025_防衛
フォレスト、アレク、クリス、カーシャ、エリーはフォレストの執務室で雁首を並べている。
「面白い薬ができたよ」
カーシャがこのメンバーを集めたのだ。
「「「面白い薬?」」」
フォレスト、アレク、クリスは顔を見合わせて何か知っている? といった感じだ。
「エリーが作った物だよ。ドラゴンの血から作ったものなんだけどね、この薬を飲むと、ドラゴンの力を得られるのさ」
「「「へ?」」」
不思議なことを聞いたような気がする。
「ほほほ、その薬を飲むとドラゴンの力を得られるんだよ。でもね、どんな力を得られるのかは運次第だね」
「ドラゴンの力? 本当にそんな薬が……?」
アレクが呟いた。フォレストとクリスも同意である。
「ほほほ、血から力を得る……ぷっ、笑えるじゃないか。ねぇ、あんたたち」
「「「「………」」」」
なんて反応すればいいのか分からない。
そうだ、クリスの真似をすればとアレクはクリスを見たが、クリスも困った顔をしていた。
フォレストにどうすればと視線を投げたが、え? 無理? そんなーっ! 状態である。
「しかしロアとフリオたちが狩ってきたドラゴンが薬作りにちょうどよいドラゴンだったのは僥倖だね。幼過ぎず、それでいて成体になりきれていないドラゴンなんて滅多にお目にかかれないからね」
どうやら成体になる寸前のドラゴンじゃないと、この薬を作ることができないようだ。
ロアとフリオが倒したドラゴンのような成体になり切る前のドラゴンは、もっと人里から離れたところに住んでいて、本来は討伐されるようなことはない。
「その薬は飲むと身体能力や魔力を底上げしてくれて、スキルを1つ覚えることができるはずさね」
エリーが作った薬はものすごい効果があるものだった。
売ったらいったいどれほどの値段がつくのだろうか。
この世界では優れたスキルを持っている人物や、複数のスキルを持っている人物が圧倒的に有利なのは言うまでもない。
戦士だろうが商人だろうが職人だろうが、どんな職に就いてもスキルの有無で全然違うのだ。
だから身体能力や魔力の底上げも嬉しいが、スキルを覚えることができるのはとてもすごいことなのだ。
「薬は一瓶だけ?」
ドラゴンの血なら目の前に置かれている小瓶の1000本分以上あったはず。
それだけあれば、どれだけの量をつくれるのか気になるのは当然だ。
「あの血を全て使ってできあがったのがこの1瓶さね。だから飲めば圧倒的な生命力とスキルを得るだろうよ」
もしアレクが飲んだらフリオのような圧倒的な戦闘力を得ることができるのだろうか? マリアのような魔術の天才になれるだろうか?
「あれだけの血を使って出来上がったのがこれだけなのか……」
フォレストも驚いている。
歩留まりが悪いのか、それとも1000分の1まで凝縮したのか……どちらにしてもドラゴンの血を1瓶売るだけで白金貨数枚になるのだから、原価としては莫大である。
「誰が飲むか、売るのか、あんたらで好きにすればいいさね」
そう言ってカーシャは席を立ってドアの方に向かった。
「アレク。よく考えてね」
エリーも席を立ちカーシャの後を追って部屋から出ていった。
「「「………」」」
エリーはなぜアレクにあんなことを言ったのか。
聞かなくても分かっている。エリーはアレクのためにこの薬を作ったのだ。
アレクの魔力バカの話はカーシャとエリーは知らない。
だから土魔術しかスキルを持たない可愛い弟のために、この薬を作ったのだ。
「そうだな、この薬の扱いはアレクに一任する。お前が決めるように」
フォレストの言葉にクリスは頷いた。
「……分かりました」
アレクはその薬を手に取り中に入っている青紫色の液体を見つめた。
どちらかと言えば毒薬のように見えるこの液体が、本当にスキルを与えてくれるのだろうか?
アレクにも戦闘向きのスキルが?
アレクもまた魔力バカの話は知らないので、ゴクリと唾を飲みこんだ。
翌日、アレクは町の視察に出かけた。
薬に関してはまだ決めかねている。
今朝もあの青紫色の液体を眺めて考えを巡らしたため、置いてくるのを忘れて服のポケットの中に入っている。
白金貨数千枚分のドラゴンの血を使って作った薬なので、持ってきてしまったのを思い出してちょっとドキドキしている。
この町に移り住んだ当初は寂れた町だと思っていたが、最近は活気が戻ってきている。
カーシャの薬とアレクのガラス製品による経済効果だ。
将来的には銀山の開発も行われるだろうから、この町はもっと発展するだろう。
特産品を仕入れるために国中どころか、国外からも商人がこの町を訪れる。
商人が訪れる時には色々な商品を持ち込むので、町に物が溢れている。
今の時期、商人たちがこの町に持ち込むのは鎧や剣、それに鉄鉱石のような材料が多い。
帝国軍の侵攻が迫っているので、クリスが出入りの商人に鎧や剣を要望したからだ。
町を歩いていると少し疲れたので、カフェのオープンテラスでお茶を飲む。
大通り沿いのカフェで周囲には色々な露店もあり、人の往来が多い。
最初は露店で焼き串と果実水を買おうとしたが、カムラが貴族の子息が買う物ではないと苦言を呈して、このカフェに入った。
「ん? ……あの子……あ、果物の露店からリンゴを盗みました!」
偶々目に入ってきた光景だが、盗むとは思っていなかった。
多分あの子は孤児である。どんな町にも孤児の1人や2人はいるものだ。
「あの子を捕まえますか?」
「必要ないです。でも孤児のいる場所を知っていますか?」
「聞いてどうされますのか?」
「なんとなく……かな?」
アレクは明るく答えたが、その心の中ではもやもやしたものが蠢いていた。




