109_新たな任務
サダラード州東部のケルマン渓谷付近を占拠した教国軍は、占領した土地で徴兵を行っていてその数を四万にまで増やしていた。
それだけの徴兵を行うのだから、子供と老人以外の男子が多く徴兵されたのは言うまでもない。
その情報を掴んだデーゼマン軍の首脳陣は、頭を悩ませた。
当然のことだが、現在の教国軍の半分は王国の民である。家族を人質に取られて無理やり兵士にされているものがほとんどなのだ。
こうなることは分かっていたことだが、徴兵された人々はまともな防具もなく、武器も持たされていないと報告があった。
「これでは簡単に戦端を開くことができないではないか……」
アルバレス副参謀が苦々しい表情で呟いた。
教国軍はガルス城に二万五千。ベニーゼ城、ハープン城、ベミル城の各城に五千を配置して、王国の民を盾にする方針のようだ。
その中でもガルス城には、教国軍の主力が配置されていた。
「教国の奴ら、好き勝手しくさってからに……」
バージス副司令官が、殺気のこもった怒りの声を出した。
「こうなることは分かっていたことです。その上で徴兵された王国の民に被害が出ない献策をお願いします」
アレクは、無茶とも思える要求を幹部たちにした。
だが、幹部たちにその言葉を否定するものはおらず、アレクの要求を踏まえた策を立案しようと頭をフル回転させているが、そんなに簡単な話ではない。
そのため、自然とアレクの横で寛いでいるマリアに、視線が集まってしまう。
「一時間休憩にします」
アレクは、唐突に会議の中断を告げた。
煮詰まった頭を冷やすためのクールタイムの意味もあるが、裏でマリアの意見を聞くつもりだと誰もが思った。
アレクはマリアとフリオ、そして従者たちを連れて自室に戻った。
椅子に深く腰掛けたアレクは、その横でクッキーを食べ出したマリアに視線を移す。
「マリア。何かいい案はないかな?」
クッキーを頬張っているマリアに、アレクが聞く。
フリオなどは相変わらずだなと頬をかき、カムラたち従者は無表情でアレクとマリアを見守っている。
「追い払う。捕虜。皆殺し。どれがいい?」
随分と物騒な言葉が出たが、マリアにはそれだけの案があるということだ。
「できれば捕虜かな」
マリアは、ラクリスが淹れたお茶で口の中のクッキーを喉に流し込む。
淑女のやることではないが、マリアは平民の家で育った。しかも、そんなデーゼマン家の中でも、自由奔放を絵に描いたようなマリアは、貴族になったからと言って自分を捨てることはない。
「捕虜にするなら、まず逃げ道を塞ぐ」
逃げ道がケルマン渓谷を指しているのは、この場にいる全員に分かった。
「その後は?」
「指揮官を狙う、無力化する」
「その方法は?」
「そんなの簡単」
「うん、その簡単な話を教えてくれるかな」
マリアによって語られた策は、いたって簡単、簡潔だった。
「な、なるほど……」
「また兄さんの力に頼るのは、僕たちの不徳の致すところだけど、王国の民の被害を最小限にするには、それが最も効果的なんだろうね」
アレクに頼ることで作戦が成り立つのは、自分たちに力がないからだと思っているフリオは、マリアの策を聞いて不満げだった。
だが、その案に代わる案を、フリオは持っていない。
アレクは、マリアの作戦を軍議で諮った。
「なるほど、確かにそれなら敵をピンポイントで排除できますな」
バージス副司令官が賛成すると、他の首脳陣も賛成する。
即日、マリアの作戦が実行に移されることになった。
「我々が動けば、アルホフ軍も動くでしょう。ホッパー参謀長は哨戒を密にしてください」
「承知しました」
「シュメルツァー編成部長は、このザイムの町に残って、補給路の確保をお願いします」
「了解です」
「キーン十等勲民、ホーレック九等勲民、アットモ十等勲民、そしてキース殿には引き続きアルホフ軍へ離反工作をお願いします」
「「「「はい!」」」」
アレクは必要な命令を下し、軍を率いてザイムを発った。
<デーゼマン軍>
マイラス・バージス少将(副司令官)
ボルフェス・ドメニス准将(政治将校)
ゲムズ・ホッパー准将(参謀長)
クラウス・シュメルツァー准将(編成部長)
ジョナサン・アルバレス中佐(副参謀)
トット・エギヌ大佐(機甲科魔術部隊隊長)(大隊長)
<味方>
ゼムド・キーン十等勲民(ザイムの町の領主)
ホーレック九等勲民
アットモ十等勲民
<アルホフ陣営>
ブロス・カルバロ・アルホフ三等勲民
ドマス六等勲民家(アルホフ分家)
<アルホフ陣営・不満あり>
コートジール六等勲民(アルホフ分家)
ベナンジール五等勲民
<アルホフ陣営・離反>
キース・カルバロ・アルホフ(アルホフ三等勲民の息子)
<教国軍の城>
ガルス城、ベニーゼ城、ハープン城、ベミル城




