魔術師 1
「おい起きろ!! 何をやっている!!」
突如耳元で鳴り響く怒声。感情が昂りきったソレが鼓膜を突き抜ける勢いで反響する。
「その格好……外人か。……死にたくなければとっとと失せろ。
ここはもう駄目だ。あと一時間もすればこの倍の数のべスティアの群れが来る。他に仲間がいるのなら、そいつらも連れてさっさと逃げろ」
アウター? べスティア?
訳のわからない事を言っている中年の男性は、テレビの中で見た警察の特殊部隊のような格好をしている。
全身黒で固められた生地の厚い服。軍用靴に黒いヘルメット。二メートル半はある長大な大砲を片手で軽々と取り回している。……って大砲?
「うわあぁぁぁ!!」
「来るなっ、来るなぁぁぁぁ!!」
「やめろ……やめろやめろやめろ……やめて下さいぃ!!」
悲鳴。哀願。怨嗟。
目の前の奇妙な出で立ちの男の事も忘れ周囲を見渡す。
――地獄だった。
眠る前と同じ、黒い生物たちが織り成す地獄が、この地に開演されていた。
「な、何だよコレ…………いったい何なんだよ!!」
「べスティアに決まってるだろうがっ! さっさと行け! 運が良ければまだ抜けられる!!」
男は大砲を構えなおし、一番接近していた芋虫のような怪物に向けて放つ。
四メートルはあろう巨体が爆散し、内臓の一部と緑色の体液が服や髪、顔に付着する。
「あ、ああ、ああああ…………」
「行けっ、早くっ!!」
腰が抜ける。
生まれて初めて見る殺戮に――
生まれて初めて味わう、抗いようのない絶望に――
心が折れる。膝が震える。呼吸が止まる。
死……
死死死死死死死死死死死…………
圧倒的なまでの『死』が、死への恐怖が、体を支配する。
「いい加減にしろよ」
パァーーン。
痛みが走り、頬が熱を持つ。
男が自分の頬を張ったのだと気づいた時には、既に胸倉を掴まれていた。
「お前はなんだ? 亡霊か? 違うだろっ! 生きてるんだろうがっ!!
生きてるなら生き抜け。全力を以て生存の努力をしろ。戦う術を持たないなら、せめて生き抜くことで……このクソッタレな運命に抗ってみせろ!!」
言い終わると同時に、男は突き放すように胸倉を放した。
放っていた大砲を掴み直し、再び怪物へ砲口を向ける。
「走れッ!!」
「……っ」
走った。
行先はない。ここがどこなのかも分からない。
それでも走った。
ただ生きるために。
抗うなんて大層な理由じゃなく、ただ死への恐怖から逃れるために走り続けた。
「はあ、はあっ、はあっ……」
大地を踏みしめるたび、血を踏むようなぬめった音がする。
ピチャリ、ピチャリ……
どこにいっても誰かが、何かが、血を流していた。
それは赤だったり、緑だったりしたけれど、それでも明らかに生き物の流す血液だった。
「ぐあぁぁぁ!!」
また悲鳴が空に響く。
――死体が一つ。
足が止まる。
――死体が二つ。
この眼に映るは絶望ばかりで、ただ一筋の光さえも通さない。
――死体が三つ。
「■■■■~!!」
逃げられない。
そう。この地獄から出る術はない。
眼前に立ち塞がる、先程よりも巨大な黒い怪物。15メートルはあろう蛇のようなソレは、胴体を波打たせながらこちらの行く手を阻んでいるように見える。
目があるのかどうかはわからない。
しかし顔らしき部分が僕という獲物に向いたかと思うと、その巨大な蛇は大きく咆哮した。
逃げることに意味はない。
この巨体から逃げたとしても、自分などすぐに追いつかれ、押しつぶされてしまうだろう。
既に膝は着いた。
再び立ち上がるだけの気力は残っていない。
諦め……などという潔い感情はない。
あるのは僅かな生への執着心と、どうにもならないという絶望感だけ。
涙を流しながら頭を垂れ、十数年の人生を……そのあっけない終幕を呪った。
『走れっ!!』
……っ
『このクソッタレな運命に抗ってみせろ!!』
……自分を逃がしてくれた男の声が蘇る。
そうだ。
まだ屈せない。僕は生きている。生きているなら生き抜かなきゃならない。
身を呈してまで僕を逃がしてくれたあの人の想いを無駄にしない為にも……
命尽きるまで、走り続けなくちゃならない。
「うああぁぁぁぁぁあ!!」
叫びながら、膝をついた体に喝を入れる。
雄叫びを上げ、折れた心を叩き直す。
「■■■■~!」
巨体に似合わぬ猛スピードでこちらに向かってくる黒い蛇。
躱すことはできない。
人間の反応速度と運動スピードでは、限界まで力を引っ張り出そうと逃れることは敵わない。
それでもいい。
それでも……たとえこの一瞬、寿命が延びただけだとしても……それでも僕は生き抜いてやる。
「僕は……」
この命、続く限り――
「僕はまだ、生きているっ!!」
拳を振り上げる。
避けることも逃げることもできない。
ならいっそ逃げずに立ち向かってやろう。
立ち向かって、抗って、この理不尽を越えてやろう。
敵わなくても、せめて最後まで……人間として抗ってやる!!
「うおォォォォオオ!!」
拳が触れれば質量の差で粉々に砕け、腕はもう二度と使い物にならなくなるほどズタズタに壊れるだろう。
それでも打った。迷いはなかった。
僕はこの瞬間、僕という魂と生き方を守る為に戦っていたのだから。
逃げるのではなく、戦っていたのだから。
接触までコンマ二秒
1、0
………………パァン
皮膚が破け、骨が砕け、神経が千切れる
――その光景を幻視した瞬間――
まるで水泡のように、蛇の頭は弾け飛んだ。
何の感触もなく、まさしく泡のように……弾け飛んだ。
「え?」
何だ?
一体、何が起こったんだ?
「あ、れ……?」
理由は分からないが目前の脅威は既に消えている。
僕の体に外傷は無く、痛みも無い。
なのに何故だろう?
足に力が入らず、意識が明滅する。
酷い疲れと倦怠感が、体力を一気に奪ってゆく。
「まだ……っ」
こんなところで眠れない。倒れちゃいけない。
「こんな所で、僕は……っ」
進め、進め。
まだ生きている。生き続けている。
言い聞かせながら這う這うの体で離脱を試みる。だが――
「くそぉ」
それでも、
いつの間にか、電池が切れるように、僕の意識は絶えてしまった。
*****
「何人生きてる?」
「14人。タクが殺られて、護衛対象も8割自爆。残りも食われちまったよ」
隊長が咥えた煙草に火を着けながら尋ね、副隊長が気怠そうに報告する。
ここは地獄だ。人が死ぬのも仲間が死ぬのも日常茶飯事。一切の救いなく、僅かばかりの希望もない無明の闇。
その中を平然と闊歩するこの二人は、まるで業火の中心を住処とする悪魔のようだった。
「やってらんねぇ。何が新兵器だよクソがっ!」
「……イサナ」
「こんな不良品のためにタクは……タクはっ!!」
隊の中でも比較的若い男が、悲痛な声をあげる。
イサナと呼ばれた彼は僕の同期だ。そして今回、護衛対象を庇ってべスティアに食われたタクは、彼の幼い頃からの親友だったと聞いている。
「落ち着け、ガキ」
「落ち着けるわけないじゃないですか! こんな……こんなガラクタのために原典魔術書の適合者が死んだんですよ!
あんな生きる価値もない無駄飯喰らいの為に――」
「おーい彰人。このアホガキを落ち着かせろ」
「うぃーす。了~解」
言われるがままに念じ、魔術書を顕現させる。
深い紫色をした、20センチ程の本。古びた紋様が表面にあしらわれているが、瑕はおろか手垢一つ付いていない。
これが太古……今より四千年以上前に造られたものだというのだから、全く世界は果てしない。
「エ・シャルテ」
古き言葉を紡ぎ、魔を熾す。
淫欲と誘惑の魔術書、“サキュバス”。精神干渉に長けたこの魔術書は、仙人のような僧侶を瞬く間に俗物へと堕とすこともできれば、石のような冷徹な女を立ち所に燃え上がらせることもできる。
「沈静」
また逆もしかり。
燃え滾るような怒りや劣情を、冷や水を浴びせるが如く鎮めることも簡単だ。
魔術の発動条件は人それぞれだが、僕は『沈静』のような非戦闘系魔術は全て音声をキーにしている。
上級の一部や特級の魔術師は、全ての魔術を思考のみで発動できるらしいが、流石にそんな化け物じみた集中力は僕にはない。
「あ……」
「落ち着いたか?」
「すいません……俺……」
「親友が死んだんだ。気持ちはわからんでもない。
だが、そういった発言をおおっぴらにするのは感心しないな。
今は政治的にも危うい時期だ。言動には注意しろ」
かつて、人類は自らを万物の霊長と称する程、繁栄の極みにあった。
その数は万を優に超え、60、70億と増え続け、ありとあらゆる生物を捕食し、研究し、殺戮し、やがてこの星を支配していたと言っても過言ではない種となった。
だが、その栄華も今や昔の話。
人類は自らの力に驕り、理の外にある生物を侮った。
古代遺跡より突如として現れた異形の怪物……“ベスティア”。
様々な特性と圧倒的な巨躯。通常兵器は元より細菌兵器、核兵器すら通さない頑強な躰。そして何より、爆発的な繁殖力を持つ彼らの前に、人類は滅亡寸前まで追い込まれている。
目的は不明。
対話も不可能。
現状わかっているのは、奴等が有機物、無機物を問わない究極の雑食生物であること。そして好物がどうやら人間であるということだ。
奴等に対抗する方法はただ一つ。
古代、科学ではなく神秘によって繁栄をもたらした“魔法”による攻撃だ。
ベスティアと同じく古代遺跡より発掘された、108の魔術書。魔術書と適合することで得られる神秘の力……“魔力”。
この魔力を用いた攻撃手段を魔術、もしくは魔法と呼び、現代兵器を一つとして徹さないベスティアに、唯一ダメージを与えられる方法だった。
魔術書への適合と言っても、誰にでも適うわけではない。
驚いたことにこの本……グリモアやグリモワールと呼ばれる魔術書には、それぞれ意思があり、個性があるのだ。
怒りや炎を司る魔術書は相応に気性が激しく、冷徹や氷を司るような魔術書は、やはりどこか寒々しい。
彼ら108冊に気に入られるような性質、あるいは似通った感性を持つ者。そんな人間だけが、人類救済の剣……“魔術師”の名を与えられる。
「しっかしどうします、コレ?」
「ゴミは放っておいて構わんだろう。問題はタクの魔術書だ。あれは特注品だからな……失くしたなんて言ってみろ。全員“城”から放逐されるぞ」
「えぇー、どうするんスか。アレ、完全に“蛇”が持ってっちゃいましたよ?」
ベスティアには様々な形態がある。
奴等はその稀有な雑食性もあってか、繁殖力と同様に成長力も著しく高い。まるで地球の生物の歴史を早回しで見ているかのように進化し、姿を変えてゆく。
全ての基であり、幼生体である“ワーム”
そこから進化を遂げた、昆虫のような姿の“インセクト”。
インセクトより体躯こそ小さくなるが、圧倒的に戦闘能力を増す“ビースト”
数千体のビーストの中から、極稀に進化するとされている“ドラゴン”
人間と似通った姿を持つ超危険種、“ヒューマン”
主な観測例はこんな所だ。
一体で三つの城を消滅させたと噂される“アンジェ”なんてベスティアもいるらしいが、目撃証言があまりにも少なく、今では都市伝説のように言われている。
蛇はビーストの一種で、全長30メートル程の、それこそ蛇のような長い体躯を持ったベスティアだ。
タクは今回の任務中、偽魔術書の試験運用者を蛇から庇って、上半身を食い千切られた。
「クソッ! あの役立たず共が、無駄にビビッて乱射したりしなけりゃ!!」
「おーい落ち着けー。また“沈静”喰らわせるぞー」
「っるせえ! いっつもヘラヘラしやがって……この際言わせてもらうがな、ずっと気に入らなかったんだよ! 天級の弟だがなんだか知らねぇが――」
「エ・シャルテ」
「…………ぉ」
問答無用で落ち着かせるというのはベスティア相手には意味がないが、こと対人戦においては中々に重宝する。
リラックスといえば聞こえは良いが、要は気勢を削ぐ魔術だ。敵意は消えずとも、手を出そうという気力は萎えてくる。
血の気の多い軍内部では、この魔術に助けられることも一度や二度ではない。
「ま、探すしかねぇだろ」
「といってもここは既に危険地帯だ。……制限時間は一時間。彰人と俺の感知魔術をフルレンジで使用して捜索する。残りは俺たちの護衛をしつつ、各人最大の探査能力で蛇を探せ」
「「「了解!!」」」
うっげぇー。マインドサーチをフルレンジとか……冗談だろ。
「一応やりますが、対象が死んでいた場合、僕の魔術は効果ありませんよ?」
「構わん。そっちは俺がやる」
おおう。流石我等が副隊長様。
頼りになるうぅ。
「始めるぞ」
そう言って彼は茶色の魔術書を顕現させる。
「模倣16番、駆動」
今確認されている魔術書は108冊。しかしベスティアに対抗できる武器がそれしかないのかと問われれば、その答えは否だ。
16番目のグリモア、【サイクロプス】を解析し、再現させた模造品。
原典の機能を制限し、必要な魔術だけを抽出し、適合の条件をより一般的に下げた、量産を目標とした劣化版。
それが人類のもう一つの武器、模倣魔術書。
「イ・ドゥナ・ハリ・マサラ」
紡ぐは古代語。放たれるのは見透す魔眼。
“千里眼”の魔術。
今の彼には周囲2キロの全てが見えている。
地中だろうと空中だろうと関係ない。
障害を抜け、光の屈折を透し、あらゆる角度から観測、観察する絶対の視界。
劣化版と侮ることなかれ。たかがコピーと驕ることなかれ。
それは確かにオリジナルよりスペックの面で劣っているかもしれないが、使い手次第では真を凌駕することさえある、現代技術の粋を結集して創り上げた模造魔術品だ。
「エシャリ・バル・マサラ」
まあ、それはともかく。
僕もそろそろやりますか。
「精神感知」
副隊長のような視覚情報はない。
副隊長ほどの射程もない。
この魔術でわかるのは、半径500メートル以内の生物だけだ。
虫にも、草にも、生物にはそれぞれ精神がある。
人のソレとは全く異なる在り方だが、凡そ生きていると呼ばれるモノは、それぞれの形と命に対して意識に似た何かしらを持っているものだ。
これらの性質を感知し、生物の種類を鑑定し、その数と表層的な精神状態を把握する。
それがこの魔術の特性だ。
……と、アレ?
「よし。お前はそのまま移動しつつ蛇を探せ。俺はーー」
「あー、副隊長」
「何だ?」
そうだよなー。
あたり一面死体だらけのここじゃ、視覚だけの副隊長は気づかないよなぁ。
「まさか、もう蛇を見つけたのか」
「いや、蛇じゃないんスけど……」
―― 生きてる人間が、一人倒れてます。
*****
「……こんな服で外を出歩いてるとは、何ともまぁ」
「おそらく先の戦闘で巻き込まれた外人だろう。……しかし本当に居たんだな。“城”の外で生きている人間が」
今更だが、今回僕らに与えられた任務は新兵器の運用テストとその試験的使用者の護衛だった。
配属された新兵器のコンセプトは量産と汎用性。
魔術書にも模倣魔術書にも適合できない非戦闘員にも扱える……文字通り誰でも戦い、身を守れるようになる低コストウエポン。
偽魔術書
模倣ですらない偽造品。
黒い大砲のような形をしたソレは、魔術書の“適合”段階に至るまでを研究して得た、魔力覚醒のメカニズムを強制的に使用者に踏襲させるという、未だ未知な部分の多い、危険な兵器だった。
まあ、僕らも最初は甘く見ていた。
デミ計画自体は何年も前から存在するプランであるし、唯一の成功例である偽魔術書αは常人より少し強い肉体を与えるだけの、ベスティアと戦うには不十分な効力しか発揮しなかったからだ。
そしてそのα以来、この計画はずっと失敗続き。
この実験も成功なんて微塵も期待していなかった。
しかし、
そんな予想を上回り、開発から六番目の偽魔術書……“Ζ”の起動は成功。
多少苦痛を訴える者もいたが、被験者は全員魔力を発現し、その場は一気にお祝いムードに包まれた。
「起動までは良かったんだがなー」
「ああ。威力は不十分だったが、これまでの物と比べれば明らかなグレードアップだった」
そう、そこまでは良かった。
「…………あれで自爆さえなけりゃ」
だが機械的不備か、設計上の問題か、はたまたよく分からないものを使おうとした人間に対する天罰か。
偽魔術書Ζは、使用と同時に半数以上が爆散した。
「精神状態もあったのだろう。比較的冷静だったものは自爆していなかったように思える」
「そうか? 俺にはどいつも変わらなく見えたが」
原因はわからない。いつものことだ。
魔導なんてものは結局のところ良く分からないの一言に尽きる。それを無理やり行使しているのだから、バグだらけになってしかるべきだ。
だから、ここまでは皆落ち着いていた。これが後に致命的なトラブルになるとも知らずに……
仕方なく撤収作業に移った頃、持っている端末からアラートが鳴り響いた。
備え付きのレーダーで確認すると中型のべスティア、およそ1200体が実験場に近づいてきている。
大仰に聞こえるかもしれないが、正直大したことのない数だ。護衛として配属された15人で十分以上に蹴散らせる。
蹴散らせる……筈だった。
忘れていたのだ。人間というモノの弱さを。
肉体のみならず、その精神の脆弱性を……
この新兵器運用テストは非戦闘員……つまり民間人を戦力にする為の実験だ。武器を持つのは彼らであり、その引鉄も当然彼らが握っている。
その多くがベスティアなどろくに見たことのない被験者たちは、初めて目の当たりにする異形の姿と見た目の数に怖れを抱き、恐慌し、許可が出る前にその武器を……偽魔術書のトリガーを引いた。
正常に機能したのは24丁。
残り56丁は持ち主の魔力を吸えるだけ吸い尽くして爆散した。
散ってゆく仲間。
眼前の怪物。
そして腕にあるのは自爆装置じみた武器。
戦いを知らなかった彼らが恐れに屈するのは、想像に難くない。
味方に散々暴走されて、戦場は大混乱。僕らの部隊は分断され、仲間を一人失った。
まあ、何が言いたいのかっていうと――
「コイツ、何で生きてる?」
この乱戦極まる戦場で、魔術士でもない一般人が生き残るなんてあり得ない。
「放っておこう。連れて行くことは出来ないし、時間もあまり無い。
可哀想だが――」
「あー、いや」
うーん。
何度確認しても反応は二つ。二人の精神がこの身体にはある。
「多分、コイツ連れて帰ったら、回収完了ってことになるんじゃないっスか?」
「お前……それは、まさか――」
挙句、一つはよく覚えのあるもので。というかつい先日まで隣にあった反応で。
……まったく、主が死んで日も浅いってのに、気の多いグリモアだよ。
「この男、適合してます」