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110_新たな任務

 


 教国軍の司令官であるメニサイス・バッカニル中枢卿は、デーゼマン軍がベニーゼ城に向かっていると報告を受けて、にやりと口角を上げた。

 報告では、デーゼマン軍の行軍は非常にゆるやかで、その兵数は三万。

 ベニーゼ城は小規模な城のため、防衛能力は低い。しかしベニーゼ城には、サダラード州東部の領民が四千人も配置されていて、デーゼマン軍が攻撃するには面倒な城である。


「それで、アレクサンダー・デーゼマンの姿を確認しているのだな?」

「はい。アースリザードに跨った赤毛の人物を確認しております」

「アルホフのほうは、どうなっているか?」

「アルホフ軍は、デーゼマン軍の背後を突こうとして、出陣しております」

「本当に王国の者どもは愚かだな。やはり、我らが導いてやらねば、王国の民に明日はない。はーーーっはははははは!」

 高らかと笑い声を響かせ、この出征が成功した暁には、教皇の座がぐっと近づくと、いやらしくほくそ笑む。


 その頃、アレクはバッカニル中枢卿の思惑とは、違った場所にいた。

「アレクサンダー様、目的地に到着しました」

 声を抑えたラクリスが、目的地への到着を告げた。

 アレクたちの周囲は土や石に覆われていて、洞窟の中のように見える。

「この上に、教国軍の司令官がいるんだね」

「はい。建物があり、その中には教国軍の者しかいません」

 ラクリスの耳がこまめに動いて、洞窟の上にいるであろうバッカニル中枢卿を始めとした、教国軍の首脳陣の声を拾っている。


 そう、ここはガルス城の地下である。

 この洞窟は、アレクが土魔術で掘ってきた地下道で、あまりに長いため、一定の間隔で風魔術士を配置して、風を起こして換気をしなければならなかったほどである。


 マリアの作戦は、帝国がヘルネス砦で行ったことの逆のことをやることだった。

 つまり、気づかれない場所から地下道を掘っていき、教国軍の本隊がいるガルス城の地下に到達したのだ。

 これは、圧倒的な魔力量を誇るアレクだからこそできることである。

 普通の魔術士なら、数十人が一カ月以上かけないとできないことも、アレクにかかれば一日もかからない。

 アレク配下の魔術士たちは、これまでにも常識外れの魔術を見てきたのだから、アレクの魔力量が多いことは知っていた。

 それでも、数十キロメートルの洞窟を休まず掘り進むアレクの魔力量に、驚愕の色を隠せない。


「フリオたちの配置はいいかな?」

「フリオ様は、準備万端です」

 この作戦は、アレクの土魔術だけではなく、フリオの武力があって初めて成功するものだ。


「それじゃあ、崩すから下がろうか」

「はい」

 アレクの他には、カムラ特務少佐たちアレクの従者と、マリアがいるだけなので、速やかに動ける。

 皆が安全な場所に移動したのを見たアレクは、トレントの杖を掲げて土魔術を発動させる。

 幅三十メートル、高さ二十メートルほどの空間の天井が、轟音と共に崩落していく。土ほこりが立ち上るが、マリアが風魔術でそれを押さえ込む。


「な、なんだっ!?」

 気づいたら地面がなくなり、まるで奈落の底に落ちていくような感覚に襲われたバッカニル中枢卿は、悲鳴をあげる間もなく体を強かに打ち、気を失うことになる。

 さらに、気を失ったバッカニル中枢卿の上に、建物の瓦礫が落ちてきて、バッカニル中枢卿はあっけなく命を落とすことになった。

 他にも教国軍の首脳陣の多くが、アレクの作り出した大穴に、建物の瓦礫と一緒に落ちていき、死亡していった。


 この轟音と振動が合図となって、フリオの部隊に同行している土魔術士が、地下道から地上に続く道を作った。

 アレクが限界まで地下道を作っていたため、地上へと続く道を作るのは、アレクでなくてもできたのだ。


「突撃する! 逆らうものは皆殺しにしろ! 武器を持たないものには攻撃するな!」

「「おおおっ!」」

 いきなり地下から王国軍が現れ、ガルス城にいる教国の兵士たちは混乱した。

 しかも、城が崩れ落ちていく様を、教国の兵士たちは目の当たりにしているため、混乱に拍車がかかっているのだ。


「な、なんだ!?」

「お、王国兵だぁぁぁぁっ!」

「た、助けてくれーーー」

「って、み、味方か!?」

 混乱した教国兵士たちは、なんと味方同士で同士討ちをするほどであった。


 ガルス城は、城を中心にできた町を囲うように大きな防壁があり、この地域では最大規模の城になる。

 元々、ケルマン渓谷の先にある、トルスト教国の抑えとして築かれた城なので、防御力も高い城だ。

 今回、フリオは三千人ほどの兵士を率いてガルス城へ突入したが、その広さはヘリオの町よりもはるかに広く、フリオですら制圧するには時間がかかる。


「人を人とも思わぬ、邪教徒どもを踏み潰せ!」

 教国軍が領民をどう扱っているかを知っていることから、フリオは静かに怒りを溜めていた。

 そんなフリオが率いる精鋭部隊は、圧倒的な強さをもって敵兵を屠っていくのだった。


 フリオが愛槍を振ると、一度に三人の教国軍兵士が弾き飛ばされ、他の教国軍兵士たちを巻き込む。

「フリオ様。右に敵兵です。数は百以上」

「ダンテさん。隊列を組んで」

「すでに、隊列を組みなおしております」

 フリオは後方で整列している部下たちを見て、にこりとほほ笑む。


「突撃!」

 愛槍を高らかに掲げて走り出すと、部下たちも一糸乱れぬ足並みでフリオに従う。

「うおぉぉぉっ! 僕は、フリオ・デーゼマン! 命が要らぬ者からかかってこい!」

 魔術が飛んでくるのもお構いなしに、フリオは一気に教国軍部隊に突撃し、兵士を薙ぎ払った。

 人が空を飛んでいく光景は、教国軍兵士たちに恐怖を与えるに足るものがあったようで、教国軍の部隊は混乱した。


「あ、あんな化け物を相手にできるか。俺は逃げる!」

 教国軍兵士たちが、一人、また一人と逃げ出す。

「ま、待て! 敵前逃亡は死刑だぞ!」

「あんなのを相手にしたら、間違いなく死ぬんだ。敵前逃亡で死刑でもなんでも好きにしろよ!」

 下級兵士と思われる者が、指揮官を蹴り飛ばした。

「き、貴様!?」

 指揮官が立ち上がって、下級兵士に剣を向けた。

 だが、そこにフリオが現れ、下級兵士を槍の錆にする。いや、マーロ合金の槍は錆びないのだが。


「ひぃぃぃっ。た、助けてください」

「武器を捨てろ! 抵抗すれば、殺す!」

 指揮官は持っていた剣を地面に落とし、へなへなと地面に座り込んでしまった。


「ダンテさん。この兵士は身分が高そうです。縄をうってください」

「承知しました」

 ダンテは、副官として誰が見ても安定している。まさにはまり役というものなんだろう。フォレストでもフリオでも、ダンテにとっては、行動が読みやすい脳筋なんだろう。

 もっとも、リーリアだけは、ダンテも苦労をしたようだが、それは言わぬが花である。


「トーレスさん、残敵を掃討しますよ」

「畏まった!」

 トーレス・アバジの槍も冴える。



<デーゼマン軍>

 マイラス・バージス少将(副司令官)

 ボルフェス・ドメニス准将(政治将校)

 ゲムズ・ホッパー准将(参謀長)

 クラウス・シュメルツァー准将(編成部長)

 ジョナサン・アルバレス中佐(副参謀)

 トット・エギヌ大佐(機甲科魔術部隊隊長)(大隊長)


<味方>

 ゼムド・キーン十等勲民(ザイムの町の領主)

 ホーレック九等勲民

 アットモ十等勲民


<アルホフ陣営>

 ブロス・カルバロ・アルホフ三等勲民

 ドマス六等勲民家(アルホフ分家)


<アルホフ陣営・不満あり>

 コートジール六等勲民(アルホフ分家)

 ベナンジール五等勲民


<アルホフ陣営・離反>

 キース・カルバロ・アルホフ(アルホフ三等勲民の息子)


<教国軍の城>

 ガルス城、ベニーゼ城、ハープン城、ベミル城


<教国陣営>

 メニサイス・バッカニル中枢卿


 

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