002_デーゼマン家
アレクサンダーがエドゥト建築会社に入社して5日。
エドゥト建築会社では建物の建設に必要な強化レンガの生産が追いついていなかったことから、アレクサンダーは毎日強化レンガを造っている。
強化レンガとは建物の外壁に使われる建築資材で、強化レンガを造る工程は主に2つある。
1つは職人が材料を集め、その材料を配合して形造り、乾燥して焼き固めるというものだ。
そして2つ目は土魔術のスキルを持った者が、魔術で造り上げるものである。
最終の形や用途は一緒だが、生産工程に大きな差があるし、職人の造る強化レンガは生産地が王都から遠いこともあって、割高で品薄状態が続いているのである。
「ふー。疲れた」
このソウテイ王国では、一般的に15歳が成人の年齢である。
アレクサンダーはまだ未成年なのでアルバイトとして働いている。
それに最初の3カ月は試用期間ということもあって、最低賃金は日に500リンクルと出来高になっている。
このソウテイ王国の通貨は、1リンクル紙幣、5リンクル紙幣、10リンクル紙幣、50リンクル紙幣、100リンクル青銅貨、500リンクル大青銅貨、1000リンクル銀貨、5000リンクル大銀貨、1万リンクル金貨、5万リンクル大金貨、10万リンクル白金貨、50万リンクル大白金貨、100万リンクルミスリル貨、500万リンクル大ミスリル貨がある。
一般人が主に使っているのは、1万リンクル金貨よりも小さい額である。
5万リンクル大金貨、10万リンクル白金貨、50万リンクル大白金貨、100万リンクルミスリル貨、500万リンクル大ミスリル貨の5種類を一般人が使うことは滅多にない。
物価としては一斤のパンが300リンクルほどで、この王都だと20万リンクルあれば、一家五人(夫婦と子供三人)が1カ月(30日)暮らしていける。
アレクサンダーは試用期間なので賃金としてかなり低いが、親元で暮らしているので、収入がなくても暮らすことができている。
土魔術士になったばかりのアレクサンダーでは、強化レンガを造るのは難しい。
この5日で造った強化レンガに、品質の合格基準に達した物はない。
魔術といっても万能ではないし、使い慣れていないアレクサンダーでは製品として使える強化レンガを造るのは難しいのだ。
しかし、エドゥト夫婦もそれを分かっていて、アレクサンダーを雇っている。
職人であっても魔術士であっても、共に時間をかけて育てるのが当たり前の世界なのだ。
「イメージ……同じ形、同じ大きさ、同じ重量、硬くて熱にも強くて、そして魔術にも強い……」
強化レンガは物理的な衝撃だけではなく、耐熱性に優れ魔術にも強いレンガだ。
だから造れる職人が少なく、土魔術でも量産は難しい。
それでいて、需要が多いので常に品薄なのだ。
「天の理、地の法、我が御魂を捧げるは煌く神也、我が望むは土の神ノマスの加護也、我の血肉を捧げ其を顕さん。強化レンガ生成!」
アレクサンダーの手の平の上に光る魔法陣が形成されていき、その魔法陣が回転し始める。
回転する魔法陣の輝きが増しその中から何かが現れると、魔法陣はキラキラと霧散する。
「……またダメだ。柔らかいよ」
アレクの手の上に現れたのは長方形の土の塊だったが、アレクが握るとまるで粘土のように指のあとがついた。
日が傾いたが、今日も強化レンガを造ることはできなかった。
アレクサンダーはひ弱そうな細身の少年だから、メルムは時々作業場の様子を覗いていた。
そんなメルムがアレクサンダーのことで気づいた点がある。
「あの子、どれだけ魔力が多いの? 普通なら午前中に魔力切れになるのに……」
メルムの言う通り、アレクサンダーは朝一番から夕方になるまで強化レンガを造り続けていた。
それは異常なことだが、当の本人はこれが普通だと思っているのである。
いずれアレクサンダーも知ることになるが、アレクサンダーの魔力量は人並み外れて多い。
「アレクサンダー君、今日は上がっていいわよ」
「あ、メルムさん。すみません、今日も強化レンガを造れませんでした……」
落ち込み気味に謝るアレクサンダーだが、造れないのが普通なのだ。
この王都一の建築士と言われている社長のコルマヌでも、最初の使える強化レンガを造るのに半年以上もかかっているし、量産ができるようになるまで1年以上もかかっているのだ。
昨日今日始めたばかりのアレクサンダーが強化レンガを造れてしまっては、逆にコルマヌの立場がなくなってしまう。
とはいえ、コルマヌでも朝から夕方まで魔術を使いっ放しはできない。
その点でいえば、アレクサンダーの行動は異常だと言えるだろう。
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