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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
十六章

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152/160

152_帝国激震

 


 数日の睨み合いの後、帝国軍に動きがあるということで、王太子が防壁の上から帝国軍を見つめている。

「前回はすんなりと退いたが、今回はどうなるか」

「殿下。敵が何をするか分かりません。城内へお戻りください」

「うむ。ブリッグス団長、デーゼマン中将。後は任せたぞ」

「「はっ!」」

 前回同様、ブリエス少将を連れて後方へ下がる。王太子は前線指揮を二人に任せると決めた以上は、口は出さないと自分に徹底させている。

 アレクとブリッグス団長が王太子を見送ってから帝国軍に視線を向ける。

「ブリッグス団長は今回の帝国軍の動きを、どう見ますか?」

「あれだけ遠いところで、何やらをするのは不気味ではあるな。とにかく、もう少し近づかねばこちらも動きようがない」

 アレクもブリッグス団長とほぼ同じ意見だが、何かが引っかかる。何と聞かれても答えられないが、なんだか嫌なものを感じるのだ。


「アレクサンダー様」

「ん、どうしたんだい、ラクリス」

 帝国軍の動きがあるまで気を張り続けるわけにはいかないので、防壁の上だが床几に座り動きを待っていると、ラクリスが耳打ちしてきた。

「遠いためわずかにしか聞こえないのですが、何やら魔術の準備をしているようです」

「魔術の準備……」

 そこでアレクは噂に聞いていた巨大な落とし穴のことを思い出した。まさかと思い腰を上げ、防壁の際に体を乗り出す。

「ラクリス。杖を」

「はい」

 アレク愛用のトレントの杖を、ラクリスが手渡す。

 その時である。視界の先にある帝国軍の上に巨大な魔法陣が浮かび上がり、こちらに迫ってくる。

「マズい!」

「デーゼマン殿!」

「ブリッグス団長。魔術です! 帝国軍の狙いはこの防壁です。防壁を崩す魔術です!」

「退避だ! 防壁から離れろ!」

 ブリッグス団長が大声を張り上げると同時に、魔法陣が防壁に到達し地面が揺れる。

「くっ、間に合え!」

 揺れる地面にしっかりと足を踏ん張り、アレクはトレントの杖を掲げる。

 大地に穴が開き、強固に作られた防壁がぐらつきアレクの体がふらつく。

「アレクサンダー様!」

 ラクリスがその並外れた身体能力でアレクの体を支える。アレクはラクリスに微笑みかけて感謝の意を伝える。

 アレクが魔術を発動させる。詠唱はない。今回は発動速度重視の魔力頼みである。

 魔法陣が一気に広がり地面に吸い込まれていくと、その地面が盛り上がってくる。

 帝国の魔術士が穴を開けるのに対し、アレクは穴を埋める。すでに大きな穴が開き防壁が崩れかかっている。この状態で穴を埋め戻すのではなく、防壁を元の位置まで押し上げ、さらに修復する必要がある。

 ガラガラと音を立てて崩れていく防壁、それを押し上げようと地面が盛り上がる。多対単の力比べである。

「ラクリス。一気にいくよ」

「はい!」

 アレクがさらに魔力を込める。穴が埋め戻される。更には硬く締まった地面になり、防壁を元の高さまで押し上げた。

 アレクが大粒の汗を流しながら固めた地面は、ちょっとやそっとのことでは崩せない。帝国の魔術士たちの魔力が枯渇する中、大地は硬く固められ、さらに崩れかけた防壁を修復していく。


 ▽▽▽


「ば……バカな……」

 帝国の魔術士を束ねていたマーガスが、口をあんぐりと開けて呆然とする。

 一度大きな穴が開いたというのに、地面は埋め戻され、崩れかかった防壁も元通り修復されてしまった。長く生きてきたマーガスでもそんなことはできない。だが、王国にはそれができる魔術士がいる。悔しいと思ったのは一瞬。自分以上の魔術士がいるということに興味を持った。

 会いたい。会って話がしたい。その存在はどんな考えを持っているのか、どんな魔術理論を持っているのか、会って語り合いたいと思った。

「失敗に終わったようですな……」

 肩をワナワナと震えさせるマーガスに、ゲルバルドが語りかける。しかし、マーガスの反応はない。さぞ悔しがっていると思ってゲルバルドがマーガスの顔を見るが、その表情はまるで夢見る乙女であった。ゲルバルドはどういうことかと、訝しげにマーガスを見つめる。

「ゲルバルド……」

「なんでしょうか?」

 最近は呼び捨てにされることがなくなったゲルバルドだが、以前はマーガスに呼び捨てにされていた。なぜならゲルバルドはマーガスの弟子だからだ。残念なことに魔術の才能はあまりなかったゲルバルドだが、知将としての才はマーガスも認めるものであった。

「王国の英雄……なんという名だったか」

「アレクサンダー・デーゼマンです」

「そうか……アレクサンダー・デーゼマン……。会いたいものよ」

「会ってどうしますので?」

「語り合ってみたい。あれほどの魔術をどのような魔術理論を基に構築しているのか、会って聞いてみたいのだ」

 このマーガスは魔術士として極めて優秀だが、浮世離れしているところがある。それが魔術理論なるものだ。彼女の弟子だったゲルバルドは、魔術理論についてさっぱり理解できなかった。魔術は下の下だが知能は高いゲルバルドでも、まったく理解できないことを言うのだ。

 ゲルバルドはマズいと思った。マーガスは魔術理論に関して見境がないのだ。だから、アレクに会いたいと言い出したマーガスが、どのような行動に出るか分からない。もしかしたら単身で王国に向かって、アレクに会おうとするかもしれない。ただの帝国人であれば、それは可能だ。しかし、マーガスは宮廷魔術団の団長であり、ゲルバルドと並ぶ皇帝のブレーンである。大丈夫と思いたいが、魔術バカであるマーガスはゲルバルドでも予想できない行動をする。


「休戦しましょう」

 ゲルバルドがそう提案すると、皇帝が腕組みをした。

「ただ休戦するのは面白くねぇな。ここまで出てきたんだ、少しは見せ場ってものをつくっておかないとな」

 これは皇帝の体面ではなく負けっぱなしでは面白くないという、デラーズの性格に由来する考え方である。実際には、今回の戦いは帝国の圧勝劇であるが、アレク一人にいいようにされたことで、デラーズは負けに等しいと思っている。ただし、デラーズも休戦は吝かではない。もっと言えば、終戦協定を結んだっていいのだ。

「一騎打ちを申し入れ、それで領地の境界を決めるのは、どうでしょうか?」

「一騎打ちだと?」

 デラーズの目が面白いと言っている。

「代表者を出し合い、勝ったほうは、デルンゲーズの地を得るという条件で、いかがでしょうか?」

 デルンゲーズというのは、王国ではバーレン特別州のことである。

 現在、デルンゲーズの地は帝国と王国がほぼ半分づつを分け合っている。それを一騎打ちで勝利したほうが総取りするというのが、ゲルバルドの提案である。こういう話はデラーズの好むところであることを知り尽くした、ゲルバルドでなければ提案できなかっただろう。

「引き分けならどうするんだ?」

 可能性として引き分けはある。滅多にないだろうが、その可能性があるのであれば、条件を詰めておかなければならない。

「現状の支配地域をそのまま国境とします」

「まあ、妥当だな。それでいい」

「では、さっそく某が使者に立ちましょう」

 ゲルバルドは単身でキミリス城に向かうのだった。


 

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