婚ぎの月、25日
杖を突く身になると、気づかないところで不便が出てくるものだ。
例えば、今日は湯を沸かそうと竈に鍋を置いたのだが、水瓶と竈の距離は少しだけ開いていて、そのわずかな離れ方が苛々させる。火を着けるにしても、上手く腰を下ろせずに火打ち石を打てないものだから、自分で自分が危なっかしい。
リオは、奴隷の購入を勧めていた。確かに、日常で他人の手が必要な私には、奴隷は手っ取り早く最適かもしれない。
リオは今日も来ていた。友人想いな所はとてもありがたいのだが、自分の工房を放っていて良いのだろうか?
だが、そのお陰で、家の清掃は今日一日で終わった。ゆっくりと掃除するつもりだったが、リオには頭が上がらない。
彼が言うに、戦争が終わってばかりだから、今が一番安いし、品揃えもよく買い時らしい。もう少しすると奴隷船が入港し、船の生活で衰弱したものも街の市場に溢れるから、また事情が変わってくるとか。
リオの工房でも数人使っているらしい。反抗されないのかと尋ねれば、休みと報酬を与えれていば、普通の使用人より働くそうだ。
奴隷船は1週間で着く予定だから、3、4日考えれば良いさ、とリオは自分で持ってきたワインをあおっていた。
俸給を使えば、選り好みしなければそれなりに選べるとも言っていたから、それなりに考えてみよう。どうせ、灯台の管理以外にやることがないのだから。