119_新領地(新天地)
新作『悪役でも追放でもましてや婚約破棄でもない、ちょっとだけ性格が悪いけど少しだけやさしい転生王子のきままなライフ』始めました。
ラクリスが、お茶を淹れなおして置いていく。
丁度いいと、アレクはお茶を飲んで喉を潤した。
話は長丁場になりそうだと、クリスとフリオもお茶を飲む。
アレクたちがお茶を飲んだのを見て、タッカー七等勲民も喉を潤した。
「それで、本題というのは?」
お茶の香りでリラックスし、四人の喉が潤ったところで、アレクが切り出した。
「はい。こちらを」
タッカー七等勲民が、従者から木箱を受け取った。
木箱は、宰相府の刻印がある正式なもので、厳重に封がされている。
アレクは、その封が切られていないか確認してから、封を切った。
木箱の中には、羊皮紙が入っていて、アレクたちには書状のように見えた。
書状を手に取って内容を確認すると、アレクは「ふーっ」と息を吐いた。
「命令書にあるように」
タッカー七等勲民が言うように、これは命令書であった。
アレクは命令書をフリオに手渡し、さらにクリスへと渡る。
「宰相閣下は、ヘルネス砦の跡地に、城を築きたいとお考えです」
だから、アレクにその防壁を築けというものだった。
「理由を、お聞きしてもよろしいですか?」
そもそも、ヘルネス砦は、帝国の侵攻を抑えるためのものだった。しかし、帝国領に逆撃侵攻したことで、前線が大きく帝国側に入り込んだ。
よって、ヘルネス砦の存在意義は、かなり薄れてしまっているとアレクは考えていた。
「もちろんです」
タッカー七等勲民は、従者から羊皮紙を受け取る。この羊皮紙は、アレクが受け取った命令書よりもはるかに大きく、さらには複数枚ある。
その羊皮紙を広げると、それは旧帝国領とヘルネス砦跡地、そしてヘリオ町の周辺が描かれた地図であった。
旧帝国領、今は王国のバーレン特別州となっている土地を、タッカー七等勲民が指を差す。
「この地に移封された貴族は、元々王家に対し反抗的な者たちでした」
アレクが、アルホフ軍を倒したことで、反抗的だった貴族は王家に頭を下げ、移封を受け入れた。
そういった貴族が、バーレン特別州の八割を治め、残りの二割を王家の直轄地にして、王国軍を配置している。
「これまで、帝国の矢面に立っていたのは、王国軍と騎士団です」
ヘルネス砦は、国軍が常駐し、騎士団も交代で詰めていた。
「しかし、これからは、貴族にそういった防衛を任せる方針になりました」
そのための移封である。
それに、最近では帝国だけではなく、教国に対しても貴族が防衛の任務を与えられている。
と言っても、ケルマン渓谷の入り口を、アレクが埋めてしまったので、教国への警戒は帝国と違ってかなり低い。
これまでの体制を維持しているのは、アッサン公国方面である。公国とは、しばらく戦争を行っておらず、昔に比べれば関係もよくなっている。
同盟や不戦協定を締結したわけではないので、王国軍を駐留させているが、対帝国、対教国における王国軍の負担が減ったため、国の負担は大幅に軽減されている。
「しかし、このバーレン特別州に配置された貴族たちは、これまでに戦にも出たことのない者がほとんどです」
これまで戦争に出征していない貴族たちが、帝国との戦いの矢面に立たされたことは、多くの者が認識している。
「そのため、王国軍を駐留させています」
当然の処置だと、アレクたちは思った。
後方で生ぬるい生活を送っていた貴族たちが、最初から帝国軍とまともに戦えるとは思わない。
戦争は、そんなに甘いものではないのだ。
「その王国軍へ、後方支援する拠点として、ヘルネス砦の跡地を使いたいのです。もちろん、バーレン特別州が帝国に奪還された場合、新たに築いた城が防衛拠点になります」
帝国も国の威信にかけて、バーレン特別州を奪還しにくるだろう。
前回の戦いで、帝国軍に大打撃を与えていても、帝国の国力があれば、数万の軍を再編するのに一年もかからないはずだ。
そう考えると、ヘルネス城(仮)は、必要なのかもしれない。
フリオの領地になるこのヘリオ町と周辺の土地では、エール村が最もヘルネス砦の跡地に近いが、小さな村にはあり得ないほどの防壁が築かれている。
エール村に代表されるように、デーゼマン家の領地はあり得ないほど防衛力が高い。
そのため、ヘルネス砦の必要性を、あまり感じていなかったアレクとフリオなのだ。
「それに、敵は帝国軍だけではないかもしれませんので」
タッカー七等勲民は、そこでアレクを見つめた。
アレク、フリオ、クリスの三人は、タッカー七等勲民が何を言いたいのか、理解できたつもりだ。
それは、バーレン特別州の貴族たちが、王家に対して反乱を起こす可能性を、はらんでいるということである。
「この先は言わずとも、ご理解いただけるかと存じます」
今回の移封で、貴族たちは大きく力を失った。
その分、王家に対する不信感は、大きくなったはずである。
しかも、最前線に配置されたのだから、王家は彼らを見捨てたと思われても、仕方がないだろう。
「半月もすれば、王都から職人が到着するでしょう。それまでに、防壁を築いていただきたいというのが、宰相閣下のお考えです」
アレクであれば、一日か二日もあれば、防壁を築くことはできるはずだ。
宰相はそれを知って、この命令書を発布したのだろう。
「もちろん、デーゼマン閣下の働きに対する、褒賞は用意されております」
アレクにとって、それほど時間を要することではないが、今は新しい領地を拝領して、色々忙しい時期だ。
しかし、帝国との休戦協定の失効は、今年の四月なので、時間的余裕はあまりない。
<出演者>
ボリス・タッカー七等勲民(宰相府役人)
新作『悪役でも追放でもましてや婚約破棄でもない、ちょっとだけ性格が悪いけど少しだけやさしい転生王子のきままなライフ』始めました。




