101_失地奪還戦
四章『防衛』以上の話数になった十二章『失地奪還戦』も本話をもって完結です。
お楽しみください。
アレクがデジム城を攻撃している頃、ボリス・フェフナー大将率いる王国第三軍、通称フェフナー軍は海上を沖へ向かっていく大船団に魔術攻撃を仕掛けた。
魔術の射程はそれほど長くないが、ボリス・フェフナーの配下には彼と同じ妖精種風族が多くいる。
妖精種風族は魔術に長けた種族であり、そこはボリス・フェフナーも織り込み済みである。
「閣下、大魔術の準備ができました」
参謀のジャミス・ハイマンが言う大魔術は複数の魔術士が協力して発動させる魔術のことだ。
その威力はすさまじく、アレクがヘルネス砦を更地にしたような規模の魔術になるだろう。もっとも、アレクの場合は一人であれほどの威力を出したが、今回は30人の妖精種風族が持てる魔力の全てを込める。
「放て」
ボリス・フェフナーの命令によって大魔術が発動する。巨大な魔法陣が展開し、その魔法陣が回転しながら海へと落ちていくと、そこに渦巻きが発生する。
渦巻きは見る見るうちに大きくなっていき、半径数百メートルの巨大なものになって帝国軍の船を飲み込んでいく。
海面を埋め尽くす数百隻の船が次から次へと巨大な渦に飲み込まれていき、帝国兵はその恐怖に顔を青くする。
帝国軍の船の半分以上が巨大な渦に飲み込まれたところで、渦は消えた。
「半数の船を沈めることができました。兵員にすれば、1万は下らないでしょう」
ジャミス・ハイマンが海の藻屑となった帝国軍の規模を予想した。
「うむ、我らの祖国を蹂躙した者どもに天罰が下せた。皆の活躍に感謝する」
ボリス・フェフナーは海面に漂う木の板や箱を見つめた。
「我らの勝利だ! 勝鬨を挙げよ!」
ジャミス・ハイマンが大声で勝ちを宣言すると、怒涛のような歓声があがる。
一方、アレクはデジム城に残っていたわずかな帝国兵をほぼ制圧し終えていた。
城内の制圧はフリオが先頭に立って行う。
デジム城内にはおよそ3000の帝国兵が残っていたが、大した抵抗もなくそのほとんどを捕縛することができた。
今回の失地奪還戦はこの日、作戦完了を迎えたのだった。
デジム城に入った軍務大臣ハイネルト・ヒリングと王国軍統括幕僚ステイラム・オイゲンスは、将兵の勇戦を褒めたたえた。
「閣下、この後は帝国本土への逆撃侵攻ですな」
「うむ、あれは騎士団と援軍として駆けつけてきた各方面軍に任せておけばいい」
アレクたちがあまりにも早く帝国軍を駆逐してしまったため、各方面から呼び寄せた軍は活躍できずに終わっている。
だが、戦いはまだこれからであり、帝国本土への逆撃侵攻をしている騎士団の活躍に期待しているハイネルト・ヒリングとステイラム・オイゲンスだった。
それから数カ月、軍務大臣はデーゼマン家の本拠地であるヘリオに入り、最前線である帝国本土で戦っている騎士団や各方面軍、そして勝ち戦に乗ろうと駆けつけた貴族軍の指揮を執っていた。
その間、バレッド州はボリス・フェフナーが治安維持、シュテイン州はアレクが治安維持を行っている。
そのおかげもあってか、両州はかなり平静を取り戻している。
「閣下、休戦協定の締結、おめでとうございます」
ステイラム・オイゲンスはハイネルト・ヒリングに向かって祝いの言葉を述べ、アレクたちもそれに続いた。
神帝歴623年の4月に入って帝国との休戦が締結されたのだ。
多くの帝国領を占領下においての休戦協定である。王国内は沸きに沸いて今回の休戦を歓迎した。
その翌月の5月。アレクは軍務大臣と共に王都へ赴くことになる。
「デーゼマン中将には、私と共に王都に戻ってもらうが、フリオ殿も一緒に王都へいってもらうぞ」
「フリオもですか?」
「当然であろう。フリオ殿の働きも目を見張るものがある。王都で褒美をもらわねばな。まあ、リーリア殿の活躍は中将の働きに帰することになるが」
フリオはアレクの弟なのでその働きはフリオの功績だが、リーリアはアレクの母親なのでアレクの功績になる。
そしてフリオは帝国の将軍を捕縛するなど多くの軍功を挙げていることから、褒美が与えられて当然だとハイネルト・ヒリングは言った。
アレクとしてはこのままヘリオに残っていたかったが、ハイネルト・ヒリングとステイラム・オイゲンスはそれを許さない。
もっとも、二人が許しても国王が許さないだろう。
「今回は大々的に戦勝祝賀パーティーが開かれる。そこに主役のデーゼマン中将がいないのでは話にならぬではないか」
アレクはそういうことが苦手なので、軍務大臣や他の軍幹部が出席してくれればいいのにと思ったが、そうは問屋が卸さない。
「まあ、英雄アレクサンダー・デーゼマンを国民にお披露目する目的もあるのだがな」
「え?」
「デーゼマン中将には王国の顔になってもらう。今はそういう人物が必要な時期なのだ」
「………」
アレクは頷くこともせず、その言葉を聞いた。アレクにとっては非常に不本意な扱いだが、ハイネルト・ヒリングの言っていることは理解できるつもりだ。
アレクは、ハイネルト・ヒリングとステイラム・オイゲンスと共に王都へ向かった。
貴族の諸侯軍はすでに解散されていて、デーゼマン家の兵も自分の家に帰っている。
ただし、貴族たちは今回の帝国戦における論功行賞があるため王都へ向かう。その中にはフリオの姿もあった。
今回は多くの帝国領を占領したことで、貴族たちの足取りも軽い。帝国領を占領したことから論功行賞に期待が持てると踏んだ貴族たちがこぞって王都へ向かっているのだ。
「帝国への逆撃侵攻が成功し、諸侯が王都に一堂に会して論功行賞が行われる。ここだけの話だが、婿殿は今回の戦功が大きいので六等勲民への陞爵が決まっている」
王都への道中で野営した時、アレクの舅であるステイラム・オイゲンスがアレクと顔を突き合わせて話し込む。
「しかし、私は九等勲民です。それが六等勲民へ陞爵なんてあり得ないのでは?」
「すでに大臣級会議でこのことは決定されており、陛下の裁可も下りている」
まさかそのような話が決定しているとは思ってもいなかった。
「いいかな、これからは婿殿の周辺は劇的な変化を遂げるだろう」
今までも十分に劇的な変化があったとアレクは思った。平民で建築会社に就職したアレクが、今や貴族で王国軍の中将だ。これが劇的と言わずして何を劇的というのか。
「ヒリング閣下が王都に帰られたらすぐに大規模な人事の発表がある」
「人事……?」
「王太子殿下が宰相に内定しているのだ。他にいくつかの大臣職も人事の発表もあるだろう」
「王太子殿下が宰相に……」
国王には今年27歳になるルドルフ・マゼランド・カイシャウスという名の王太子がいる。
アレクは直接話したことも会ったこともないが、噂ではかなり優秀な人物のようだ。
「陛下は今回の大勝利と帝国への逆撃侵攻をもって宰相閣下の花道となされるおつもりなのだ」
「それならば、宰相閣下の顔も潰れないというわけですか」
「その通り。しかも、王太子殿下が宰相となるということがどういうことか分かるかな、婿殿」
アレクはその言葉の意味を考えた。そして出した結論は……。
「王位の継承でしょうか?」
ステイラム・オイゲンスがにこりと微笑む。それが全てを物語っているだろう。
今回の人事は宰相だけではなく、国王の代替わりの伏線でもある。
王太子もそれなりの年齢になり、いくつかの省庁で政治の勉強もしていた。
王国が劇的に変わるこの時期だが、国王は王太子に政治を任せてもいいだろうと判断したのだ。
むしろこれからの王国を背負って立つ王太子に、この激動の時代の中心にいさせようと考えているのだ。
そして数年後には王太子へ譲位するつもりなのだろう。
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