第1話 生まれ変わったらリヴァイアサン
暗い。
程よく寒い。
ここはどこだ?
どうして何も見えない。
どうして何も聞こえない。
参ったな。意味が分からない。
というか、腕と足が無い気がする。だって動かせないし。いや、そんなはずはない。きっとまだ頭が働いていないからだ。
よし、体を動かしてみよう。
グルンッ!
と動いた気がする。
何だか体が重い。というか動きがもっさりしている。
それに何だ?
この肌の感触。どこかで感じたような。
そうだ。
水だ。
風呂の中と同じ感触だ。
うん?水?
ちょっと待て。
俺は今、呼吸が出来ているよな?水の中なのに。頭をしっかりと入れているよな。
ちょっと意味が分かりませんね。人間は何時からエラ呼吸が出来るようになったんだ。
可笑しい。何かが可笑しい。可笑しいことが多すぎてむしろ可笑しくない気もしなくもないが、やっぱり可笑しい。
よし、今までのことを思い出して一旦状況理解しよう。
俺は30歳、社畜童貞。
毎日のように朝から深夜まで働き、時には休日も働き、稼ぐお金はこの歳で20万弱。もちろんナスはなく、昇給も数百円程度。
辞めれば良いと思い、何度も転職活動をしようと思ったが、仕事との両立が難しく、だからと言って辞めてからの転職活動は度胸がなく出来なかった。
そして気づけばこの歳になっていた。
今日も終電を逃し、家まで歩いて帰った。徒歩2時間。家に帰ったらすぐに風呂に入ったのを覚えている。
やけになって一人暮らしなのに風呂を沸かして。
頭の先まで風呂に浸かって。
そして。
記憶がない?
あれ?
俺はもしかして死んだのか?
ここは天国?
それとも地獄?
とにかく、何かをしてみよう。何かすれば分かるかもしれない。
体は動く。足と腕は動かせない。目は動かせる。口も動く。
そうだ。本当に水の中なら、口を開けば水が飲める。
そう思って、俺は口を開く。
ゴボゴボと水が口の中に入る。
ゴックン!
うん。まずい。塩味だ。
いや、まて。塩味?
塩味の水といったら、海水だよな?じゃあここは海の中なのか?
目が見えないのは深海だから。音がないのも同様。それなら寒いのも納得だ。
だったら、上を目指せば良いのか?
泳げるかな?
体をクネクネと動かしてみる。ちょっと体が長い気がする。でも気のせいだと思いたい。
少しずつ体が上に上がっているのが分かる。それと同時に少しずつ光が見えて来た。
水しぶきをあげながら、俺は海面の上へ飛び出した。体を海面へ叩きつけて、そのまま浮かび続ける。
でも、どうして?
体が人間のそれに感じない。
なんて思っていると、すぐ目の前に小さな船が見えた。
木でできた海賊が乗っていそうな船だ。本当に小さい。手のひらに乗りそうな。
俺が飛び出した時に生まれた波のせいでか、船が大きく揺れる。
小さな船の中には小さな人間が。小人のようだ。
その小人たちが大声をあげた。
「リヴァイアサンだ!」
「レヴィアタンだ!」
「逃げろ!逃げろ!」
船がゆっくりと俺から遠のいていく。
リヴァイアサン?
レヴィアタン?
どこかで聞いたことがある。
そうだ。俺がハマっていたソシャゲにそんなモンスターがいたな。水色のドラゴンみたいな。どちらかというと龍か。
うん?
小人たちは俺を見てリヴァイアサンと言ったよな。
俺は体を動かして、体の先をどうにかして目の先に出せないか試してみる。
すると体の先が海から出た。
水色の尻尾のようなもの。
それが海に落ちる。海面に当たる感触。
俺の体の一部で間違いないようだ。
俺はリヴァイアサンに生まれ変わったみたいだ。
もう1つの作品みたいに毎日投稿は難しいので気長にやりたいと思います。
次の投稿は明日を予定しています。