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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
十三章

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111/160

111_新たな任務

 


 ガルス城の教国軍を掃討したアレクは、ガルス城に一千の兵士を置いて、ケルマン渓谷の入り口へ向かった。

 ケルマン渓谷の入り口には、教国軍の部隊が展開して、これを守っていた。


「入り口を塞ぐ」

「でも、教国軍がいるよ?」

「構わない。一緒に埋めてしまう」

 マリアは、ケルマン渓谷の入り口を守る敵部隊ごと埋めてしまえと言う。

 乱暴な話だが、これ以上教国軍を王国に入れないために必要な処置だ。


「閣下、敵に気づかれたようです」

「早く塞ぐ」

 ベイリー中尉が敵の動きを知らせると、マリアが面倒くさそうに言った。

「分かった。マリアは、こちらに向かってきた敵部隊の相手を頼むよ」

「クッキーをいつもの倍に」

「……分かった。ラクリス、マリアのクッキーをいつもの倍で作ってあげて」

「畏まりました」

 マリアがおやつとして食べるクッキーの量は、たかが知れている。それで、敵兵を相手してくれるのなら、安いものだ。


「泥沼」

 マリアが呟くと、こちらに向かってきていた敵部隊が、深い泥沼にはまって身動きできなくなった。

「アレクサンダー様の土魔術もすごいですが、マリア様の魔術は芸術的ですね」

 オウエンが、マリアの魔術に感嘆する。

 何が芸術的なのか、魔術を使えない者には分からないが、マリアの魔術はほとんど魔力が動かないのだ。

 極端な言い方をすると、小石を作るくらいの魔力量で、広範囲を泥沼化しているのである。

 しかも、泥沼の魔術は、土属性と水属性の複合魔術である。一つの属性の魔術を発動させるよりも、複数の属性の魔術を発動させるほうが難しく、多くの魔力を消費するのが普通である。


「それじゃあ、僕も。岩の雨!」

 アレクの土魔術が発動し、ケルマン渓谷の入り口に無数の岩が落ちていく。

 一個が人の数倍もある巨大な岩が、数百、数千と落ちていき、谷を埋めていく。

 谷の内側にいた敵兵士たちが、落ちてきた岩に潰される。指揮官らしき者は全身を覆う金属の鎧を着込んでいるが、戦闘では十分な防御力がある金属鎧でも岩の下敷きになって原形を留めない。

 阿鼻叫喚し、逃げ惑う敵兵士を容赦なく岩が押し潰していく。


「最低でも百メートルは埋める」

 幅が百メートル近い渓谷を、百メートルに渡って埋め尽くす岩を落とすのは、大変な魔力量がいるだろう。

 マリアは容赦ないが、それに応えることができるのが、人外の魔力量を持つアレクなのだ。


 十分もすると、ケルマン渓谷の入り口が完全に埋まった。

 これで王国内にいる教国軍は、ケルマン渓谷を通って教国に戻ることができなくなった。

 もし、教国に戻るなら、入り口を塞いでいる岩を百メートルほど登るか、南下してインデル王国経由で教国に戻るしかない。

 だが、教国はインデル王国と不仲なので、インデル王国を通って帰るのは、絶望的だ。

 では、岩を百メートルも登っていくことが現実的かというと、そうではない。岩を登っている時は無防備になるので、弓矢と魔術のいい餌食になるだろう。

 つまり、教国軍は補給もなしに、王国内で勢力を維持し続けるか、捕虜になるか、戦って死ぬしかないのだ。

 退路を断たれて、死に物狂いで反撃することも考えられるが、すでに主力である本隊が壊滅していることから、残った教国軍の兵数は五千もなく、三万のデーゼマン軍にとって、脅威ではない。


「泥沼を固めて、敵兵士はそのまま放置する」

 捕虜にすると、行軍速度が遅くなる。

 今のアレクたちにとって、最も避けたいことだ。

 デーゼマン軍の主力は、アルホフ軍を奇襲するために動いている。

 そろそろキーン十等勲民、ホーレック九等勲民、アットモ十等勲民、そしてキース・カルバロ・アルホフが合流している頃だ。


 アレクとフリオ、マリアの三兄弟は、本体とは別に二千の兵士を率いて別行動をしているのである。


「次はアルホフ軍だね」

「ベニーゼ城、ハープン城、ベミル城は、本隊が攻め落として、予定通りにアルホフ軍に向かっているはずです」

 この三城にも、アレクが地下道を掘っておいた。

 一万近い兵士に囲まれ、気づいたら地下から攻められているという、悪夢が教国軍を襲った後のはずだ。

 しかも、どの城も時間差がないように攻撃しているので、もしどこかの城の攻略が失敗していても、他の城に援軍を頼むことはできない。

 それに、最大戦力であるアレク、マリア、フリオが率いる最精鋭が、ケルマン渓谷を塞ぐことで、背後を気にすることなく自由に動けるのだ。


 つまり、デーゼマン軍が教国軍と戦っていると思って、のこのこ出てきたアルホフ軍は、すでに教国軍を倒したデーゼマン軍に、逆に奇襲されることになるのだ。

 今回、アルホフ軍に奇襲し、瓦解させることが本来の作戦である。

 マリアにとって、教国軍との戦闘は、アルホフ軍をおびき出す餌でしかないのだ。


 内に不満を抱えている寄せ集めのアルホフ軍は、大きなダメージを受ければ瓦解すると、マリアは考えている。

 もし、教国軍の敗残兵がいても、アルホフ軍を瓦解させてから潰せばいい。

 アレクたちは南へ北へと忙しいが、少数精鋭で動けば行軍速度は速い。




<デーゼマン軍>

 マイラス・バージス少将(副司令官)

 ボルフェス・ドメニス准将(政治将校)

 ゲムズ・ホッパー准将(参謀長)

 クラウス・シュメルツァー准将(編成部長)

 ジョナサン・アルバレス中佐(副参謀)

 トット・エギヌ大佐(機甲科魔術部隊隊長)(大隊長)


<味方>

 ゼムド・キーン十等勲民(ザイムの町の領主)

 ホーレック九等勲民

 アットモ十等勲民


<アルホフ陣営>

 ブロス・カルバロ・アルホフ三等勲民

 ドマス六等勲民家(アルホフ分家)


<アルホフ陣営・不満あり>

 コートジール六等勲民(アルホフ分家)

 ベナンジール五等勲民


<アルホフ陣営・離反>

 キース・カルバロ・アルホフ(アルホフ三等勲民の息子)


<教国軍の城>

 ガルス城、ベニーゼ城、ハープン城、ベミル城


<教国陣営>

 メニサイス・バッカニル中枢卿


 

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