024_防衛
神帝暦617年9月。もうすぐ9月も終わろうかという頃。
捕虜からえた情報を信用するなら、10月の後半から11月にかけて帝国軍が攻め込んでくる見込みだ。
すでにヘリオと2つの村の防壁も完成して、アレクはガラス製品の生産と魔術筒の生産、そしてあるものの生産に励んでいた。
「ねぇ、マリア。貴方もガラス製品や防壁を造れるわよね?」
「………」
マリアは口では答えないが、それがかえって肯定しているとクリスは受け取った。
「アレクを手伝ってあげて」
「それはダメ」
「なぜダメなんだ?」
クリスもそう思ったが、フォレストが聞いたので口にはしなかった。
「アレク兄様は魔力バカ」
「「魔力バカ?」」
フォレストとクリスは顔を見合わせた。
「魔力量がマリアの数倍」
「「っ!?」」
2人はマリアの言葉に息を飲んだ。
2人の目の前にいるマリアは魔術士系の最上位のスキルである魔導を神から与えられた鬼才の少女だ。
そのマリアの数倍の魔力をアレクが持っているなんて、思いもしなかったのだ。
「だけど、魔力の制御が甘い」
「「………」」
「アレク兄様が魔力の制御ができたら帝国だって滅ぼせる」
「「っ!?」」
帝国とは言わずとも分かるだろうが、テルメール帝国のことである。
テルメール帝国はソウテイ王国だけではなく、周辺諸国と戦争状態にある。
その戦力と戦費を支えられるだけの大国である。
その帝国を魔力を制御できるようになっただけで滅ぼせると聞いては、さすがに驚かずにはいられない。
「アレク兄様は魔力の使い方を教えただけでは、制御できない。少しずつ制御を覚えさせるために、とにかく体に叩き込む」
「覚えが悪いから、繰り返し魔力を使わせて制御の仕方を教えるのね?」
「そう。だから追い込む。手出ししたらダメ。おわり」
アレクの魔力制御はマリアにしてみれば、赤ん坊レベルだ。
もしアレクがマリアと同等の魔力制御ができたら、あの圧倒的な魔力に支えられた、圧倒的な魔術で帝国を滅ぼせるだろうとマリアは考えている。
しかもアレクの魔力の成長は恐ろしいほどだ。マリアが同じように魔力を使い果たしてもアレクのように魔力量は伸びていかないだろう。
アレクは元々の魔力量と魔力成長力によって今日の魔力バカになっているのである。
しかもアレクの武器はそれだけではない。
アレクは魔力が空っぽになるまで使っても数時間寝ただけで完全回復するのだ。
これはあり得ないことで、普通の魔術士よりも回復が早いマリアでも魔力を使い切ると完全回復まで2日ほどかかるのだ。
つまり、アレクは圧倒的な魔力量と圧倒的な魔力回復力によって、帝国だけではなく世界を制すだけのポテンシャルを持っている。
マリアはそう考えているのだ。
「……マリアの考えは分かったわ。そのことはアレクは知っているの?」
「知らない。知らせる必要もない。今のまま努力を続ければいい」
「それなら、私たちもアレクには黙っておくわ。いつか、マリアがいいと思った時にアレクに教えてあげて」
「それまでは誰にも内緒」
「お父様もそれでいいですね?」
「う、うむ。リーリアには?」
「母様はダメ。母様はアレク兄様を追い込もうとして、半殺しにする。おわり」
「「………」」
フォレストはリーリアでもそこまでしないだろうと思ったが、よく考えたらしそうだと思ったので、言葉を飲み込んだ。
「この話はこの3人だけの心にとめておきましょう。いいですね、お父様」
「うむ」
▽▽▽
「あっ、マリア、それは私のだぞ!」
「早い者勝ち」
お菓子の取り合いをするロアとマリア。まるで子供である。
「リーリア、今日も美しいな」
「フォレストも凛々しいぞ」
バカップルの両親。爆ぜろ。
「エリー、その服可愛いわね」
「昨日、出入りの服屋が持ってきたの。いいでしょ?」
クリスとエリーは若い女の子らしい話。特になし。
「カーシャ母さん、昨日の傷薬、効果上がった? とっても効いていたよ」
「ほほほ、それは北の森でロアが採取してきた薬草がいいものだったからだ。フリオが傷を負っても直後ならしっかりと治してやるからね」
「ありがとう!」
アレクの家族はもうすぐ帝国軍が攻めてくるというのに呑気である。
「アレク様、紅茶のお代わりはいかがですか?」
「ありがとう。もらうよ」
彼女はカトレア。金髪碧眼のとても美しい妖精種風族のメイドである。
アレクが生まれる前からカーシャの下で働いていて、カーシャが王都を離れると聞いてついてきてメイドになった。
エルフなので耳が尖っている。年齢は……世の中には知らない方がいいこともあるのだ。
カトレアに紅茶を淹れてもらい、お茶を飲む。
淹れなおしたので、いい香りが湯気と共に鼻をくすぐる。リラックスできる香りだ。
アレクは毎日ガラス製品と魔術筒の生産に精を出している。
ガラス製品は透明なゴブレット、色をつけた皿、それと窓用の大きなガラス板がよく売れている。
どれも供給が需要に追いついていないほどの売れ行きだ。
だからガラス製品を増産しようかとクリスに言うと、倉庫に収まるていどの増産はいいが、供給量を増やすつもりはないと返ってきた。
これは供給量を増やすことでガラス製品の価格が下落するのを抑えるための処置だ。
だから倉庫がいっぱいになったところで生産は止めている。
とはいえ、魔術筒の生産だけでは時間を持て余してしまう。
これまでが毎日死ぬかと思うような苦労をしてきただけに、今の状況は落ち着かない。
「アレク兄様……構える」
「う、うん……」
ある日、アレクはマリアに河原に呼び出された。
アレクが現れると待ち構えていたマリアに杖を構えろと言われた。
「この大きさの石を魔術で造って」
マリアは自分の頭の数倍はある大きめの石を指さした。
「分かった……天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。石生成!」
ほぼ同じくらいの石を造った。
今のアレクには大した労力ではない。これがなんだと言うのだろうか?
「今度は同じ石をここに造る」
そう言うと、マリアは自分の頭より高い空中を指さした。
「?」
「早く造る」
「う、うん……天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。石生成!」
空中に現れた石は当然のことだが、地面にゴンと落ちた。
危なかった、もうちょっとでマリアの足の上に落ちるところだった。
「今度はあの大きな岩の上に造る」
「……天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。石生成!」
当然の如く石は岩の上に落ちた。
「もっと高くに造る」
「うん……天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。石生成!」
結構高い場所に石が現れて、石は岩に向かって勢いよく落ちた。
「次、最後。今の高さで、あの岩くらいの大きさを造る」
よく分からないが、マリアがわざわざこんなことをさせるのには、何か意味があるのだろう。
「うん……天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。岩生成!」
巨大な岩が空中に現れると、そのまま落下して同じ大きさの岩に激しくぶつかった。
すると、下にあった自然の岩がバキバキと音を立てて割れてしまった。
「………」
あんなのが落ちたのだから割れても不思議ではないが、これは何の意味があるのだろうか?
「これでアレク兄様も戦える」
「え?」
マリアはうんうんと頷いて町へ戻っていった。
残されたアレクは放心状態である。
「……もしかして、今のって」
「アレクサンダー様。マリア様は土魔術の可能性を示したのではないでしょうか?」
カムラの言う通りだ。
土魔術でも岩を目標の上空に造ってやれば、後は自由落下で目標を破壊してくれる。
「カムラさん! オウエンさん!」
「「おめでとうございます! アレクサンダー様!」」
アレクは目をキラキラさせて2人を見た。
土魔術でも戦闘ができる。そう思うとなんだか心の中にあったもやもやが少し晴れた気がした。
マリアはアレクに一本の道を示した。
土魔術は戦闘に向かない。役立たず。と陰口をたたかれていたアレクにとって、この道はまさに光明である。
「やりようによって、土魔術だって戦闘の役に立つのなら、試行錯誤をすれば他にも攻撃手段を見つけることができるかも!?」
その日からアレクは河原で土魔術の可能性を試行錯誤した。
大きな岩を落とすのは目標の命を奪うのには役にたつが、捕縛するのには向いていない。
そう考えると大きな岩ではなく、拳大の石を大量に落とす方が目標を生かしたまま無力化しやすいのだ。
「しかし、それでは金属鎧を着こんだ重装兵や、盾で防がれた場合はほとんどダメージを与えられませんが」
カムラの言う通りだ。手加減がかなり難しい。
「敵の武装に応じて石の大きさや、数、高さを変えるしかありませんね」
オウエンは大したことではないと、あっけらかんに言った。
そうやって気軽に言ってくれると、アレクの心も楽になるからありがたい。
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