盗賊
それから暫く酒場でひとしきりサラと話し終わると
『そろそろ出ましょうか?』
と短く答え僕達は酒場を後にした
日はもう既に傾いていて、
辺りは薄っすらと暗くなり
暮れはじめていた
酒場を出て僕は
『これからどうするの?』
と聞くとサラは数秒考えてから
『先ずは、
服や装備を買いに行きましょう
その格好は目立つから…』
と言われ僕は自分の服装を見る
このセカイの服と僕のセカイの服では
材質は同じだが圧倒的に違ったのは
服のデザインだった
このセカイでは無地で
単色なのに対して、僕の服は複数の色に
ヒョウ柄で文字も使われている
これじゃあ目立つなって言う方が無理だ……
『そうだね…でも…』
と僕はしどろもどろになる
僕は人と話すのは得意じゃないし……
ましてや人にお願いするのなんて尚更だ
そんな僕に見かねたのかサラは
『言いたい事があるならはっきり
言ってくれないかしら?』
と怪訝そうな顔で
僕に言ってくるから驚いた
彼女……サラはこんな顔も出来るんだと
サラは此処まで僕に対してほとんど無表情且つ
素っ気ない態度しか見せていなかったから
慌てて僕は『ごめん…』と謝る
そして彼女にお願いをしようとした時だ
『キャアッ‼︎』
と女性の悲鳴が聞こえたんだ
声のする方に振り向くと僕と同い年位の男が
『俺は、此処らを牛耳る盗賊
シーフの頭……トウタだっ‼︎
動くんじゃねぇーッ……動いたらァ、
この女の首を跳ねるぞッッ‼︎‼︎』
とトウタは右手に持っている小刀を
女性の首元に這わせた
1人の老人が
『儂の孫を返しておくれぇっ‼︎‼︎』と叫んだ
するとトウタは、
『あぁ、分かった』とあっさりと返した
そしてトウタは、その場にいる全員主に女性を
値踏みするかのように見てサラを指差した
『おいお前……俺の方に来い』
とトウタは言うが
『嫌よ』とサラは否定する
『オイオイ……状況分かってんのか?』
トウタはニヤニヤ顏で聞いてくる
『えぇ……分かってるわよ…
このユーサスが囲まれてるって事はね』
サラは表情も変えずに告げる
『え?』
僕は慌てて周りを見た……
茂みの中に数人……
いや数十人 人影が確認出来た
『へぇ〜』と
トウタはサラを興味深そうに見る
そして…
『面白れぇ……
おいお前ら 出てこいッ‼︎』
トウタの合図と一緒に
『応ッ!』
とトウタの手下が茂みから出て来た
サラは呆れたように
『何のつもりかしら?』
とトウタに尋ねる
するとトウタは
高らかに笑いながら
『お前が、欲しいからだよォ』
サラは目を伏せて
『生憎……私に盗賊の男なんて趣味にないわ…』
と興味なさげに言う
『あぁ…でもヨォ
、
今のこの状況何を
選択するのが正解かァ……ワカルヨナァ?』
とトウタは下品な笑い顔でサラに聞いた
トウタはこう言いたかったんだ……
お前が俺の元に来なければこの村の人々を殺すと
サラは強い……だが村の人々全員を
庇って闘えるか……それは限りなくゼロに近いだろう
サラは躊躇っていた
多分、安易に否定出来ないからだろう
もし否定をすれば村の人々に危害が及ぶから
サラは『…ふぅ』と溜息をついて
トウタに歩みを進めようとした瞬間
『待って‼︎』
と声をあげながら前に出た
サラは僕の事を驚いた顔で見つめていた……
いや、その場にいる全員が驚いた事だろう
だって僕ですら驚いていたんだから
(ちょっと……待って…どうするんだよ
俺えええェェッッーーー〜〜〜ッッッ!‼︎‼︎⁇!⁇?!)