第14話 ラリサはお嬢様
「やっぱりリヴァちゃんじゃなかった」
ヴァレンティナさんに母親について詳しく聞いた後、アリスは嬉しそうにしながら俺の方へ歩み寄って来た。
確かに俺もうれしかった。杞憂で済んで。何より、僅か一日の悩みで済んだ。
でも一つ問題があるとすれば。
「リヴァちゃんは悩む必要なんかなかった。これからもずっと友達でいられるね。私たちのどちらかが墓に入った後も。それとも一緒の墓に入る?」
「そうだね。どちらも貰い手がなかったらね」
「私の貰い手はもう目の前にいるよ」
一見すれば前のアリスと変わらない。
でも前のアリスとは大きく違う。少しの期間だけども、一方的にアリスのことは分かったつもりでいる。
俺ははっきりとアリスに言った。
意味もなく人を殺したと。
「ねぇ、アリス」
「どうかした、リヴァちゃん」
「言葉がうまく思いつかないのだけども。大丈夫?」
「大丈夫? 何が? 私は大丈夫だよ。リヴァちゃんと友達が続けられるのだから」
アリスは知らないふりをしている。
それが良い結果にはならないとは思う。
でも、これ以上関係を悪化させるのはもっと良くない結果になりそうで、俺は今の状況を喜ぶことにした。
練習はすぐに終わった。
というのも、明日の騎士見習いは一人を除き王の前に出ることはないらしい。そして明後日の授与式に出る十数名は全員が王の前に出るらしい。
だからその一人を除き、俺たちの練習は入口から入り、指定の場所で止まり、そして終わったら出ていくだけだった。
「明日は緊張するだろうけども。大丈夫。ちょっと間違えても大目に見るわ。変なことしても見る人のほとんどは大人だから、可愛いとしか思わないし」
ヴァレンティナさんはそんなことを言いながら俺たちを宿へと案内してくれる。
宿ではない。どちらかというとホテルだ。
合格した騎士見習いの中、女子を集めてホテルの中を案内するのはヴァレンティナさんの仕事らしい。
今年の合格者のうち女子の人数は四人。
俺とアリス、そして二人の知らない子。
「みすぼらしいホテルですわね。少なくともペットの家よりかは幾分マシですが」
うち一人は何ともお嬢様らしいキャラだった。
見た目からして違う。アリスやもう一人の知らない子とは違い、身なりがしっかりしている。金髪のパーマに大きな宝石がはめ込まれたネックレス。
性格もひと昔の漫画に出てきそうなお嬢様だ。良いところの子は性格も良いんじゃないのだろうか。
「あなたにとってはそうかもね。ミス、なんだったかしら」
「ラリサよ」
ラリサね。
ミス・ラリサ。じゃなくてミスは敬称だから名前はラリサか。お嬢様ということは貴族ということだから。
姓は何だろうか。
「姓は?」
思わず聞いてしまう。
「ラリサよ」
「ラリサ・ラリサ?」
「ミス・ラリサよ!」
ミスが名前で、苗字がラリサね。なるほど、なるほど。
あれ?
「違うよ。その子の名前はラリサ。苗字がない、あたしと同じ汚い庶民よ」
するともう一人の子がそんなことを言った。
「ナタリー!」
そしてラリサは大声をあげる。
もう一人の子はナタリーというらしい。
つまりどういうことだ。
「リヴァちゃん。その子は、何て言うかな。有名なの。騎士見習いの中でね。知らない人がいないぐらいに。そしてお嬢様だけども姓はないの。お金持ちだけども貴族じゃないから」
「そうだったんだ」
アリスもラリサのことを知っていたみたいだ。
思わずラリサの方を見てしまう。するとラリサはそっと目を逸らした。
確かに、貴族になるには称号が必要だ。称号がない金持ちがいても可笑しくはない。そしてそれにコンプレックスを抱くのも十分あり得る。
「ふん、そんなことを言っているのも今の内よ。私は騎士になるのだから、ついに貴族になれる。貴族に必要な税金の支払いが出来るほどお金は稼いでいるからね!」
そう言って強がるラリサの目はどこかうるんでいた。
触れない方が良いことだったのかもしれない。気づくのが遅すぎた。
「あなたたち、喧嘩は止めなさい。ほら、着いたわよ。あなたたちのように綺麗な部屋よ。ラリサはこの日のために頑張って来たのだから、自信を持ちなさい。泣いたりしたらしょうちしないわよ?」
ヴァレンティナさんがラリサを慰める。
ヴァレンティナさんがいなければ空気は最悪だったかもしれない。今も少しだけ悪い方だけども。
それよりも俺は明日までこの子たちと一緒の部屋で寝るのか。
大丈夫かな。
いろんな意味で。
部屋は広く、ベッドが四つと椅子が二つと小さなテーブル。綺麗なシャンデリア。個室の風呂と洗面所。
四つあるベッドは壁に向けて二つずつに別れている。その二つにそれぞれ俺とアリス組とラリサとナタリー組に別れる。
「そう言えば、あなたは中々綺麗な子ね。私には劣るけども」
ラリサがベッドに座り、俺の方を向いてそんなことを言った。
荷物を片付ける俺とアリス。
「お名前は?」
「リヴァよ」
「姓は何かしら」
「私も庶民だから。姓はないね」
そう言うと、ラリサは驚いたような表情をして。
「お金がなくてもそこまで綺麗になれるなんて。すごい技術ね。ナタリーとは大違い」
「あたしは少なくともあんたより綺麗な自信があるよ。ああ、つまりラリサはお金をかけてもその程度ということね」
「ナタリー!」
「怖い怖い。庶民が怒った。あたしは洗面所に避難するね。アリス。後のことお願い」
そしてナタリーは洗面所へと逃げていく。
アリスが手を振ってそれに答える。
「あの子はあんな感じなのよ」
ラリサが肩をすくめながら言う。
確かに面白い子だった。
「まあ、本題に戻りましょう。あなた、なかなか綺麗だから、私と友達になってあげても良いわよ」
「友達?」
まあ、良いか。ラリサはそこまで悪い子じゃないだろうし。
「良いよ」
「ダメ!」
するとアリスが断った。
「どうして?」
「だって、事あるごとに庶民とバカにするような子よ? リヴァちゃんには似合わない」
「あら、どこかの庶民で賢者の娘のくせして知性のない可愛くもない子よりも私の方が良いと思うのだけれども」
「私に喧嘩を売ってるの?」
「ええ」
何だろうか。
この二人はもしかして仲がよろしくないのだろうか。
「アリスにお願いしたけども、やっぱりだめだったみたいね。まあ分かり切ってたけども。実はラリサとアリスは仲が悪いんだ。三文字名前で真ん中が同じリだから」
気づいたらすぐ隣にナタリーがいた。
なんだその理由。
「それは関係あるの?」
「全然」
「そうだよね」
「それよりもあなたに仲介人をお願いしたいの。あたしじゃさらに怒らせるだけだし。ラリサはあんたのこと、まあそこまで悪く思っていないみたいだからね」
「分かった」
仲介人か。
なんて言えば良いのだろうか。
「これから騎士になるのだから、騎士らしく、子供っぽい喧嘩しないで」
えっと。
「なるほど騎士らしくですね」
するとラリサが何か妙案が思いついたと言わんばかりに。
「アリス、騎士らしく。決闘で戦いましょう」
「ええ」
アリスとラリサの決闘が決まった。
どういうこと?
キャラ紹介33
モブ ヴァレンティナ
年齢不詳の謎の女性。ヴァレと親しみを込めて呼ばれているが、あまり好きではないらしい。
騎士見習いのマナーなどを教える教官を務めている。人事部に近い部署に所属しているため、戦闘は不得意。
ある作品の影響を受けた結果、よく喋るキャラとなった。




