100_失地奪還戦
記念すべき百話目です。
ご愛読ありがとうございます。
ゲッテモールス城の騒ぎもあったが、アレクは帝国軍との戦いを連戦連勝に導いて、サンダー・カルコス帝国南部方面軍司令官を追い詰めている。
サンダー・カルコスはデジム港に築いた城に立てこもって徹底抗戦することを考えたが、アレクの土魔術によって更地にされたヘルネス砦のことは当然のことながらサンダー・カルコスの耳にも入っており、徹底抗戦しても全滅するだけだと撤退を決めた。
「口惜しいな……」
サンダー・カルコスが船の上からデジム城を見つめる。
「我らの力が及ばず、申しわけございません」
参謀長のロベルト・フォン・バルゼンが奥歯を噛みしめる。
「アレクサンダー・デーゼマンか……。もう二度と戦うことはないと思うが、常識外れにもほどがあるであろう……」
二度と戦うことはない。それはつまり、帝国本土に帰ったら今回の敗戦の責任を命で贖わなければならない。サンダー・カルコスはそう考えていた。
ここまでの大敗をした以上、平民出身のサンダー・カルコスは処刑されるだろう。貴族でもこれほどの負けでは、家を潰すほどの罪に問われかねない。
戦で討死したほうが名誉ある戦死になるが、それでは大切な部下の命を無駄に散らせることになる。それに、サンダー・カルコスが生きて帰らなければ、誰かが代わりに責任を問われる。
だから、あえて不名誉な処刑を受け入れることにしたのだ。
サンダー・カルコスが死を覚悟した撤退の最中、地上にある王国軍の陣へ伝令が駆け込んだ。
「敵は船を使い撤退しております!」
「ご苦労、下がれ」
威厳ある声で伝令を下がらせたのは、軍務大臣のハイネルト・ヒリングである。
「あっさり退くではないか。罠、ということはないと思うが……?」
ハイネルト・ヒリングが呟く。
失地奪還戦も大詰めとなったことで、ハイネルト・ヒリングは王都からやってきて現在は陣頭指揮を執っている。
陣頭指揮と言っても作戦の立案には口出しせず、ただの神輿であるとハイネルト・ヒリング本人が徹底していることもあり、現場の指揮を執るボリス・フェフナー大将やアレクに不満はない。
ハイネルト・ヒリングがやってきたことで、騎士団と王国軍で手柄の取り合いになることもなく、現在騎士団はヘルネス砦の跡地へ向かっている。
帝国軍が強大だと普段いがみ合っている騎士団と王国軍でも協力するが、その帝国軍が風前の灯火状態では手柄の取り合いやいがみ合いが発生して、帝国軍につけ入る隙を与えてしまうことを懸念したハイネルト・ヒリングが王都からわざわざやってきたのだ。
ハイネルト・ヒリングが到着する前は、騎士団と王国軍の間で配置や侵攻ルート、作戦などに意見の相違がありまとまりを欠いていたが、ハイネルト・ヒリングが騎士団に帝国侵攻の任務を与えたことで騎士団は帝国領へ侵攻するためにヘルネス砦の跡地へ向かったのだ。
「フェフナー大将、ここで一気に帝国軍へ大ダメージを与えておきたいが、どうか?」
「某もそう考えておりました」
ボリス・フェフナーがハイネルト・ヒリングの意見に賛成すると、二人はアレクを見る。
「デーゼマン中将」
アレクはハイネルト・ヒリングが到着したと同時に中将へ昇進する辞令を受けた。
それと同時にデーゼマン師団は軍団に格上げされ、アレクはジークフリート・ローゼン中将から預かった兵士1万を加えた2万5000の兵を正式に指揮する将軍になっている。
「はい」
「貴殿はデジム城を攻撃、某は船を攻撃する」
ボリス・フェフナーが担当を指示する。
「承知しました」
アレクが頷く。
「よし、それでは直ちに帝国軍へ攻撃を仕掛けてくれ」
ハイネルト・ヒリングが二人を送り出す。
本陣に残ったのは、ハイネルト・ヒリングと王国軍統括幕僚ステイラム・オイゲンスだけである。
二人は緩衝材の役割のためにこの戦場へやってきた。だから、戦場には立たない。それに今さら戦場に立っては、手柄を横取りされると思われ将兵の士気に影響する。
「しかし、ここまで早く失地を完全に回復できるとは思ってもいませんでした」
「うむ、これもステイラム殿の婿殿のおかげだ」
ステイラムの婿というのは、もちろんアレクのことだ。
「特に開戦直後のボロス城戦が大きい。あの大軍を撃破したことによって、戦局は王国に大きく傾いたのだ」
「しかし、婿殿の戦功は大きすぎます。今回は中将へ昇進ということでしたが、これだけでは収めるわけにはいきませんな……」
「我らはアレクサンダー・デーゼマンという英雄を全面に押し立てて帝国と戦うと決めたのだ。彼がどれほどの戦功を挙げようと、その戦功に報いる用意はある。それに、彼に与える領地ならあるからな」
ハイネルト・ヒリングがニヤリと笑う。
「左様でしたな」
ステイラム・オイゲンスもニヤリと笑みを返す。
たしかに今回の帝国軍侵攻によって多くの貴族が族滅したり、ペティグリュウ・ザッテモールのような裏切り者から取り上げた土地がある。
だが、この二人が言う領地というのは、それらの土地なのだろうか? 二人がいやらしい笑みが印象に残る。
ちなみに、ペティグリュウ・ザッテモールはあの後、即日斬首され一族も捕縛されている。
日頃反目し合っている騎士団と軍部が共に斬首が妥当と判断し、本国の判断を待たずに斬首にしたのだ。
そうすることによって、前線で戦っている兵士たちの士気を上げると共に、後顧の憂いをなくした。
もちろん、本国もこの判断を後追いで承認していて、ザッテモール家のゲッテモールス城は対帝国軍の拠点として使われている。
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