113_新たな任務
アルホフ軍を奇襲して、これを壊滅させたデーゼマン軍。
アレクは、デーゼマン軍の本隊をそのままバージス副司令官に任せて、自分は教国軍に占領されている土地を奪還して回った。
「兄さん、教国軍を壊滅しました」
「フリオ、それに皆、ご苦労様。休ませてあげたいけど、本来の目的はアルホフ三等勲民の討伐だから、カルバロ郡に向かうことになる。すまない」
「そんなことは、分かり切っていることだから、気にしないでいいよ」
アレクの言葉にフリオが答える。
帝国軍との戦いから教国軍との戦いを経て、フリオは多くの兵士たちから信頼される将になっている。
アレクは弟の成長を見て、嬉しさに目を細める。
「閣下が率いている兵士たちは、常勝無敗のデーゼマン軍の中にあって、最精鋭たちです。このていどのことで、音を上げるような者はおりません!」
機甲科魔術大隊から、アレク直属の精鋭部隊に配属替えになった、セリーヌ・マッタンホルン大尉が力こぶを作ってみせる。
マッタンホルン大尉は、アレクと同じ赤毛の大柄な女性仕官である。騎馬を操るその腕は、フリオの下でさらに磨かれて、王国でも並ぶ者なき騎馬兵となっていると、フリオは言う。もちろん、フリオ自身は除外しているが。
マッタンホルン大尉が言ったように、精鋭たちは強行軍だったが、誰一人かけることなく本隊に合流した。
「申しわけありません。ブロス・カルバロ・アルホフを捕縛できませんでした」
カルバロ郡に入ったところで合流したアレクに、バージス副司令官が頭を下げた。
「こればかりは、仕方がありません。敵軍を瓦解に追い込めましたので、目標の半分以上は達成できました。ですから、気にしないでください」
奇襲時に、アルホフ三等勲民を捕縛するか、討ち取ったほうがいいに決まっている。
だが、アルホフ三等勲民の下に集った貴族は、三割は寝がえり、三割は討死し、二割は捕縛した。残った二割の貴族は、這う這うの体で逃げ隠れしているのだ。
アルホフ三等勲民が、本拠地であるケルメック城に帰りついたとしても、再び戦力を集めるのは難しいだろう。であるならば、ケルメック城がどれほど堅牢な城であっても、問題にはならない。
兵士がテントに駆け込んできた。
「何ごとか?」
カムラが、何事かと問いただす。
「ケルメック城から、使者がやってきました!」
兵士の言葉を聞き、アレクたち首脳陣は顔を見合わる。
「降伏の使者でしょうか?」
フリオの言葉に、その場の全員が「あのプライドの高いアルホフが?」と思った。
「何はともあれ、使者をこちらへ。それと、キース殿をここへ」
アレクは兵士に指示を与えると、使者用の席を用意させた。
すぐにキースがやってきて、使者がやってきたから立ち会うようにと、アレクが申しつけた。
しばらくすると、兵士に囲まれた使者がやってきたが、その使者の顔を見た全員が驚いた。
年齢は三十代後半くらいだと思われるが、金色の髪を短く切り揃えた男装の麗人と言える人物である。アルホフ三等勲民は使者に女性を選んだのか?
「は、母上!?」
キースの言葉を聞いた、全員が「え!?」と声をあげた。
キースの母親ということは、アルホフ三等勲民の妻であり、何より国王の妹である。
キースは席から立ちあがり、母親の前へ転がるように進み出て、膝をついた。
「母上。その髪は、どうされたのですか?」
どうやらアルホフ夫人は、髪の毛を切ったようだ。アレクは、その意味を測りかねる。
「キース。控えなさい! 自分の立場を弁えるのです」
「母上……。申しわけありません」
「貴方が謝るべきは、私ではなく、ここにおいでのお歴々にです」
キースを立たせると、キースの無礼を詫び、アレクに許可を得て席に戻す。キースが自分の席に戻ると、アルホフ夫人は最奥に座るアレクに視線を移した。
「私はモンロー・カルバロ・アルホフにございます。謀反人ブロス・カルバロ・アルホフの首をお持ちしました」
「っ!?」
アレクを始め、その場の全員が息を飲んだ。キースなどは、あまりのことに放心して声も出せない。
「首を、首を持ってきたと申されますか?」
ホッパー参謀長が身を乗り出して、確認する。
「落ちつきなさい、参謀長」
「こ、これは失礼つかまつった」
アレクの言葉で、ホッパー参謀長は浮かせた腰を降ろした。それを見たアレクは、アルホフ夫人に視線を移す。
「アルホフ夫人。失礼しました。まずは、席へ」
アレクに促されると、アルホフ夫人は用意されていた席に座った。
「お初にお目にかかります。私はアレクサンダー・デーゼマン中将にございます」
「お噂は、かねがね。この度は、夫ブロスの不心得により、デーゼマン将軍始め、お歴々に大変なご迷惑をおかけしました。また、国王陛下に対し奉り、申し開きもできぬ不始末を犯してしまい、本来であれば顔を出せた筋ではありませんが、我が子可愛さに出しゃばってしまいました。どうか、デーゼマン将軍には、キースのことをよろしくお引き立ていただければ、これ幸いにございます」
アルホフ夫人は、席を離れて地面にひれ伏した。アルホフ夫人の、この行動を見た首脳陣たちは騒然とする。
相手は謀反人の妻ではあるが、なんと言っても元王族であり現国王の妹である。そのアルホフ夫人が、地面にひれ伏して頭を地面に擦りつけたのだ、驚かないほうがおかしいというものである。
「アルホフ夫人。そのようにしていては、話もできませんので、お立ちください」
アレクの言葉で、アルホフ夫人は顔を上げる。額には土がつき、とても元王族とは思えない姿だ。
「私のことは、いかようにも。しかし、キースのことだけは、なにとぞ!」
鬼気迫るとは、このことだろう。アルホフ夫人は自分の命さえ捨てて、息子のキースを生かすことを望んでいる。母親とはなんと強きものかと、アレクは息を飲んだ。
「アルホフ家に関しては、国王陛下のお考え次第です。しかし、キース殿は、ブロス殿には与せず、協力的でした。そのことは、国王陛下にしっかりとお伝えいたします」
「デーゼマン将軍の寛大なる処置に、感謝の言葉もありません」
再び地面に額をつけるアルホフ夫人は、元王族のプライドなどよりも、海よりも深い母の愛によって動いているのだ。
アルホフ夫人を席に座らせ、話は進む。
持ってきた首は、ブロス・カルバロ・アルホフ三等勲民のもので間違いなく、それはブロスの顔をよく知っている、キーン十等勲民、ホーレック九等勲民、アットモ十等勲民だけではなく、キースも証言した。
この後、アレクはアルホフ三等勲民に従った貴族たちの残党を掃討し、ケルメック城に入って王都に使者を出した。
ケルメック城は、大貴族のアルホフ三等勲民家の居城だっただけあって、巨大で贅を凝らしたものであった。しかもアルホフ夫人は、宝物庫には一切手をつけず、アレクに全てを差し出したのである。
<デーゼマン軍>
マイラス・バージス少将(副司令官)
ボルフェス・ドメニス准将(政治将校)
ゲムズ・ホッパー准将(参謀長)
クラウス・シュメルツァー准将(編成部長)
ジョナサン・アルバレス中佐(副参謀)
トット・エギヌ大佐(機甲科魔術部隊隊長)(大隊長)
アーマット・ベネジクト少佐(第二歩兵大隊長補佐)
<味方>
ゼムド・キーン十等勲民(ザイムの町の領主)
ホーレック九等勲民
アットモ十等勲民
<アルホフ陣営>
ブロス・カルバロ・アルホフ三等勲民
ドマス六等勲民家(アルホフ分家)
イグリット・マミネス五等勲民(アルホフ分家筆頭)
<アルホフ陣営・不満あり>
コートジール六等勲民(アルホフ分家)
ベナンジール五等勲民
<アルホフ陣営・離反>
キース・カルバロ・アルホフ(アルホフ三等勲民の息子)
モンロー・カルバロ・アルホフ(アルホフ三等勲民の妻)
<アルホフの城>
ケルメック城




