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014_伝説への一歩

 


 しばらく進むと先行していたハルバルトが戻ってきた。

「ワイルドリザードを発見。距離2000、数5」

 ワイルドリザードは体長3メートルほどのトカゲ型の魔物だ。

 気性が荒く捕まえても騎獣にできないので、見かけたら討伐するか逃げるかの二択となる。


「うむ。ダンテ、対魔物戦闘の準備だ!」

 フォレストは戦うことを選んだ。

 街道沿いなので誰かが被害にあうかもしれないと思ったのだろう。

 フォレストは民を護ることに誇りを持っている騎士だから、放っておけないのだ。

 それにワイルドリザードの皮は革鎧のよい素材になるし、肝が薬の材料にもなる。


「はっ! 総員、対魔物戦闘準備! 総員、対魔物戦闘準備!」

 フォレストの命令をダンテが全員に聞こえるように大声で復唱する。

 騎士団時代と同じ光景だ。

 馬に乗っているのはフォレストと騎士ダンテ、そして斥候の騎士ハルバルトの他、数人だけだ。

 先ほど確保した五頭の野生馬はさすがに使えないし、家臣の家族は馬車に乗っている。

 ダンテの声で全員に緊張が走った。

 しかし家臣や家族たちはこのていどのことで慌てることなく、戦闘の準備をし出した。


 ここまでくるのに何度も魔物と戦ってきたので、手慣れたものだ。

 戦闘に関してはプロの集団であるフォレストたちにとっては、5体のワイルドリザードなら油断しなければどうということはない相手だ。

「ワイルドリザード接近、距離500」

 魔物接近の報告を聞いて素早く馬車の上に昇ったのはロアだ。

 スキルの視力強化を使って物見をして距離を報告する。

 ロアのその手には美少女には似つかわしくない大型の弓があった。

 ロアは弓の名手なので対人戦だけではなく、魔物相手の戦闘でも頼もしい存在なのだ。


「距離300になったら撃て」

 フォレストからの指示が飛ぶ。

 女系上位の家でも、こういう時は父親の威厳がある。

 それを女性陣はなんとも思わないのがデーゼマン家である。

「了解!」

 ワイルドリザードまでの距離が300メートルになったらロアが矢を放って、それを合図にして戦闘が開始されるのだ。

 ロアの横にはリーリアが陣取って、目を細めワイルドリザードを見つめている。

 リーリアには視力強化のスキルはない。

 だから体長3メートルはあるであろうワイルドリザードでも、米粒のように小さくにしか見えていないはずだ。


「ロア、そろそろ300だね?」

「うん、あと10」

 リーリアの問いに答えるとロアは弓に矢を番え、グググと弦を引き絞った。

 ロアとこの大弓の組み合わせであれば、射程距離はおよそ400メートル。

 しかし確実に命中させるためと、ダメージを与えるための300メートルだ。


「撃つ!」

 シュンと軽やかな音がし、矢が飛んでいく。

 視力強化がないリーリアにも命中したのが分かるほどに、ワイルドリザードが体をくねらせて痛みを表している。

「フォレスト、命中したわ」

「おう、行くぞ!」

 ロアの矢がワイルドリザードに命中したのを見て取ったリーリアは、馬車の屋根から飛び降りフォレストの後方に収まった。


「母さん!」

 アレクが造ったリーリアの愛槍をフリオがリーリアに投げ渡すと、フォレストは馬の腹を蹴り走らせた。

 さらにフォレストとリーリアに遅れまいと騎士ダンテたちも馬を走らせた。

 見る見るうちにワイルドリザードとフォレストたちの距離が縮まっていく。

 何度かフォレストたちの頭上を矢が飛んでいく。

 見ると、騎士ダンテの息子のガブリオも別の馬車の上から矢を放っていた。


 ついにフォレストとリーリアが乗った馬と、ワイルドリザードとが交差した。

 ワイルドリザードの体にはどれも矢が刺さっており動きは悪い。

 ドンッとまるで巨大な石が高所から地面に落ちたような音がすると、1体のワイルドリザードの顔が爆ぜた。

 3メートルもある巨体のワイルドリザードが宙に浮くほどの衝撃が、リーリアの槍から放たれたのだ。


「この槍は本当にいいねぇ」

 リーリアがアレク作の槍を嬉しそうに褒める。

「アレクの力作だ。悪いわけがないぞ!」

 すると、フォレストもアレクを褒める。子煩悩な2人である。

「奥方様に後れを取るな!」

「おう!」

 騎士ダンテと騎士ハルバルトもリーリアに続けとばかりに剣を振った。

 しかし2人の攻撃はワイルドリザードに怪我を負わせただけで、倒すほどではない。

 これで分かるようにリーリアの戦闘力は極めて高い。

 王国の騎士団でもフォレストと互角に打ち合える者は少ないが、そんなフォレストと打ち合えるのがリーリアなのだ。


「フォレスト、行くよ」

「おう!」

 元々、リーリアは有名な傭兵団に所属していて、戦場はリーリアのホームグラウンドだ。

 傭兵団の頃は『破壊の女帝』と二つ名がつくほどの凄腕傭兵だった。

 クリスとロアを足しても気の強さはリーリアに敵わないだろう。それは戦場で育ったリーリアと厳しいながらも愛情溢れるデーゼマン家で育った2人の差である。

 そのリーリアは戦場に立つとアレクと同じ燃えるような赤髪をたなびかせて、常に先頭に立って槍で敵を蹴散らしていたのだ。

 そんなリーリアに一目惚れしたのがフォレストである。

 惚れた弱みとでも言おうか、リーリアがフォレストを尻に敷いているのは有名な話である。

 そんな経緯もあってデーゼマン家は女性上位の家なのだ。


 視線の先でフォレストとリーリアたちが戦う姿を見ていたアレクは「相変わらず仲がいいね」と呟いた。

「アレクや、ワイルドリザードの肝は薬になるから解体したらこの瓶に入れておいてくれるかい」

「分かったよ」

 アレクはカーシャから瓶を受け取ると、解体の準備に入った。


「大して強くもないから、体が温まる前に終わってしまったぞ」

 そんなことを言いながらリーリアはフォレストの後ろから降りた。

 それを横目に見て、アレクはワイルドリザードの解体に入った。

 1人では時間がかかるが、家臣の家族や農奴たちも解体を手伝うし、皆慣れたものなので解体が終わるのは早かった。


「カーシャ母さん、これでいいかな」

 アレクはワイルドリザードの肝を瓶詰にしてカーシャに差し出した。

「ありがとうだよ。アレクがいてくれて本当に助かっているよ」

 マリアに言わせるとアレクは魔術に関しては不器用だ。

 しかし、それはマリア基準なので、一般的にみれば決して不器用ではない。

 それは解体のような手先の器用さがものを言う仕事でも同じで、アレクはこのような作業を得意としている。

 こういうのはスキルではなく、気性や性格が関係しているのかもしれない。

 それに、幼いころからカーシャが薬の材料にする魔物や動物の手や肝などを見ていたせいか、解体で気分を悪くすることもないのだ。


 

お読みいただき、ありがとうございました。

評価と応援メッセージ大歓迎です!


今日は2話更新しようかと思います!

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