159_帝国激震のその後
神帝歴六二四年十月初旬。王国とテルメール帝国との休戦協定が締結され、アレクサンダー城に戻った王太子は、軍務大臣に休戦に至った経緯を語った。
「帝国が土魔術を使ってきましたか……。我が国でも土魔術士の配備を急ぐべきではないでしょうか?」
「うむ。王都に帰ったら陛下に進言し、速やかに進めるつもりだ」
帝国に倣うのだから心情は複雑だが、これは最優先事項と言っても過言ではない。
「しかし、皇帝が終戦を示唆してきたとは、驚きですな」
「余も皇帝の真意を測りかねているのだ」
今回の休戦は三年間であり、その間に帝国と終戦について協議することになった。皇帝デラーズの思惑がどこにあるのか測りかねているところはあるが、悪い話ではない。
しかし、問題は多い。終戦ともなれば、王国と帝国の二カ国間の話では済まない。王国にはゼント共和国という同盟国がある。共和国とは対帝国で手を握っていると言っても過言ではない。それなのに、帝国と終戦し不可侵条約なり同盟なりを締結したら、明らかに共和国との間が拗れるだろう。
問題は外交だけではない。国内には帝国嫌い、帝国憎しという感情が渦巻いている。貴族だけではなく平民の中にもそういった感情は根強くあるだろう。特に最前線として帝国と戦ってきたシュテイン州、そして大規模な侵攻を受けたバレッド州には帝国憎しの声が多いはずだ。
そういった内外の問題を解決しないと、帝国との終戦はできない。
「終戦については、王都に帰ってから重臣たちと協議をする。叔父上も考えをまとめておいてほしい」
「承知しました」
「さて、問題はそれだけではない」
王太子がソファーに背を預けた。なんとも疲れた表情だ。
「左様ですな……」
「叔父上も知っていると思うが、デーゼマン家のことをどうするかだ」
「皇帝も要らざる波風を立ててくれますな」
「デーゼマン家にしてみれば、今の待遇に不満を持つ可能性がないとは言えぬ」
「英雄アレクサンダー・デーゼマン。鉄壁デーゼマンにも勝るとも劣らぬフリオ・デーゼマン。そして、その二人以上の天才と言われるマリア・デーゼマン」
軍務大臣が指を折って三人の名を挙げた。国もバカではない。失地奪還作戦時にマリアがその才能の片鱗を見せたこともあり、アレクやフリオだけではなく、他の姉妹についても調査している。その調査の結果、デーゼマン六兄弟の中で、最も才能があるのは四女のマリアであると突き止めている。
そのため、王太子の息のかかった者の親類縁者の中から、釣り合う年齢の者をマリアと婚約させるべく動いていた。しかし、デーゼマン家からの回答は毎回NOであった。理由はマリアは平民として育ったため、貴族の妻は務まらないというものである。
二人は溜息を吐き、王都に帰っていった。
▽▽▽
一方、アレクは居城であるテオドシウス城に戻った。
アレクが出兵中にクリスが鉱山の開発を進めておいてくれたおかげで、鉱山から最初のアダマンタイトがテオドシウス城に納品された。
そのクリスだが、アレクが帰ってくるとすぐに産気づいて、玉のような男の子を産み落とした。
「俺がオジイだぞ、ハンス!」
「あたしが大きいママだぞ、ハンス!」
フォレストは自分をオジイと言うが、リーリアはけっしてオバアとは認めない。まあ、それはカーシャのことで慣れているデーゼマン家の面々である。
「ほれ、ユリウスお兄ちゃんだぞ~」
リーリアに抱かれたハンスとフォレストに抱かれたユリウスのご対面である。ユリウスは九カ月になるので、ハンスに比べるとかなり大きい。
「しかし、デーゼマン家もゼンバー家も、これで安泰だ! 次はエリーとロアだな!」
エリーとロアの出産予定は年が明けた二月だ。デーゼマン家の出産ラッシュである。
「あ、いたいた! クリス姉さん、おめでとう!」
「ロア、久しぶりね」
ロアがクリスの部屋に入ってくるなり、走り出した。
「うわー、可愛いねぇー。名前は何?」
リーリアの腕に抱かれているハンスを見て、ロアが目を細める。
「ハンスだ。可愛いだろ」
「うん、食べちゃいたいくらい可愛い」
「おい、ロア! 走るな!」
続いて部屋にガブリオが入ってきた。かなり焦っているようだ。
「あ、これは、失礼しました。クリスティーナ様、おめでとうございます!」
「おう、ガブリオか。ロアに走るなと言うのは無理だぞ、ハハハ」
「大殿。そうですが、今のロアは身重なのです!」
「そうだったな、ロア、走ってはいかんぞ」
「はーい」
「来年早々にエリーとロアの子も生まれる。デーゼマン家はますます繁栄だ! ハハハ。ガブリオ。ロアのことを頼むぞ」
「は、はい!」
フォレストに向かって背筋を伸ばして返事をするガブリオ。
「これで後はフリオとマリアだな! ハハハ。痛っ!? リーリア、痛いぞ」
「マリアは結婚してないんだよ。早く結婚させなよ」
「まあ、マリアもすぐに結婚するさ」
「ほう、それは相手がいるということだな?」
「うむ、実はな、アレクの従者のな―――」
「あいつか。よし、あたしが、婿に相応しいか確かめてやる!」
「おいおい、マリアの婿を廃人にしないでくれよ」
「フォレストだってザクルをぶっ飛ばしただろ! あたしもやってみたいんだ!」
「そんなこともあったな。ハハハ」
相変わらず騒々しい一家である。
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