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魔王の聖女∞聖女の魔王

魔王の聖女


ラオとエラ


一度目ラオとエラ

二度目ラオンとカエラ

三度目ラオルとシエラ


その世界では、負の感情は魔と呼ばれ、あらゆる悪影響をひきおこす。

その世界では、世界中の魔をその身に受け入れる「魔王」と、「魔王」の受け入れた魔を浄化する「聖女」という存在が生まれる。

「人々は、国々は、世界は――私達二人の命を犠牲に平穏を享受するのだ」

魔王と聖女は尊称。

「魔王」と「聖女」は同じ母親から生まれる。

双子の水子が生まれ、5歳児ほどに姿が変わる。

誕生した時点で自我があり、言葉も話せ、自身の役目も知っている。

魔王と聖女は生まれてすぐに神殿に引き取られ、祀られる。

祠から一生外には出ない。

祠は高い高い塔。

祠に来れるのは、世話係の小間使いと教皇のみ。

魔王と聖女は負の感情を持たない。

魔王と聖女は15歳を超えて生きることはない。

大抵15年経つまでに死ぬ。

先に聖女が死に、次いで魔王が死ぬ。

「古くなった部品と同じだ。古い歯車を取り換えるように、世界は魔王と聖女を殺す。古い魔王と聖女は死に、新たな魔王と聖女が現れる」

魔を浄化することに体が耐え切れなくなり、聖女は死ぬ。

浄化する聖女がいなくなり、魔を受け入れきれなくなって、魔王も死ぬ。



・一度目

ラオとエラは魔王と聖女。

物静かで我慢強いラオと明るく無邪気なエラ

ラオは苦しみ、痛みに耐えながらも魔を受け入れ続ける

エラはラオの苦しむ姿に胸を痛めながら、少しでも慰めを与えようと浄化し続けた

本来負の感情を持たないはずだが、二人は負の感情を知っていた

短命の宿命を知りながら、自身が死ねばラオが悲しむと分かっていたエラは死なないようにと限界まで浄化を続けていた

二人は異例の15歳を迎える

しかし、無理を続けたエラは視力を完全に失い、歩くこともままならなくなっていた

それでも、ラオとのつながりによって、ラオの光だけは暗い瞳に見えていた

ラオは自分のためにエラが頑張っている事を知っており、苦悩していた

目が見えなくなっても変わらず自分を慰めるエラの姿に胸を痛め、自分が先に死ねばいいのだと塔から身を投げる

ラオとのつながりから伝わった衝撃に目が醒めたエラは、ラオの光を探して塔の窓から下を見下ろした

「遠い遠い塔の窓から、わたしがこちらを見ている……否、違う。これは、【ラオがわたしを見上げているのだ。】視界はすーっと狭くなり、暗闇に染まった。『…………いやぁああああああああ!!!』ラオの光が見えなくなった。消えた。ラオとのつながりが切れたことにわたしは狂乱した」

ラオの自殺はすぐに神殿に伝わった。

ラオが自分のために死んだのだと理解したエラはまともに生活できなくなったが、彼女はそれからも死ぬことはなかった。

魔を受け入れる魔王がいないことで、世界に魔が満ち、魔物という生き物が現れて人々を脅かし始めていた。

聖女の役目もなく、廃人同然になってそれでも死なないエラに、教皇はエラを処刑する事を決定する。

エラは死の瞬間までラオの名前を呼びながら死んだ。


・二度目

エラは前世の記憶を持って生まれた。

今世の名前はカエラ。

カエラはエラが死んだ10年後に生まれた

その世界では、魔王と聖女は生まれず、魔王のように魔を受け入れる人間が複数、また聖女のように魔を浄化できる人間が複数生まれていた

そのような人間は神殿に引き取られ育てられていた。

カエラは聖女の力を持っており、神殿で育った。

他のどの子より、聖女の力が強かった

ある時、魔王の能力を持つ一人の少年が力を暴走させ、魔に染まってしまったという

ラオンというその少年は魔物を操り、人々を脅かし始めた。

恐るべき、忌避する名前として「魔王」と呼ばれ始めた

魔王を殺すため、勇者というものが選ばれた。

そして聖女の能力が最も高かったカエラは「聖女」の称号をもらって、魔王討伐の旅にでる

旅の途中、勇者一行は魔王と邂逅尾するが逃げられてしまう

魔王を見て、カエラはそれがかつてのラオだとすぐに気がつく

「ラオン! ラオ!」と呼びかけると、一瞬魔王はカエラを見たが、すぐに視線をそらして去ってしまった。

魔王の姿に嘆きを見たカエラは、今度こそラオを救うのだという決意を固める。

「迎えに行くからね、ラオン」

そして、数多の魔物を倒し、ついに勇者一行は魔王と対峙した。

カエラは必死にラオンへ語りかけるが、魔に侵され自我失っているラオンには届かない

そこで、カエラは魔王の攻撃を身に受けるのと引き換えに、魔王を抱きしめる

そして急速に魔を浄化し始める

カエラの能力を持ってしても魔はあまりにも多く、カエラの身体も魔に侵され始める

その時、正気を取り戻したラオンが、目の前にいたエラに気づく

「……っ!? エラっ!? なんでここに……! ぼくは何を――――っ!?」

「ラオン、今のわたしはカエラ……。ずっと待たせて、ごめんね……。迎え、に来た、よ……」

魔王の攻撃を受け、魔に侵され息も絶え絶えになりながら、カエラは笑う

勇者一行が警告する中、カエラは自分の命を捧げて浄化する事を告げる

「だ、だめだっ!! そんなことしたらカエラがしんでしまうっ!! そんな、そんなのぼくはいやだっ!!」

「だいじょうぶ……。わたしが、間違ってた、の……。わたしが、先に逝かなきゃ……」

「いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!! 置いていかないで――――!」

駄々っ子のように泣き叫ぶラオンの頭を優しく撫でて

「それ、なら……一緒に、逝こう……? そした、ら……寂しく、ない、でしょう……?」

「一緒に……うん……うん……! カエラと一緒に……!」

ほとんど魔に染まりかけたカエラは、勇者に二人の首をはねるように言う。

そして、ラオンに口づけた。

その瞬間、浄化の力を最大に開放し、勇者は歯を食いしばってラオンとカエラの首を落とした。

白い閃光が広がり、聖女の能力と魔王の能力は世界に散らばった。

白い世界で、幼い姿のラオンとカエラ

手を繋いで、やっと二人になれたと喜ぶ

しかし、カエラの姿が透き通っていく

「ま、待って! だめだよ、カエラ……! いやだ、置いて行かないでっ! カエラ……! ああああぁああぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

取り残されたラオンの、魂を引き裂かれた慟哭が、白い空間に響き続けた。


・三度目

シエラは、いつもの夢を見て目を覚ます。

幼い頃から見る夢だ。

知らない青年が自分とそっくりな少女と話しており、最後には一人で泣き叫んでいる夢。

その青年にどこか懐かしさを感じるものの、シエラの全くしらない人物だった。

(シエラが生まれたのはカエラが死んで30年後の世界)

(かつての魔王と勇者、聖女のことはおとぎ話になっている)

(世界中にはもう魔王も聖女もいない。魔は動物や植物に取り付いて魔物となり、人々を脅かしていた)

(しかし、魔物の魔を魔石にできる能力を持つ人間と、その魔石を浄化して輝石にできる能力を持つ人間が生まれ、それぞれ「魔物狩り」と「輝石師」と呼ばれる職業についていた)

シエラは輝石師の素養があり、輝石師として生きていた。

(輝石師のところには魔物狩りが魔石を輝石にしてもらおうと訪れる。そして輝石にかえる料金をとるシステム)

(シエラは輝石の純度が高く、その能力の高さから「聖女」とあだ名されていた)

ある日、一人の魔物狩りの男がシエラの元を訪れる。

と、なんとその男は、夢の中で絶叫する男とそっくりだった。

男はシエラを見るなり泣き出し、抱きしめてくる。

シエラも気がつけば泣いていて、男を抱きしめ返していた。

男はラオルといい、ラオ、そしてラオンの生まれ変わりだった。

「……ずっと、ずっと探していた。ずっと君に会いたかった……!」

「わたしも……! ずっとあなたは誰だろうって……!」

「今の君の名前は……? ぼくはラオル」

「シエラっていうの。ラオル、迎えに来てくれてありがとう」

「あぁ……シエラシエラシエラ。やっと、やっと――!」

喜びを噛みしめる二人。

ラオルはその圧倒的強さと冷徹さから「魔王」と恐れられていた

そしてシエラのあだ名を聞き、二人は笑いあう

「いつまで経っても、わたし達変わらないのね」

「あぁ、何度生まれ変わっても、いつまででも、ぼくはきみ【聖女】の魔王で」

「わたしはあなた【魔王】の聖女ね」

それから二人は互いの生が尽きる時まで、共に過ごせる喜びを分かち合いました。


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