第11話 フルト君は貴族の子
ルドルフさんからお叱りを受けた。
理由は危険な戦い方だったため。使った魔法はお相手であるアレックさんにはあまり効かなかったが、他の子にはどうなっていたかわからない。もしかしたら、外れて。観戦していた他の男子あるいは女子に当たり、重傷を負わせていたかもしれない。
ただ。
「まあ、なんだ。中々驚いている」
「…………?」
「リヴァが強いことは知っているつもりだった。だが、予想以上だった」
ルドルフさんは俺の強さが意外だったらしく、褒めてくれた。
「クロエやアレットと同等の強さがあるかもしれない」
そこでルドルフさんの名前がないのはプライドだろうか?
「まあ、リヴァがどれだけ強かろうとも、今回のは褒められたものではないのは確かだ。本気を出すのは命の危機を感じた時だけにしろ。分かったな」
「はい、分かりました。すみませんでした」
そんな感じでルドルフさんのお叱りは終わった。
これは始まりに過ぎない。
というのも、ルドルフさんの俺へ対する評価が変わったのであれば、それは他の人も変わっている可能性が高いことになる。
この次は。
指導室を出た瞬間、アラン君がトコトコと近づいてきた。
「リヴァさん!」
「アラン君。どうしたの?」
「ルドルフさんのお話は終わったのですか?」
「うん、そうだけども」
「だったらリヴァさん、お話があります!」
「お話?」
どうしたのだろうか?
「リヴァさんの戦う姿を見て、僕は感動しました。あの戦う姿は綺麗で格好良かったです!」
「そう、ありがとう」
アラン君に褒められる。
そして無言の間。
「…………それで、話って」
「それだけです!」
それだけかい!
いや、まあ。よくよく考えなくてもアラン君ってまだ子供なんだよな。12歳にしてはむしろ褒めるべきほどしっかりしている。
思わず笑ってしまう。
「どうしたのですか?」
「よくよく考えたら、アラン君はまだ子供なんだなって」
「…………?」
アラン君は不思議そうに首を傾げた。
ふと、アラン君が来たのにアリスやリナが来ないことに疑問を感じた。アリスなら飛んで来そうなのに。
「そう言えば、アリスたちはどこ?」
「さっきまで僕といましたが、どこかに行ってしまいました」
アラン君がそう教えてくれる。
ふと、廊下の先を見る。
ぴょこっと出る赤毛の髪が見えた。
そう、それは隠れてるのに、まるで見つけてくださいと言わんばかりの光景だった。
「アリス、どうしたの?」
呼びかけて見るも、髪の毛が微妙に動くが出てくる様子がない。
するとリナがその隣から出て来て、こちらへ近づいて来た。
「リナ、アリスどうしたの?」
「アリスちゃんは、今少し変だから、会わない方がいいかも」
「変?」
俺とアラン君が顔を見合わせる。
「確かに、さっきも変だったかもしれません。熱を出したみたいに顔が真っ赤でした」
「…………病気?」
「ううん」
リナが首を横に降る。
「リヴァちゃんが格好良くて、恥ずかしがってるだけ」
恥ずかしがってる?
どうして?
俺にはいまいちよく分からなかった。
「アリスちゃんは、放置で、良いかも」
「そだね」
「ええ!」
すると遠くからそんなアリスの驚く声が聞こえた。
俺たちはその後、広場に出ることにした。
夕食までの自由時間、1分も無駄にはできない。
アリスは遠くからコソコソと近づいて来るだけ。本当によく分からないけども、さすがにアリスのために時間は無駄にできない。
夕食の時には元に戻っているだろう。
なんて思いながら、広場に出ると、広場に多くの男子がいた。
一人、二人、三人。合計で六人いる。つまり騎士見習い13人中、10人がここに集結しているのだ。
その男子たちは皆剣を振って、熱心に訓練してる。
いつもはこんなことはなかった。
「…………あ」
カー君が俺に気づくと、連鎖的にみんなに気づかれる。一斉に俺の方を見て来るのだ。
少し恥ずかしい。
「リヴァ、俺と勝負しろ」
そしてカー君がそんなことを提案してきた。
「待て。最初は俺から」
「違う、俺だ!」
「僕は後でいいや」
「あえてこの俺が」
「ダンは一番最後な!」
リー君、ノー君、ロン君、ダンの順。からの全員からの言葉にダンが渋々と後ろへ下がっていく。
何だこれ。何故、こんなにもモテモテになったんだ。
するとアラン君が隣に来て俺に耳打ちをして来た。
「リヴァさんの戦う姿に感銘を受けたみたいです」
俺へ対する評価が変わったのはルドルフさんだけではなく、騎士見習い全員かららしい。
あのアレットさんに剣を当てた俺へ男子たちは尊敬の念を持ったらしく、今に至る。
すごい変わりようだ。
勝負を挑まれ、俺は仕方なく戦うことにする。
広場の隅でアリスとリナが眺めるようにこちらを見て、アラン君も何故か列の順番に混ざる。
カー君、リー君、ノー君を適当にあしらい、ロン君には適当ながらそれっぽいことで丁寧に教えて、次に現れたのはフルト君だった。
フルト君と交流のなかった俺は少し意外だった。フルト君を説明すると、貴族の子だ。家は金持ちらしいが詳しくは知らない。
そんなフルト君は俺の前に現れて一言。
「リヴァさん」
「はい」
「大事な話がある」
「フルトを止めろ!」
フルト君の言葉に対して他の男子たち、アラン君を除いた五人がその言葉の続きが分かったらしく、止めに入る。
「僕の決意を邪魔をしないでくれ!」
それをフルト君が抵抗する。
しっかりと俺の目を見ながら。
「リヴァさん、僕はあなたの戦う姿に惚れてしまった。僕と付き合ってくれないだろうか?」
物凄い爆弾発言を投下した。
「それってつまり」
「僕と結婚を前提に付き合ってくれないだろうか!」
重いぞ!
フルト君、君はまだ15歳だろう。どうして、結婚前提でお付き合いを申し込むんだ。
いやまて。
今、俺は男子から告白されたことになる。
何故こんなことに。
「えっと、その」
断りたい。でも断ったら彼が可哀想だ。というか、その後の関係に大きく差し支えそうだ。
まだ友達と呼べないが、いつか友達になりたいと思っていた。
いやしかし、こうも考えられる。
まあ、フルト君もそれを覚悟しているはずだ。
だったら大丈夫なのではなかろうか。
「ごめんなさい。お断りします」
するとフルト君は地面に倒れこんだ。
「そんなバカな」
信じられない様子だ。
いや、この様子。断られることを考えていなかったみたいだ。仲良くもない女子にとりあえず告白すればいけると思ったら大間違いだぞ。
そして俺は体は女だが心は男だ。
振られたフルトから男子たちが御愁傷様と言わんばかりにゆっくりと離れて行く。
すると急に元気強くフルト君が立ち上がり。
「では、お友達からどうだろうか。そして数日後開催される、舞踏会に一緒に参加しないだろうか?」
「舞踏会?」
なにそれ初耳。
「嫌でも」
フルト君と一緒か、それは嫌だ。
行くなら可愛い彼女と行きたい。
「フルト、抜け駆けはダメだろ!」
「そうだ、そうだ!」
そんな男子からの言葉を無視して、フルトが続ける。
「その日は訓練は特別に休みだ。どうだろうか。予定がないなら」
俺はふとアラン君の方を見る。
フルト君はいくら断ってもしつこそうだ。だから具体的な理由が欲しい。
俺はアラン君に視線を送る。
「その日はアラン君と一緒に舞踏会に行くから」
「え?」
男子一同の驚きの声が聞こえた。
キャラ紹介15
モブ フルト・ヴォルコフ
15歳少年。貴族の子。騎士の称号のために騎士見習いになった。
他の男子と比べると貴族だからか、アラン君やロン君よりでしっかりしている方。
俗にいう厨二病に近い病を発症しており、貴族という家柄もあり自分が主人公ではないかと勘違いし、世の中自分の思い通りになると考え、告白に至る。
ある意味かませキャラ。