睨み合っているのなら、少しでも援軍がほしいのではないのか? なのに、騎士団がここにいるのはいいのだろうか?

「我ら第三騎士団への命令はデーゼマン家への援軍だけなんだ。つまりヘルネス砦への援軍は命じられていないんだよ」

「そ、それでいいのですか?」

「なぁに、あっちには5日もすれば別の援軍が到着するだろうよ」

 この騎士団長様は国防をどう考えているのだろうか? とフォレストとアレクは少し不安になる。


 結局、第三騎士団は半月もの間ヘリオの町に逗留して、そこでやっとヘルネス砦に援軍をという命令がきた。

 ブリッグスはとても残念そうな顔をしていたが、命令には従うようだ。

「アレクサンダー殿、次は王都で会おう!」

 会いたくないです。王都なんていきたくないです。とアレクは全否定した。


 

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