表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/160

010_伝説への一歩

 


 神聖歴617年3月。

 フォレストが十等勲民という貴族位に叙勲されて領地を拝領したことで、騎士団を退団することになった。

 これはいうまでもなく、宰相以下、大臣、貴族の思惑による円満退団である。貴族側から見た円満退団であるが……。

 フォレストの退団にともなう騎士団の引継ぎを終わらせたのが、この3月の初めの頃である。

 騎士団の引継ぎが終わると、次は今後の自分に密接に関係する領地のことに移る。

 拝領した領地はシュテイン州アブライ郡ヘリオ町とその周辺の村が4つである。

 シュテイン州はソウテイ王国の北にある州で、テルメール帝国とゼント共和国の2カ国と国境を接する州である。

 ソウテイ王国の中でも一番紛争の多い地域でもある。


 ヘリオの町の人口は約4000人。

 村の方はアーラス村が約500人、ベルムーイ村が約450人、セルトム村が約400人、デルマン村が約400人。

 この他に開拓村と呼ばれる集落が三つあって合計で約200人。

 合計で約5900人の人口になる。


 石高はヘリオの町で5400石。

 村の方はアーラス村が800石、ベルムーイ村が730石、セルトム村が550石、デルマン村が500石。

 開拓村が三つで180石。

 合計で8160石になる。


 ヘリオ町は湖の畔に造られた町なので、人口に対して石高は多い。

 四つの村も二つは湖の畔にあるし、残りの二つも川のそばなので肥沃な土地だ。

 開発を進めて農地が広がれば、多くの穀物を生産できるだろう。


 フォレストの叙爵にともなって3人の騎士、そしてその従士たちが騎士団を退団してデーゼマン家に仕えることになっている。

 王国第二騎士団には平民出身の騎士や従士が多くいる。

 騎士団の人員配置として、第一と第三は貴族の子弟が多く平民が少ない傾向にあり、第二と第四は平民が多く貴族が少ない傾向にあるのだ。

 近衛にいたっては貴族でも中級貴族以上の出身者しかいないといっても過言ではない。

 フォレストについていきたいという平民出身の騎士や従士は多く、フォレストが預かっていた中隊の半数にも及び、それ以外からも希望者があった。

 しかし、それら全員を受け入れることはできない。

 だから長年部下としてフォレストを支えてきた、騎士ダンテ・ボールニクス、騎士ハルバルト・デゼナン、騎士トーレス・アバジの3人がデーゼマン家の家臣として仕えることになったのだ。


 騎士団の騎士には従士が5人ずついるが、3人の騎士の従士は全員移籍が決まっている。

 当然ながらフォレストにも従士が8人いるが、その8人もデーゼマン家に移籍である。

 こうして見てみると、フォレストの人望の厚さが分かる。

 貴族の子弟は平民出身者を卑下する傾向が強いので、どこかの貴族家の子弟が領地を拝領したとしても、このようなことはないだろう。


「ウイル、移住者のリストはできたか?」

「はい、こちらに」

 デーゼマン家の一室。ここにはフォレストとクリスの他に、3人の騎士と移住者のリスト作成を任せれている従士ウイル・ニクスがいる。

 このウイル・ニクスはくせの強い栗毛が特徴の若者で、剣の腕は人並だが事務処理能力に長けている。

 ウイルはその事務処理能力を買われ、フォレストが小隊長に昇進した時に従士になった中堅どころの従士だ。

 今回、フォレストが十等勲民に叙勲されたことで、騎士団を退団してデーゼマン家に仕官した1人である。


 ウイルから移住者のリストを受け取ったフォレストは、一通り目を通すとクリスにリストを渡した。

 こういったことはフォレストよりクリスの方が長けているので、事務方のことはクリスに任すことになっている。

 つまり、クリスも王都を離れてヘリオへついていくことになっているのだ。

 クリスだけではなく、カーシャを始め家族全員がヘリオについていくことになっている。

 カーシャにいたっては薬屋をたたんで移住することにしているので、今はエリーと一緒に閉店に向けて取引先や貴族の顧客の対応に奔走しているところだ。


「リストでは移住者は合計で154人ですか。荷車や馬車それに馬の手配が大変ですね」

 デーゼマン家が9人、騎士3人、フォレストの従士が8人、騎士の従士が15人、そしてそれらの家族や使用人を合わせて154人が今回の移住者になる。

「今、所有している荷車の他に10台ほどは購入するにしても、まだあと20台ほど必要ですから、知り合いの商人から借り受けるしかありませんね」

 薬屋をしているのでデーゼマン家も荷車を1台所有しているし、家臣になった家でも数台は所有している。しかし、その数ではとても足りないのだ。

 購入する数を10台にしたのは注文を出しても、旅立つ日までに納品されないと考えてのことだ。

 だから、顔のきく商人たちに借り受けることにしたのである。

「クリスとウイルは荷車の手配を頼む」

「「はい」」


 次は村の話になった。

 村は4つあり、アーラス村、ベルムーイ村、セルトム村、デルマン村である。

 この中でも最も重要な村はアーラス村になる。

 王都からヘリオ町に向かう、またはその逆の場合にもアーラス村を通るのだ。

 しかも、4つの村の中では一番人口が多く、石高も高い。

 交通の要所だけではなく、生産面でも重要な村である。


「アーラス村はダンテに任せる。頼むぞ」

「ありがとうございます」

 騎士ダンテ・ボールニクスはフォレストより3歳年上だが、フォレストと一番古いつき合いである。

 フォレストがまだ従士だったころから、気があってよく飲み歩いた間柄であり、フォレストが小隊長そして中隊長に昇進した今でも気やすい相手として仲がいい。

 剣の腕はギリギリ上位に入るレベルだが、ダンテの本領はその指揮能力にある。

 フォレスト自身も指揮能力は高いが、戦場では先頭に立って戦うことから、実質的に部隊を動かしていたのはダンテである。

 しかも圧倒的な戦闘力を持つフォレストが突出しないように、器用に部隊を操るのである。


 アーラス村と同様に重要なのがベルムーイ村である。

 ベルムーイ村はヘルネス砦に近く、帝国への備えの要でもある。

「ベルムーイ村はハルバルトに任せる。頼むぞ」

 テーブルの上に広げられた地図の一点をさして、フォレストが騎士ハルバルト・デゼナンに視線を向けた。


「ありがとうございます。期待に応えられるよう、努力します」

 ハルバルトは藍色の髪の毛の獣人種犬族(ワードック)である。

 鋭い爪と少し長めの犬歯、犬型の耳が頭の上にあって尻尾もあるが、それ以外は人間種人族(ヒューマン)と大して変わりはない。

 そんなハルバルトは弓の名手として知られているし、斥候としても優秀だ。

 ハルバルトなら帝国軍が攻めてきてもベルムーイ村を護りきってくれると、フォレストは信じている。


 

お読みいただき、ありがとうございました。

評価と応援メッセージ大歓迎です!


明日も更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ