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孤影悄然のフレイムタン  作者: 海岸キメラ
1/2

■プロローグ

わかり合えたら。


簡単にわかり合えたらどれだけ幸せなのだろう……。


例えば人は本当は透明な手をもう一本持っていて、それは人の心を直接触れられて。


胸の奥にある暖かく柔らかい球体のようなものに。


それに触れると同時に手の中を湯水のような、何色かはわからない。


手から腕を一瞬のうちに駆け巡って俺の胸の中を一気に満たす。


すると脊髄を通って電気信号に変わって脳に、まるで実体験の様に再生されるような、自分の記憶のような大切でちゃんとした感じで


「ああ、こういう心をもっているんだ」


「こういう気持ちでこういう言葉を選んで、本当はこういうことを言いたいんだって」


言葉の使い方が上手だったら……。


それとも身振り手振り?ノンバーバルコミュニケーションっていうんだっけ?


そういうのが大切で本当はみんな色々な事をいっぱい上手に伝えられて……。


言葉やそれに連なる行動にもっと表現力があって、心が、心の奥底や想いが……、もっと具体的に表現される。


そんな事が本当に可能ならどれほど幸せなのだろうか……。



■□■



舌が熱い。俺の舌が焼けている。


息を吸い込んだ時はなんとも無いが吐くと空気が焼けているのがわかる。


火の着いた紙に息を吹きかけると紙がみるみるうちに灰に変わるように俺の吐いた息がただの空気を陽炎を纏う熱風に変えていく。熱い。


涙が零れる。


熱いからじゃない。痛いからじゃない。


「ダ……、メ……、だ……」


もし俺の心が形あるものならば今はタールだ。真っ黒くドロドロしてて悪影響で臭い。そして良く燃える。


体の中にあるのだから血も混じっているだろう。真っ黒なタールと混じって深赤色を作っているだろうか。黒と赤でマーブル模様を作っているかもしれない。


しょうがない。目の前の男が憎い。憎くて堪らない。どうしようもない。


「に……、げ……、ろ……」


舌が熱い。


だが慣れてきた。


普段は家に帰れば寝るか友人とネットゲームをしながら寝落ちする俺だが、今はすこぶる調子がいい。


目にもやる気というか火が灯っている。


そろそろしゃべれなくなるころだ。


いつもそうだし、多分これからもそうだ。


男の足元に転がる半裸の女の子も俺と一緒で涙を零している。その涙が俺のための涙だったら俺はどれだけ幸せなのだろうか。


俺の目の前で女の子を襲う方が悪いんだ!


「イ……、ヤ……、……」


言葉はもう要らないと言えたら格好がつくだろうか。


俺の周りに黒い粒子が霧を作る。


黒い霧は濃くなり煙に姿を変える。


宙を舞う黒い煙は辺りの壁を黒く染める。


集まり重くなり過ぎた黒い粒子は地面に落ちる。ポツポツと雨の降り始めの様に。


これは俺の心の灰らしい。あっという間に路地裏と俺を真っ黒く染める。


地中の砂鉄の全てが地表に溢れだしたら同じ光景になるだろうか。砂鉄まみれの自分を想像すると笑える。


すごく笑えてくる。なんだかとても楽しい気分になってきた。


エンジンがかかってきた。心臓の鼓動も頼もしい。


黒い粒子が集まり俺の背中に翼を作り出す。怒りと憎しみを体現したような大きく禍々しい翼。


言葉は灰となり、吐息は陽炎と化す。


舌端火を吐き、黒鉛の灰が俺を竜へと変えてゆく。


殺したい……。グチャグチャにしてやりたい……。


初めに黒竜と言っていた。


俺の生きる世界を孤影悚然とするソイツは……。



■□■


プロローグ 終

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