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001_デーゼマン家

令和元年ですね。

令和の最初の日に連載投稿します!

 


 過去に大陸の大半を従えたテルメ大帝国という国があった。

 この物語は、土魔術という地味な魔術を駆使して、テルメの大地を埋め尽くした一人の少年と、その家族の物語である。


 綺麗な赤毛が風に揺れる。

 まだ幼さを残す顔の少年はとぼとぼと歩道を歩いてどこかへいくようだ。

「マリアは倒れるまで魔術を使えって言うけど……」

 彼にはマリアという妹がいる。

 輝く金色の髪の毛に紅色の眼をしたとても可愛らしい一歳年下の妹だ。

 その妹がなぜそのようなことを言ったのだろうか?


 この世界では誰でも10歳になると、神からの恩恵としてスキルが与えられる。

 通常、スキルは一つから二つ与えられ、稀に五つ与えられる場合もある。

 誰がどんなスキルを与えられるかは神のみぞ知るであり、人間がスキルを選ぶことはできないと言われている。

 そんな世の中にあって、彼アレクサンダー・デーゼマンは10歳の誕生日に神より土魔術を与えられたのだった。

 妹のマリアに土魔術は過去の英雄が持っていたスキルだから、きっとアレクサンダーも英雄になると言われた。

 9歳の可愛らしい妹に言われるとその気になりそうだが、アレクサンダーは土魔術の英雄の話を聞いたことがない。


 魔物が闊歩する世界なので、戦闘系のスキルを得ていると就職に有利になり、生産系のスキルも重宝される。

 そんな中、魔術は剣術や槍術と並ぶ人気スキルである。

 しかし、魔術の中にも人気がある魔術と、人気のない魔術がある。

 火魔術、風魔術、水魔術の順に人気で、一番の不人気は土魔術である。

 火魔術は攻撃手段として強力で特に人気があり、風魔術は攻撃や索敵などに便利でこれも人気があり、水魔術は攻撃もできるが回復系の魔術として人気がある。

 だが、土魔術は攻撃としては使いづらく、主に建築や土木、それに鉱山開発などの分野に重宝されるスキルだ。

 便利だが地味ということもあって魔術の中では人気がないのである。


「でも、マリアの言う通りにするのがいいよな……」

 アレクサンダーの住むのはソウテイ王国の首都であるサー・エレインである。

 サー・エレインは王国の首都であることから、王都と呼ばれる石造りの建物が多い大きな都市である。

 そんな王都の中をとぼとぼと歩いているアレクサンダーが向かう先は、建設会社だった。

 神よりスキルが与えられると、人々はそのスキルを磨くことで出世ができる。

 建設会社であれば、土魔術の使い手であるアレクサンダーを雇ってくれるだろうと、向かっているのだ。


 建物の隙間を風が通るたびに、アレクサンダーの燃えるような赤髪が揺れる。

 本人は認識していないが年齢を問わず少女から熟女まで、すれ違った女性の10人中9人は振り返るほど、アレクサンダーは美形である。

 その翡翠色の瞳に見つめられた女性は天にも昇るほどに浮かれるのだ。

 アレクサンダー自身はいたって普通の容姿だと思っていて、まったく自覚がないのだからたちが悪い。


「すみません、こちらで働きたいのですが……」

 建設会社の建物に入ると事務所のような部屋で、そこにいた30歳代の女性に声をかけた。

 茶色の髪の毛を肩まで伸ばした、ごく一般的な容姿の女性だ。

「あらまぁ、可愛い子ね!」

 食い入るように顔を見つめられたアレクサンダーはちょっと引いた。

「あら、ごめんなさいね。かなり若いようだけど、スキルを得たばかりかしら?」

 急に働きたいというアレクサンダーに、30歳代の女性は気を悪くすることなく笑顔を向けた。

 10歳になるとスキルを活かして働く者が多いからである。


「はい、先日土魔術を得ましたので」

「まぁ!? 土魔術なの。いいところにきたわ!」

 女性はアレクサンダーの手を引いて建物奥へ向かい、ある部屋の前で立ち止まった。

「あなた、入るわよ」

「おう」

 どうやらこの女性の夫が部屋の中にいるようだ。

 女性がドアを開けて部屋の中に入ると、ボサボサの茶髪に髭面の40歳前後の男性が、机の上にある羊皮紙にペンを走らせていた。


「あなた、この子がうちで働きたいって言うのよ、いいわよね?」

「あん? うちで働くだと? ……子供か、スキルはなんだ?」

 ペンを止めて顔を上げた男性の茶色の瞳から放たれる視線は鋭く、アレクサンダーは少しあとずさった。

「は、初めまして。僕はアレクサンダーといいます。スキルは土魔術です」

「土魔術か!? いつから働けるんだ?」

「え? は、はい。僕はいつでも……」

「よし、今すぐ働け。メルム、手続きしたら作業着を渡してやれ」

 どうやら妻の名前はメルムと言うらしい。

 しかし、雇う側の自己紹介もなしで採用とはなかなかにアバウトな会社である。

「はいよ。アレクサンダー君、こっちにおいで」

 もっと色々と聞かれたりテストがあると思っていたアレクサンダーは拍子抜けしてしまう。

 そんなアレクサンダーをメルムは引っ張っていき、先ほどの事務所でアレクサンダーを椅子に座らせた。


「では、改めて自己紹介をするわね。私はメルム・エドゥト。このエドゥト建設会社の副社長をしているわ。そして、さっきのが私の夫でこのエドゥト建設会社の社長をしているコルマヌ・エドゥトよ。よろしくね」

「僕はアレクサンダー・デーゼマンといいます。よろしくお願いします」

 椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。

 アレクサンダーの燃えるような赤髪がサラサラと垂れるのを見て、メルムは目を細めた。


 

お読みいただき、ありがとうございました。

これからも読んでいただけると嬉しいです。

評価大歓迎です!


今日は3話更新です。

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― 新着の感想 ―
コミカライズを読み先が気になったので今更ながらやってきました。 ゆっくりアレクの成長を追っていきたいと思います。
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