第6話 ヨハンさんからの誘い
「何故あなたも出てきたのですか?」
馬車を出た俺にクロエさんが詰め寄ってきた。
「私も戦おうと」
「危険です。馬車の中にいてください」
「大丈夫です。こう見えて強いので」
そう言っても信じてもらえない。
当たり前といえば当たり前か。
頑固として戦おうとする俺と、それを止めたいクロエさん。そんな二人を待つオークではない。
一体のオークの攻撃。そのオークの攻撃を俺たちは後ろにジャンプして避けた。
「分かりました。ですが危険と思ったらすぐに避難してくださいね」
そう言って、クロエさんは剣を構える。
オークの姿形は人間と同じぐらいの背丈。豚のような顔。手には斧が握られている。肌は緑に近い。
馬車の周りを歩き、馬車を守っていた兵たちは一対一でオークたちと戦う。しかしオークの方が多い。
もしかして、クロエさんは残りのオークたちすべてを相手にするつもりなのか?
いや、でも。兵の男たちが一対一で苦戦する相手を20体ほど同時に相手にするのか?
次の瞬間。
俺たちに攻撃してきたオークが地面に倒れた。首が気づいたらなくなっていた。
それがクロエさんの仕業だと理解する、その合間に。
クロエさんはオークの群れに突進した。それに反応できなかったオークが一体、首が斬られ、頭が地面に落ちた。
オークたちはクロエさんを危険と判断し、三体のオークがクロエさんに斧を振り下ろした。それを回転するようにジャンプして避ける。回転の勢いに乗せて、三体のオークの首元を正確に切り落とす。
綺麗だな、が印象だった。
野蛮な戦い方ではなく、いかに美しく殺戮をしていくか。それが完成されている。まさしく騎士に相応しい姿だった。
すごい。
いや、何棒立ちしてるんだ。
クロエさんに戦わせないために馬車から出てきただろ。
俺も槍を構えた。
クロエさんがこんなに強いんだ。俺も少しぐらい力を出して問題無いだろう。
クロエさんを見習い、俺もオークの群れに突進する。そのままの勢いでオーク一体の頭に槍を突き刺した。そして、地面を蹴る。突き刺したオークの上空を飛び越えるように。その勢いに乗せてオークの頭を縦に斬る。
地面に降り立つやいなや、オークたちは今度は俺を標的にした。振り下ろされる斧。それを槍で受け止めて、押し返す。体勢を崩したオークたちの首を横に切り落とす。
「すごい」
馬車の中からそんな声が聞こえた。ダリアさんの声だ。
またたく間に、オークの群れは死体の山へと変わる。兵にケガ人は数人いるが重傷者以上はいない。怪我の少ない兵たちがオークの死体を道の外に放り投げる。放置すれば動物たちが死体を食べるらしい。
クロエさんはそんなオークの処理を兵に任せ、剣を軽く回転させた。遠心力で剣についた血が地面に飛び散る。軽く布で吹き、鞘に収めて。
「あなた、すごいのね」
なんて褒められた。
「あなたは騎士になる素質があるわね」
「ありがとうございます」
褒められて嬉しくないわけがない。俺の声は少し高かったかも。
俺も槍を布で綺麗にしたのち、クロエさんと一緒に馬車へ戻る。すると、驚きの表情のヨハンさんとダリアさんに出迎えられた。
「惚れ惚れとする戦い方でした」
「リヴァさんは一体どこでその力を?」
「鍛錬のたまものです」
実際は何となくやってみたら出来たんだけども。
クロエさんの隣で野蛮な殺しは出来なかったから。
「いや、すごい。本当にすごい。そうだ!リヴァさん。私のお願いを一つ、受け入れてくれませんか?」
ヨハンさんが続ける。
「あなたは騎士になるべき人だ。どうでしょう。我が家の専属の騎士になってみませんか?」
「あなた。良い考えね。リヴァさん。考えてみてくださらない?あなたのその力は埋もれるにはあまりにも惜しいものです」
「他の騎士の手前、初めは騎士見習いからになりますが。ですが船が難破し、お金もないのでしょう?騎士見習いになれば衣食住には困らない。月終わりには給料も出ます。どうですか?」
ヨハンさん、そしてダリアさんの言葉。
騎士?
騎士か。つまりクロエさんみたいなことをするのかな。確かにお金はない。街に着いても、まず金を稼ぐことを考えないといけないと思っていた。
良い誘い?
「どうでしょう。あなたに推薦状をお出ししたい」
再びその言葉に俺はふむと考え込む。
決めた。
直感を信じろ。
「はい。喜んで受けたいと思います」
俺は騎士になることにした。
キャラ紹介4
モブ ダリア・アルベール
庶民だったが、ヨハンと結婚し晴れて貴族の仲間入りをした女性。美人で美男の夫を持つ28歳。
趣味はお茶会を開くこと。