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027_防衛

 


 神帝暦617年10月。

 帝国軍が大挙してヘルネス砦に迫っている。

 デーゼマン家が治めるこのヘリオにその情報がもたらされたのは、10月に入って3週間ほどしてからだ。

 その情報によると、帝国軍の規模は1万5000人。昨年よりも多い兵員を動員している。


 これだけの兵員を王国に知られることなく、準備していたことは素晴らしいことだ。

 どこかの国の軍にも見習ってほしいものだと、フォレストは思った。

 しかもヘルネス砦は厚顔無恥にも援軍を要求してきたのだ。

 ヘルネス砦から援軍要請があった同じ日、森を監視をしていた部隊から帝国兵を確認したと報告があった。援軍など出せるわけがないのである。

 フォレストはそれを使者へ突きつけて逆に援軍を要請したが、それを聞いた使者は青ざめてヘルネス砦に戻っていった。

 使者が青ざめるのも無理もない。

 デーゼマン家は今回の帝国軍の侵攻を想定して、堅固な防壁と兵員の増強、そして兵装の強化をしていた。それなのに、ヘルネス砦はいつもと変わらなかった。

 ヘルネス砦はこの地域の防衛の要で、一旦ことが起きると周辺貴族に派兵を要請するのが慣例だ。そして、もし貴族の領地に何かあればヘルネス砦から部隊を派遣するのである。

 そうやって持ちつ持たれつの関係が国軍と貴族の間にはあった。

 だから、貴族の領地に帝国兵が現れたなら、ヘルネス砦の国軍は道義上援軍を出す義務のような慣例があるのだ。

 それができないことは使者でなくても分かることだ。


 ここで問題になるのが、デーゼマン家が事前に森を抜けて帝国軍が攻めてくるという情報を国軍へ報告していたことだ。

 それがなければ国軍としてもヘルネス砦を守らなければならないので、援軍が出せないという言い訳は通じるだろう。

 しかし、デーゼマン家は事前に報告をしている。しかもあるていどの数まで把握して情報を上げているのだ。

 それなのにデーゼマン家への援軍が出せなかったら、国軍のメンツは丸つぶれどころか、周辺貴族へ与える影響は計り知れない。

 国軍は事前に帝国軍が侵攻してくると情報を得ていたのに、なんの対策もせずに責任を放棄してデーゼマン家を見捨てたと。


 あてにならない国軍のことはさておき、デーゼマン家はデーゼマン家のするべきことをする。

 帝国軍の襲来を予期をしていたデーゼマン家は冷静に帝国軍を出迎える準備をする。

 今のヘリオには堅牢な防壁があって、その防壁は王都の城壁と同規模だ。

 この城壁には一定間隔で兵士を駐在させておける塔が設置してある。その塔に兵士が武器や矢を運び込んでいく。

 アレクもせっせと落とし穴を設置していく。トレントの杖があると、本当に魔術の発動が楽でいい。

 ただ、設置する数が多いので大変なのは変わらない。


「奥方様が出陣されます!」

 落とし穴を設置しているアレクの視界に、部下を引き連れて出陣するリーリアの姿が映った。

 先頭をきって歩くリーリアの顔はとても嬉しそうだ。

「アレク、いってくるぞ!」

「気をつけて!」

「あいよ~」

 リーリアはこの日がくるのを待ちに待っていたので、とても足取りが軽い。


「なんか、鼻歌を歌ってませんでしたか?」

「カムラさん、言わないで……」

 リーリアは森の中で敵の数を減らすため、今夜奇襲をしかけるのである。だから連れていく部下も15人と少ない。

 しかし、その15人はリーリアの傭兵時代の仲間で、こういった作戦を得意としている歴戦の猛者ばかりである。


 ヘリオの周囲に多くの落とし穴を設置することができたので、館に帰ると皆がせわしなく動き回っているのが見えた。

 今日のために、帝国軍が森を越えて攻め込んでくるのを迎え撃つために、デーゼマン家は準備をしてきたのだ。

 皆の表情は不安ではなく、帝国軍に勝つと自信に溢れている。


「おかえりなさいませ、アレクサンダー様。お館様がお待ちです」

 エントランスに入ると、ラクリスが迎えてくれた。

 ラクリスは死病である魔力欠乏症だった孤児の女の子だ。

 ドラゴンの薬を飲んだことで、今では元気いっぱいになっている。

 そう、アレクはあの薬をラクリスに飲ませたのだ。

 自分のスキルを増やすことよりも、1人の少女の命を救うことをアレクは選んだのだ。

 将来、この選択を後悔するかもしれない。だが、今のアレクはまったく後悔をしていない。

 大した力があるわけではないが、自分の手の届く範囲の人を助けるのに躊躇する理由はない。


 ラクリスは全快して、今ではアレクの身の周りの世話をするメイドとして館で働いていて、メイド服がなかなか似合っている。

 アレクが館に帰ってくると、ほぼ確実にラクリスはアレクを待ち構えている。どこかで見ているのではないかと、思うほどだ。


「父さんが? ありがとう」

 アレクがフォレストの執務室にいくと、クリス、騎士ダンテ、騎士トーレス、ウイル、ジジリスがいた。

 騎士ダンテは家臣の筆頭であり、フォレストの騎士時代から一番長いつき合いの家臣で、騎士トーレスとウイルもフォレストの騎士時代からのつき合いの家臣だ。

 ジジリスはこの町の生まれの55歳の白髪の男性で、フォレストがこの町を治めるようになってからのつき合いになるが、ウイルと同じようにクリスの下で文官をしている。

 息子が2人いて、今はジジリス同様にデーゼマン家で働くが長男は武官、次男は文官になっている。

 アーデン家の3人はこのヘリオや周辺のことをよく知っている一族のため、ジジリスが地元出身者の代表としてこの場に呼ばれている。


「父さん。今、帰りました」

「ご苦労だった。そこに座ってくれ」

 フォレストに促され、アレクはフォレストの横の席に座る。

「今回の戦いは我がデーゼマン家の存亡に係わる戦いだ」

 アレクが座ると、フォレストが話し始めた。

「アレクはまだ成人していないが、ただ今をもってアレクを成人させる。いいな?」

 アレクはゴクリと唾を飲み込み頷いた。


「アレク、おめでとう」

「おめでとうございます、アレクサンダー様」

 クリスに続き皆が祝いの言葉を贈る。

「本来なら、盛大に祝うべきだが、時期が時期だ。ことが終わってから祝いをする」

「はい」

 このソウテイ王国では15歳で成人になるが、貴族は家の都合で成人が早まることがある。10歳で成人することも珍しいことではない。


「以後、アレクも軍議に出席するように」

「はい!」

 成人して大人と認めてもらったことで、軍議に参加できる。アレクは気を引き締めた。

「リーリアが奇襲を成功させても敵の侵攻はそこまで遅くならないだろう」

 リーリアは戦闘狂だが、所詮は少数。たった15数人で1000人もの帝国軍に大打撃を与えるのが難しいのは想像に難くない。

 それでも帝国軍の気勢を削ぐことはできるはずである。


「帝国軍がヘリオの外周へ取りつくのは明日の午後と考えます」

 騎士ダンテが地図を指しながら説明をしている。

 帝国軍の侵攻方向次第では、騎士ハルバルトが治めるベルムーイ村へ向かう可能性がある。だから、騎士ハルバルトはベルムーイ村で帝国軍が現れた時に備えている。

 それともう1つ、デーゼマン家の直轄村のデルマン村にも帝国軍が向かう可能性がある。

 そのデルマン村には騎士ダンテの息子であるガブリオが入って防御を固めている。

「お館様は北門を、アレクサンダー様は東門を担当していただきます。なお、アレクサンダー様には補佐としてトーレスがつきます」

 作戦などを確認して軍議は終わった。


 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いきなり孤児を助けるために貴重な薬を使う展開に無理がありすぎて流石にリタイアです… この前に主人公が自身の戦闘能力の欠如から苦境に立たされた経験や、亡くなった領民を想い貴族の嫡男として…
[気になる点] たった一人の孤児を救うために莫大な金を使うとか馬鹿みたい。命はみんな平等だとでも思ってんのかな?将来的に考えて領主になるアレクが使った方がたくさんの人を助けられるとか考えられないのか?…
[一言] そう、アレクはあの薬をラクリスに飲ませたのだ。…って、そんなん瀕死の女の子が出てきた時点で読者はみんな予想通りだわ!って思った、せめて自分で飲んでどうにかするぐらいの意外性が欲しかったです
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