第8話 ダンと仲直りがしたい
休日の次の日。
眩しい光とブーの鳴き声で目が覚める。
服を着替え、朝食を食べ、歯を磨き、ブーを預け、勉強と訓練に励む毎日が始まる。
日本でいう学校となんら変わらないのに、どうして憂鬱じゃないのか。初めは楽しくないと思っていた講義も少しずつ好きになってきている。
でも、やはりまだ残る問題が楽しい生活を邪魔する。
まだ男子たちと仲が良くない点だ。
昨日ダリアさんに言われた。
リヴァさんとの出会いは運命だと私は思っています、と。
俺も皆んなとの出会いは運命だと思いたい。
だから、この問題に本格的に乗り出していこうと思った。
「というわけで何か案はない?」
昼の休み時間。
広場の木陰で何時ものメンバー、アリス、リナ、アラン君の三人に聞いた。
するとアリスが不思議そうな表情をして。
「別に仲良くする必要はないと思うけども」
「アリスちゃんはそうでも、私たちは、違うから」
「僕も改善するべきだと思います」
アリスの意見は一瞬にして二人に反対される。
するとアリスは唇を尖らせる。
それに気づかないアラン君が提案をしてきた。
「まず、ダンと仲直りしたらどうでしょう。ダンがリヴァさんを怖がっているから、他の男も怖がるのだと僕は思います」
確かにその通りだ。
「いい考えね。流石アラン君」
そう言って、俺はアラン君の頭を撫でてあげることにした。
「な、にをして、リヴァちゃん!」
「何って褒める時は頭を撫でるものでしょう?」
アラン君の頭を撫でると、少しずつアラン君の表情が赤くなっていく。
うむ。アラン君も可愛い気がしてきた。
この年齢なら我が儘で生意気なものなのに。アラン君は素直で心優しいから。他の男の頭は撫でたくないが、この子は撫でてもいいやと思ってしまう。
「だからと言って、して良いわけじゃない!それにまず私から!」
「そうです。僕はもう大人です。子供扱いしないでください」
「アラン君、リヴァちゃんの頭ナデナデを拒否するなんて。もう怒った。私はすごく怒りました!」
アリスが立ち上がろうとして、リナに裾を引っ張られて座らされる。
「アリスちゃんは、何か、褒められるようなこと、した?」
「じゃあ、今からダンを連れてきます!そしたらご褒美ください!」
そう言ってアリスはダンの元へ走って言った。
しばらくして、アリスが泣きながら戻ってきた。
何も発展することなく、午後の実技訓練が始まる。
実技訓練は主に一対一で戦うものである。藁を固めた細長い棒を剣で斬ったり、ただ剣をふることもあるが、何より実践形式が最も力がつくがルドルフさんの考えだ。
俺はこの訓練方法でふと名案を思いつく。
「ではペアを作ってくれ」
ぼっちにはつらい言葉。
「リヴァちゃん、一緒にやろう?」
アリスが毎度のように俺の元へやってくる。リナはアラン君とペアを組むことが多い。
俺はアリスに向けて手を合わせて。
「ごめん、今日は別の人とする」
「別の人?」
そう言って、アリスの誘いを断って、俺はダンの元へ歩み寄った。
ダンは俺に気付いた瞬間、怯えたように体を身震いさせた。ダンの隣にロン君がいる。どうも、ダンは既にロン君とペアを組んでいるみたいだ。
そんなダンに俺は頭を下げる。
「ダン君、私とペアを組みませんか?」
その誘いにダン含むみんなが驚いたように声をあげた。
「いや、俺はすでにロンと」
「ロン君はアリスと組めば良い」
「いや、だが」
「ロン君、良いでしょ?」
「もちろんです」
ロン君14歳。どこかアラン君と似ている。心優しく俺にダンとのペア券を譲ってくれた。
それにさらに心を乱して。
「俺をさらにいじめるつもりか」
ダンの言葉。それに優しく語りかけるように。
「そういうつもりじゃないよ」
俺は笑顔を作った。
俺が考えた名案。
それはみんなの前でダンに負けることだ。
負ければ良い。負ければダンみたいな男、すぐに調子にのる。
上書き作戦と名付けよう!
そんな作戦が始まった実技訓練。
誰も始めようとしない。皆が俺とダンに集中している。
それはダンも同様で、ダンは動こうとしない。剣先を地面に向けてただ立っているだけだ。
俺はそんなダンに向けて模擬剣を振り上げて、遅く振り下ろす。
それを避けようとしないダンの頭にボスッと当たる。
全然ダメだ。戦う意思がない。
「ダン!真面目にやれ!」
ルドルフさんの言葉で少しだけ戦う意思が現れたのか、俺の模擬剣を弾き返す。
そして俺に向けて剣を振ろうとして。
「ああ!くそ!」
ダンの動きが止まる。
ダンに対して、一方的に暴力を振るい続けたわけではない。そう軽くあしらう程度だった。怒りを覚えても、プライドが粉砕されてもここまでなるだろうか?
これはあまりにも異常だ。
それにダン自身も気づいている。
そしてそれはダンに原因があるわけではない。
あるとしたら俺の方。
「もしかしたら」
俺がこの世界に来て、人の姿になり、力を使った相手はオーガだったりオークだった。副隊長とも戦ったが、その時は心と力を制御していた。
しかしダンは違う。
俺は少なからずダンを倒そうとした。それは剣を当てるだけの試験とは違う。
その時、無意識に俺は心を出したのだ。
蛇に睨まれたカエルのように。
俺はリヴァイアサンという最強の種のささやかな力の片鱗をダンに向けて、そしてダンに死という恐怖を与えたのだ。
「そういうことか」
原因解明。
あとはその原因の解決策を考えて。
ふと考えてみる。
どうやって?
あれ、無理じゃないか?
一度与えた恐怖を簡単に除去できたら、世の中トラウマとか鬱で悩む人なんかいなくなりますよ。
これはダン自身の力で解決しないといけない。
上書き作戦では取り扱えない。
「ダン君」
だから心の奥に囁きかける。
「どうして怖いか一度考えてみて」
模擬剣を放り投げて、俺は無害を示す。
「私のどこが怖い?」
「分からないんだ」
「分からないんじゃない。考えるの。考えて分かろうとするの。そうしないと君は騎士になんかなれっこない」
ダンが口を閉じる。
「怖いものなんか世界に沢山ある。それを一つずつ克服して行った時子供は初めて大人になれる。君も克服を何度もして来たでしょ?さあ、考えてみて。君が怖いと思うものと、私。どっちが怖い?」
そして俺はダンに笑顔を向けて。
「ね、怖くないでしょ?」
ダンが小さく頷く。
「きっとダン君が感じた恐怖は別の何かなのよ」
「別の何か?」
「そう。私の背後に幽霊でもいたんだよ」
「幽霊って何だ?」
「見えない何かがダン君に圧力を与えていたのよ」
危ない。危ない。幽霊という言葉はないので。覚えておきましょ。
「見えない何か?」
「そう考えないという、納得できないでしょ?」
刷り込み。
さも恐怖を与えたのが俺以外と思わせて、恐怖の対象をその何かに向けさせる。それに恐怖は抱き続けるだろうが、俺への恐怖が無くなればそれで良い。
上書き作戦改め。
いや、上書き作戦でいいな。
上書き作戦改と名付けよう!
「そうだな」
ダンが頷く。
「そうだ。俺がお前に恐怖を抱く理由なんかないんだ」
よし良いぞ!
ダンが少しずつ調子に乗り始める。
その意気だ!ガンバレ!
そして。
「行くぞ!」
ダンが俺に剣先を向けて、振りかざす。
プルプルと模擬剣が震える。
「やっぱ、無理だ」
まあ、そう簡単に刷り込みも出来ないよね。
ダンとの仲直りは当分続きそうだ。
ただ、このダンへ行った行為が良かったのか、他の男子から俺への視線が変わった。
少しだが、男子たちと会話が出来た。
それと同じ回数アリスの頰が膨れる。
訓練が終わり、夕食が終わった後のこと。女子寮へ向かうまでの道のりでのこと。
「むむむ」
アリスが不満そうに唇を尖らせた。
「むむむ?」
「リヴァちゃん!今日の私は大変気分がブルーです!今日は一緒にお風呂に入りましょう!そして、夜は優しく抱きしめてください!」
「アリスちゃん?」
「止めないで、リナちゃん!これは私とリヴァちゃんの問題だから」
「部屋から、縄を…………」
「と思ったけども、誓約書に違反するのは良くないね。うん」
「…………取って来ようと、思ったけども、大丈夫かな?」
ちなみにだが、誓約書で俺とアリスが同じ時間帯に風呂に入ることが許されていない。
そんな二人に俺は笑いを浮かべた。
「そうだ。リヴァちゃん、知ってる?」
「うん?」
リナが聞いてくる。
「明日、アレックさんが、ここに来る」
「アレックさん?アレットさんじゃなくて?」
「名前は似てる、けども。違う人」
「ああ、あの男ね」
アレックという人物にアリスが反応を見せる。
「誰?」
「騎士隊長の一人。アレットさんの、血の繋がらない兄」
「騎士隊長?それにアレットさんの兄さん?どうしてそんな人が来るの?」
「明日は、月に一度。騎士隊長自ら、訓練を教えてくれる日、だから」
そんな日があるのか。
リナが続ける。
「だから、明日は少しだけ、騒がしくなるかも」
リナの言葉に俺は明日が楽しみになる。
騎士隊長、どんな男なのだろうか。
少なくともこの時は思いもしなかった。
後にアレックと戦うことになると。
キャラ紹介12
モブ ダン
14歳。まだ14歳。作者の脳内では30歳のおっさんとして描かれているが、まだ子供です。
噛ませキャラとして生まれた。作者個人として好きなキャラだったりする。
性格は強欲で傲慢。主人公を除いて騎士見習いの中で一度強い。ちなみに二番めはアリスだったりする。
何故強欲で傲慢な性格のダンが騎士見習い面接を通ったのか、七不思議の一つだったりそうでなかったり。