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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
十六章

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153/160

153_帝国激震

 


 帝国軍元帥であるゲルバルドが、使者としてキミリス城に入った。王国軍幹部のアレク、第三騎士団長のブリッグス、その他王国の貴族諸侯が顔を並べる中、ゲルバルドは王太子と対面した。

「帝国軍元帥ゲルバルド・フォン・アストリアと申します」

 優雅な所作で挨拶をするゲルバルドに、王太子も答える。

「余はソウテイ王国王太子、ルドルフ・マゼランド・カイシャウスである。して、使者殿のご用向きを聞こうか」

 王太子は王族の威厳を持ってゲルバルドに対したが、決して失礼にならないように振る舞う。たとえ敵国のものであっても、使者への扱いを疎かにする者は、人を統べる者の資質に欠けると、王太子自身がそう思っているからだ。

 ゲルバルドは威風堂々とした王太子の姿を見て、目を細める。王太子の情報は当然ながらゲルバルドの耳に入っている。戦の経験はないが、政治家としてはかなりの手腕。これがゲルバルドが集めた情報から導き出した、王太子のイメージである。

「さればでございます。我が国は貴国との休戦を提案いたします」

「休戦か」

 王太子はその言葉を噛みしめる。だが、可否を口にすることはない。休戦ともなれば、それなりの条件が必要だ。その条件を聞かなければ、判断できない。

 さらに言うと、ここまでの王国軍はいいところなしだ。帝国に一矢も報いずに休戦したら、明らかに王国が負けた印象が強くなってしまう。実際に負け戦なのは間違いないのだが、そのイメージを少しでも軽くしたいところだ。

「休戦の条件は……両国から代表者一名を選出し、一騎討ちで境界を決めたく存じます」

 休戦の条件は戦いを総合的に判断し、負けたほうが譲歩するのが一般的だ。今回は明らかに王国側が負けていて、本来であれば王国が一歩引く形で締結されるのが常識である。その条件は勝った帝国が侵攻して支配下に置いた土地を王国が割譲するということになる。場合によっては今でも王国が支配下に置いている土地を多少プラスして割譲するのだが、一騎討ちで境界を決めるというのは、王太子はもちろんのこと歴戦の将であるブリッグスでも聞いたことがない。

 ゲルバルドは勝敗判定とそれによって、境界が動くことを提案する。

「ですので、帝国が勝てばデルンゲーズ、王国ではバーレン特別州と呼んでいる地を全て返還してもらい、王国が勝てば開戦前の状態に戻ります。引き分けの時は現在の実行支配地域をもって境界にします。ただし、この一騎討ちに魔術は禁止します。いかがでしょうか?」

 一騎討ちで境界を定めるというのは、前例がないことから王太子は即答を避けた。ゲルバルドを別室に待たせ、帝国の提案について議論することにしたのだ。


「斬新な提案ではありますな。魔術を禁止したのは、デーゼマン中将を一騎討ちに出さないための方策でしょう」

 ブリッグス団長が苦笑いを浮かべつつ、意見を述べた。

「帝国は、それほどにデーゼマン中将を恐れているということでしょう」

 アムント六等勲民がブリッグスの言葉を引き継ぐ。この場には王太子を始め、アレク、ブリッグス団長、ブリエス少将、シュテイン州とバレッド州の諸侯、そしてわずかだがバーレン特別州とその他の州の諸侯がいる。

 この中でバーレン特別州とその他の州の諸侯は、発言権はあっても発言できるだけの立場にない。彼らは命令違反を承知で帝国領に進軍し、負けて帰ってきた者たちだからだ。それに発言したとしても、王太子がそれを聞くとは思えない。だから、身を小さくし、王太子の判断を待つ。このように自分の立場を弁えている者はいい。家を衰退させても、保てるだろう。

「議論の争点は、帝国と戦い抜くか、それとも休戦を受け入れるかだ。ただし、戦いを選んだ場合、どうやって帝国と戦うかも議論になる」

 王太子が貴族諸侯を順に見てアレクを見て、最後にブリッグス団長を見た。

「殿下。某は一騎討ちを受け入れるべきと存じます」

「ブリッグス団長か。理由は?」

「デーゼマン中将を全面に押し出して戦えば、あるいは勝てましょう。しかし、帝国軍にも同規模の魔術がありますので、こちらも大きな被害が出ることが予想されます。今は帝国軍と雌雄を決する時ではないと、某は愚考いたします」

 もし一騎討ちに負けたとしても、失うのはバーレン特別州である。それは王国にとって大した痛手ではない。ブリッグス団長はそう考えた。

 そもそも、命令違反をして戦端を開いたのは、バーレン特別州の貴族諸侯である。その尻拭いをブリッグス団長たちがする必要はない。さらに言うと、そのために多くの兵士の命を失わせるよりも、一騎討ちで境界を決めてもいいと思っているのだ。

「他の意見はあるか?」

「某はブリッグス団長の意見に賛成にご座います」

 アムント六等勲民がブリッグス団長の意見に賛同すると、シュテイン州とバレッド州の貴族諸侯もそれに賛同した。

 シュテイン州とバレッド州の貴族諸侯は、この戦いに否定的な者たちばかりである。二年前に失地を回復した貴族もいて、今は自領の復興に力を注ぎたい。だから、勝っても負けても戦が終わる一騎討ちに、賛成なのだ。所詮は他人事である。

 では、バーレン特別州の貴族諸侯の思惑はどうかと言うと、自分たちの領地が帝国に占領されている者も多い。だから、なんとしても帝国軍を自領から退去させてから、休戦にしたいと思っていた。

 だが、倍の戦力でキミリス城を囲む帝国軍に、どうやったら勝てるのか分からない。しかも、バーレン特別州の諸侯軍はほぼ壊滅状態であり、士気も低い。結局のところは、他人任せの戦いになるため、何も言えないでいる。

「デーゼマン中将はどうか?」

 王太子から水を向けられたアレクは、視線を王太子に向けた。

「戦いを選択すれば、多くの兵士を失うでしょう。ですから、一騎討ちを受け入れるべきと考えております」

「分かった。他に意見がなければ、帝国の提案を受け入れることにする」

 多くの貴族諸侯が頷く。頷かない者は、バーレン特別州に領地を持つ貴族ばかりだが、彼らも受け入れるしかないと諦めている。それに、一騎討ちに勝てば、自領を回復できるのだ。


「ならば、一騎討ちを行う者を選出しなければならないな」

 その王太子の言葉に、バーレン特別州の貴族諸侯が手を挙げた。戦力はないが、一騎討ちなら自分や優秀な家臣がいる。彼らはそう思っているのだ。

「分かっていると思うが、代表者にバーレン特別州の運命を託すことになる。それを考えて推挙するように」

 今回の一騎討ちにバーレン特別州の未来がかかっていると王太子が言うと、バーレン特別州の貴族諸侯の勢いがなくなった。自分や家臣が代表になって、もし負ければ非常にマズい立場になると考えたのだ。

「殿下。どうか某を一騎討ちの代表者にお加えください」

 静寂を破ったのは、バーレン特別州に領地を持つセルマン・スバレン九等勲民である。珍しい紫色の髪を背中の真ん中ほどまで伸ばしている細身の人物である。そのため、容姿だけを見ると彼が強いという印象はない。

 スバレン九等勲民の領地はバーレン特別州にあるが、シュテイン州に近い場所なので、帝国軍に奪われていない。そんな彼が一騎討ちに名乗りを挙げたのは、帝国軍が義父の仇であるからだ。

 彼は元々バレッド州に領地を持っていたスバレン家の娘を嫁にしていた騎士だった。帝国軍がバレッド州に侵攻してきた時は、王都にいて戦いに参加できずに主家が滅んでしまったが、失地奪還作戦のおりに戦功を立てたことで、スバレン家を継承してバーレン特別州に領地を得た人物である。

「そなたは……たしか、スバレン九等勲民だったな」

 末端の下級貴族でしかないスバレン九等勲民の顔を、王太子は覚えていた。そのことに感謝し、スバレン九等勲民は頭を垂れた。

「分かっていると思うが、一騎討ちに負ければそなたの領地も帝国に取られることになるのだぞ」

「承知しております。そのうえで、某を一騎討ちの代表者に選出いただきたく、お願い申しあげ奉ります」

「うむ。他にいなければ、スバレン九等勲民を一騎討ち代表者にするが、どうか?」

「恐れながら、某はフリオ・デーゼマン八等勲民を推挙いたします」

 フリオを推挙したのは、義父にあたるアムント六等勲民である。彼はフリオの強さをよく知る人物の一人である。

「うむ。フリオ・デーゼマンのことは、余も知っておる。その強さは鉄壁デーゼマンと謳われたフォレスト・デーゼマンにも引けを取らない。余もフリオであれば、適任と思うぞ」

 王太子が鷹揚に頷き、他にないかと聞いた。

「腕自慢はいないのか?」

 他の自薦他薦はなかった。負ければバーレン特別州の貴族たちに恨まれることが分かっているだけに、腕に自信があっても簡単ではないのだ。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] この小説の難しいところは 「いかにアレク無双をさせないか」だよね どうやってアレクを封じ込めるか 作者の腕の見せ所ですね
[一言] フリオの出番と思いきやその前に一波乱・・?
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