130_貿易
「私は船団を率いるケルミアス・モイゾ官吏長にございます。この度はデーゼマン閣下にお目通りがかない、光栄のいたりにございます」
背が高くやせ型のこの金髪碧眼のモイゾは、八等勲民で貿易船団を率いる宰相府の官吏長だ。その細長い顔はカマキリのように見えなくもない。
「モイゾ官吏長の補佐をしております、ゼジル・アルミネット上級官吏にございます。お目にかかれて光栄にございます」
モイゾとは正反対のややぽっちゃり体型で背の低いアルミネットは十一等勲民だが、出身家は六等勲民である。青髪茶目で対する人を和ませる柔和な顔をしている。
ソウテイ王国の省庁の役職は、大臣を筆頭にして政務官、官房長、参事官、管理官、官吏長、上級官吏、官吏、下級官吏がある。
軍務省や宰相府の幹部役職は多少違っているが、基本はこの役職である。特に政務官、官房長、参事官は幹部と言われる役職で、大きな権力を持っている。
この二人は幹部ではない中間管理職であり、一般の企業に照らせば課長や係長といった役職である。
「よくきてくれました。アレクサンダー・デーゼマン五等勲民です」
執務室で挨拶を受けたアレクは、二人をソファーに促し貿易に関する話を聞く。
今回、荷物や食料を積んで船団は三日後に出港し、十日ほどでゴーディス王国に到着する予定だ。その後はさらに東へ船団を進めて東の大陸に向かう。
ゴーディス王国はソウテイ王国がある中央大陸と東の大陸の間にある大きな島の国で、二大陸間貿易の中継地として栄えている。
「東の大陸には四十日から五十日ほどで到着する見込みです」
「往復するだけで二カ月以上もかかるのですね」
「東の大陸に到着しても、そこからさらに積み荷の販売、現地の特産などの買い入れに時間がかかりますので、デジム港に帰ってくるのは四カ月近くかかると考えています」
「たしか、船団を派遣するのは、年間三回から四回でしたね?」
「はい。ですから、三カ月後に別の船団がデジム港に寄港し、積み荷を満載してゴーディス王国経由で東の大陸へ向かいます」
「なるほど、二つの船団で交易を行うということですね」
モイゾから日程の話を聞いていくと、今度は扱う商品の話に移る。デーゼマン家が推薦した商人はヘリオ町で生産されているガラス器と、バレッド州で生産が盛んな鉄製品を輸出するが、宰相府の推薦する商人は何を扱うのか?
「家具類、水晶、陶器、石像が主になります」
ソウテイ王国の南部では家具の生産が盛んで、非常に凝った造りのものは非常に高額で取り引きがされている。そして中央部では水晶を産出し、東部では陶器の生産、西部ではヘルミア石の石像生産が盛んだ。
そういった地域の特産品を出荷することで、産地としての強みが生かせるのだろう。
その日の夜は、船団の主要人物と商人たちを集めてパーティーが開催された。
嵐に遭遇したら帰ってこられないかもしれない。外洋の航海は安全よりも危険のほうが多い。危険を冒してでも大海原に乗り出そうという彼らを労う意味のパーティーである。
三日後、予定通り交易船団は出航し、東の海へと消えていった。
それと同時に、先日アレクを襲った者たちについて、報告書が上がってきた。
「三つのギャングが縄張り争いを起こしていて、すでに数人の死人が確認されています」
「それはいけないね。これからデーゼマン領として、対外的な顔になるのだから、そのような人たちは排除しよう」
「兵を出して排除します」
「いや、まずは警告を与えよう」
「それで排除できますか?」
「彼らも生きるためにやっているかもしれない。無理やり排除するのは、最後の手段にしよう」
「承知しました」
ウィートが手配し、直ちに警告が発布されることになった。
▽▽▽
ギャングへ警告を発布した三日後のことだった。
アレクの執務室にライムが入ってきて、口にしたことにアレクは苦い顔をした。
「それで、被害状況は?」
「死者二名、重傷者五名、軽傷者は数十名に及びます」
警告は逆にギャングに舐められることになったようで、町の治安を守る兵士にまで被害が出ることになったのだ。
「ギャングを鎮圧する。ジョリスとパメラを呼んでくれ」
「はい!」
アレクが指名した二人はリーリアの傭兵仲間だった者で、今はアレクの下で働いている人物だ。
なんと言っても、王都の裏社会を牛耳っていたリーリアの下で働いていたので、対ギャングに関しての荒事には慣れている二人だ。
しばらくすると二人がアレクの執務室に現れた。
ジョリスは紺色の髪を短く刈り、紺色の瞳をした大柄な獣人種組熊族である。
元フォレストの従士でアレクの護衛を長く務め、今では騎士の称号と領地を得た獣人種牛族のゲーデスも大きかったが、このジョリスはゲーデスよりも大きい。おそらく獣人種虎族のガンズとほぼ同じくらいの大きな体をしたジョリスは、戦闘力だけではなく指揮能力も高い。
もう一人のパメラは黒髪、赤目、そして褐色の肌をした容姿端麗な妖精種闇族である。
華奢な体で剣のスキルはないが、剣を扱えばそれなりに強い。しかし、パメラの真骨頂は魔術にある。彼女は破壊魔術、魔力威力上昇、魔術封じという三つのスキルを所持し、特に魔術封じは魔術士にとっては天敵のようなスキルだ。
「ジョリス、パメラ。状況は聞いているかな?」
「へい。調子に乗った野郎どもが暴れているそうで」
ジョリスが答えたが、パメラも頷いて肯定する。
「これから彼らを鎮圧に向かう。二人は僕を補佐をしてほしい」
「そんな野郎どもにわざわざ殿が出向く必要はありません。あっしとパメラに任せてくれれば、平らげてきますぜ」
喋っているのはジョリスばかりで、パメラはあまり喋らない。実を言うと彼女は気が弱い。傭兵になったはいいが、その気の弱さもあってかなり悩んでいたのを、リーリアが妹分として可愛がっていたのだ。
そのため、初めて会う人物には舐められることも多かった。
「いや、今回は僕が向かう。ただ、ギャング相手は初めてなので、二人に色々と教えてほしいんだ」
「わかりました。殿を補佐いたします」
アレクは二人の補佐を受け、二日後に百人の兵を率いて町へと押し出すのであった。
<出演者>
ケルミアス・モイゾ八等勲民(貿易船団の代表、宰相府の官吏長)
ゼジル・アルミネット十一等勲民(貿易船団の副代表、宰相府の上級官吏)
ジョリス(元傭兵、大柄の獣人種組熊族)
パメラ(元傭兵、容姿端麗の妖精種闇族)