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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
十三章

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106/160

106_新たな任務

 


 デーゼマン軍がキーン十等勲民の治めるザイムの町に至ったのは、神帝暦623年7月10日のことである。

 ザイムの町を包囲していたアルホフ軍のうち、ドマス家の軍は速やかに後退したが、他の貴族軍はアレクに降伏した。

 降伏した貴族たちは元々嫌々アルホフ三等勲民に従っていただけなので、デーゼマン軍がきたことで抵抗せずに降伏したのだ。


「我らは決して王家への叛意があったわけではございません。どうか、我らの苦しい胸の内をお察しいただければ幸いにございます」

 床に頭を擦りつけるほどに頭を下げた貴族たちの心からの声である。

「閣下、彼らにはアルホフ討伐時の先陣を切ってもらうことで、今回のことは不問ということでよろしいと存じますが」

 師団から軍団へ昇格したことで、副師団長から副司令官へ昇格し、准将から少将へ昇進しているマイラス・バージスがアレクに進言する。

 その進言はアレクも妥当だと思ったことから、頷く。


「ドメニス准将。バージス少将の進言を採用しようと思いますが、准将の意見を聞かせてもらえますか?」

 アレクが水を向けたボルフェス・ドメニスは、今回アルホフ征伐に従軍した政治将校である。

 アレクは軍団長として政治的判断をする権限を持っているが、帝国との戦いにおいて政治的な判断に迷うことが多々あったことから、政治将校をつけてもらうことにしたのだ。


 ソウテイ王国における政治将校の権限は政治的な判断を行うというものであって、決して軍団長を監視するものではない。

 つまり、デーゼマン軍における政治将校はオブザーバーもしくは権限のないアドバイザーである。


「某もバージス少将の意見に賛成でございます。閣下」

 この金髪碧眼のドメニスは軍人であるが、とても軍人には見えない優男である。今年で42歳になるが、どうみても30歳くらいにしか見えない。

 政治将校であるドメニスの判断を聞き、アレクは彼らをアルホフ戦の先鋒にすることを決めた。


「ホーレック九等勲民とアットモ十等勲民には、アルホフ攻め時の先鋒をお願いします」

「寛大なるご処置、感謝いたします」

「必ずやお役に立ってみせます」

 ホーレック九等勲民とアットモ十等勲民の士気は高い。

 今まで散々苦渋を舐めさせられていたアルホフ三等勲民に一泡吹かせてやれると思うと、気が高ぶるのだ。


 だが、サダラード州の乱は、アルホフ三等勲民だけではなかった。

 ザイムの町で情報収集していたアレクの元に、トルスト教国軍が進軍してきたと報告があったのだ。

「アルホフ軍は5万。教国軍は2万」

 参謀長のゲムズ・ホッパー准将が資料に目を通しながら報告する。

「アルホフ軍のいるカルバロ郡は北側、それに対して教国軍は東のケルマン渓谷周辺を占拠。我々がアルホフ軍と戦っていたら後方より教国軍、逆に教国軍と戦っていたら後方からアルホフ軍に挟撃される可能性が高いです」

 ホッパー参謀長が地図の上の駒を動かして、敵味方の配置説明した。


 軍議に参加しているキーン十等勲民、ホーレック九等勲民、アットモ十等勲民は苦い表情をし、デーゼマン軍の幹部たちは余裕のある表情をする。

 対照的な表情だが、これはアレクや従軍しているフリオとマリアのことを知っているかどうかによるものだ。

 デーゼマン軍の幹部たちは、アレクだけではなくフリオとマリアのことも一目置いている。


「某は軍団を2つに分け、教国が陣取っているケルマン渓谷方面にバージス副司令官が率いる2万、カルバロ郡にはデーゼマン閣下が1万を率いていけばよろしかろうと存じます」

 副参謀のジョナサン・アルバレス中佐が、アレクの魔術頼みの作戦を提案した。

 機甲科魔術部隊の参謀であったアルバレス中佐は、機甲科魔術部隊が正式にデーゼマン軍に編入されたことによって、デーゼマン軍の副参謀に収まっている。また、先の帝国戦で戦功があったことで、少佐から中佐に昇進している。


「たしかに閣下であれば、有象無象の寄せ集めのアルホフ軍など瞬時に討伐されると思うが、万が一ということもあるからな……」

 トット・エギヌ大佐が一抹の不安を口にする。

 このエギヌも帝国戦の戦功で中佐から大佐に昇進し、アレクが軍団の司令官職に専念することになったため、機甲科魔術部隊の副隊長から隊長に昇格している。


「周辺貴族は何をしているのだ?」

 デーゼマン軍の補給責任者である、編成部長のシュメルツァー准将が基本的な質問を投げかけた。

 アレクの妻であるラーレの姉を妻にしていて義理の兄になるシュメルツァーも、帝国戦後に大佐から准将に昇進している。


「ケルマン渓谷周辺の貴族は、アルホフに合流している者が多いです。南部の貴族は防衛に専念、西部の貴族はアルホフに合流した者と、様子見の者が半々といったところです」

 ホッパー参謀長の説明を聞き、多くの幹部が首を横に振る。

 特にケルマン渓谷周辺の貴族は、自領が教国に占領されてしまったのに、アルホフ軍に合流しているという愚かさだ。


「正直言って、教国軍はこのまま放置でよろしいのでは?」

 アルバレス副参謀が呆れながら発言する。

「それも一つの手ではあるか……」

 バージス副司令官が同意するのを見て、他の幹部も頷く。


 しかし、アレクは違った。

「教国軍によって占領された土地の民は苦しんでいるでしょう。まずは教国軍を追い払います」

 アレクの言葉に、幹部たちが背筋を伸ばす。

「全軍をもって教国軍と戦い、教国軍を追い払った後にアルホフ軍と対峙します。ホッパー准将とアルバレス中佐はそのための作戦を立ててください」

「「承知しました」」

 軍議はここでお開きになり、アレクはフリオとマリアを連れてあてがわれている部屋に戻る。



<デーゼマン軍>

 マイラス・バージス少将(副司令官)

 ボルフェス・ドメニス准将(政治将校)

 ゲムズ・ホッパー准将(参謀長)

 ジョナサン・アルバレス中佐(副参謀)

 トット・エギヌ大佐(機甲科魔術部隊隊長)(大隊長)


<デーゼマン陣営(王国陣営)>

 ゼムド・キーン十等勲民(ザイムの町の領主)

 ホーレック九等勲民

 アットモ十等勲民


<アルホフ陣営>

 ブロス・カルバロ・アルホフ三等勲民

 ドマス六等勲民家(アルホフ分家)


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― 新着の感想 ―
[良い点] この判断が簡単に出来るのはアレクの成長なのでしょうか。素晴らしい判断だと思います。挟撃しようにも、連絡は出来ていないだろうし。連絡が出来ていても徴兵された兵達が故郷を守ろうとするデーゼマン…
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